2019/10/07 挑戦者たち

株式会社 サンライズ 代表取締役 菊池 厚志 氏

神奈川・川崎で4業態4店舗を展開する株式会社サンライズの菊池厚志氏。川崎にないものを持ち込んで特色ある店を増やし、地元をおもしろくしたいという目標がある。新たな局面を迎える今、課題やビジョンを聞いた。

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個性や地方色豊かな店を増やし、外食で川崎を盛り上げたい

――様々な仕事を経験した後に飲食の道に進んだそうですね

 20歳頃までは、とび職や塗装業などいろいろな職場を転々としました。今思えば、うまくいかないことを周りのせいにする自分に問題があったのに、それに気づかず、合わないから辞めて次へ、の繰り返し。一方で、同世代の友人たちが就職をしていく姿に焦りも感じていました。そこで、今までの仕事のなかで何がいちばん楽しかったのかを思い返してみて、浮かんだのが高校時代の飲食店でのアルバイトでした。実は川崎の実家は蕎麦屋で、飲食業はもともと身近な仕事。その分、大変さもよく知っていたので、将来の選択肢にはまったく入れていませんでした。でもあらためて振り返ってみて、チームで取り組む飲食店での仕事が好きなんだと気がついたのです。

 やるからには自分の店を持ちたいと考え、比較的短期間で技術を修得できそうだと感じた串揚げ専門店で修業を開始。そこで1年働いて独立を目指すなかで、神奈川・川崎で飲食店を運営していた型無株式会社の矢野潤一郎社長と出会い、東京・学芸大学駅にあった店舗を業務委託で任せてもらえることに。先輩と共同で会社を設立し、経営について学んでいきました。実務についてはもちろん、型無での経験で大きかったのは、大人が本気で働く姿を目の当たりにしたこと。「いかに楽をするか」ばかり考えていた当時の私には衝撃的で、型無の行動指針である「自分が源」という言葉を通して、周りで起きているすべては自分の責任なのだと、人生観が大きく変わりました。

 学芸大学の店を1年ほど続けた後、生まれ育った川崎に店を開きたいという想いが強くなりました。離れたことで地元を客観的に見ることができ、人口増などマーケットとしてのポテンシャルも実感したのです。会社と店を先輩に譲って独立し、2014年、川崎駅から徒歩15分ほどの場所に8坪の物件を借り、串揚げ店を出店しました。

――駅からやや離れた立地ですが勝算はありましたか?

 勝算のあるなし以前に、そもそも物件に選択の余地がありませんでした。というのも、自己資金が50万円しかなく、銀行に何度も足を運んでようやくお金を借りられることになったのですが、物件を先に確保することが融資の条件。ところが、物件を押さえるにはお金がいる。手付金なしでも賃貸契約を結べるところをあちこち探し回り、見つけた唯一の物件でした。

 結果的にはこれが正解で、地元の知り合いが口コミで広めてくれたことで小さな店は連日満席になり、家賃も格安だったため、初月から黒字に。徐々にスタッフも増えていき、翌年には2店舗目の「華金」を川崎駅前にオープンしました。型無で学んだ、お客様目線のサービスを徹底したこともリピーター獲得につながりました。20代半ばの私たちが試行錯誤しながら店を作っていく姿を、地域の人たちが応援してくれたことも大きかったですね。

Atsushi Kikuchi 1990年、神奈川・川崎生まれ。串揚げ専門店での修業を経て、東京・学芸大学で居酒屋を業務委託経営した後、2014年に「串揚げ 華火」を川崎に出店。現在、川崎で「鮮魚と炉端焼き 魚炉魚炉」「鶏とワインHANABI」など4 店舗を展開。NPO法人居酒屋甲子園の理事も務める。

――その後は年に1店のペースで、異なる業態を出店していますね。

 同じ業態を出店するよりも、この街にないものを出して、食の選択肢を増やした方が川崎はおもしろくなると考えています。きっかけは、型無の矢野社長に誘われて居酒屋甲子園の運営に関わるようになったこと。外食の枠を超えて活動する先輩経営者の方々に刺激を受け、飲食を通じて街を盛り上げ、地域に貢献したいと思うようになりました。居酒屋甲子園の活動で全国を訪れるなかで、各地の繁盛店や食文化から着想を得て、そこに独自性を加えながら、業態を開発しています。

 その1つが、昨年1月にオープンした鮮魚と炉端焼きの「魚炉魚炉」。出店に際しては居酒屋甲子園で出会った株式会社國屋の國利翔さんにお世話になり、当社の料理長が新宿の「ろばた翔」で研修もさせてもらいました。

 現在展開する4店舗の客単価はすべて3500円以上です。チェーン店が多い川崎で低価格競争に加わる考えは最初からなく、1回転で勝負できる店にするために、例えば「魚炉魚炉」では、お通しに「本日の鮮魚5点盛」を出して素材のよさを印象付けるなどの工夫をしています。「川崎でこんな店を探していた」と言ってくださるお客様も多く、中~高価格帯の飲食店への潜在的なニーズを実感しています。

――順調に出店を重ねていますが、苦しかった時期はありますか?

 厳しかったのは、3店舗から4店舗に増えたときです。目が行き届かなくなり、目指す方向性にズレが生じてきたのを感じました。社員やアルバイトスタッフとのコミュニケーションも不足し、年度末の時期も重なって退職者が続く事態に。その反省から現在は、店舗改善について意見を交わす従来からの全体ミーティングに加えて、新たに会社の中長期的な方向性を話し合う場も設けました。また、「ありがとう」を贈るアプリを導入したことで、スタッフ同士が日ごろから感謝の気持ちやお互いのよいところを伝え合う風土が社内に根付きつつあります。また、退職者が続いた頃に人手不足を補うため、アルバイトに普段とは別の店舗に入ってもらうようにしたことが、予期せぬプラスの効果も生みました。「この人と働いてみたいからこの店に入りたい」というアルバイトが増え、定着率も上がり、シフトへの貢献が大きくなっています。業務内容だけでなく、誰と一緒に働くかがモチベーションに直結するということに気づかされました。

 困難に直面したことで、「自分にしかできないことは何か」をあらためて問い直し、目指すものを共有できるメンバーと一緒に歩もう、そのためには本音で向き合えるチームづくりをしようと決めました。それまでは「これを言うと辞めてしまうのでは」と言葉を飲み込むこともありましたが、今は必要だと思ったことは迷わず伝えるようにしています。あの苦しかった時期も、経営者として一段成長するためには必要な経験だったのだと感じています。

社内イベントなどでスタッフとのコミュニケーションを深める。この仲間たちとともに川崎を盛り上げている

――新たなステージに入り、この先に目指すものとは?

 軸にあるのは、街や地域、メンバーと「共存共栄」していきたいという想いです。そして「川崎って楽しい街だね」と言われるような状況を、外食を通して作っていきたい。具体的な方法としては、川崎を舞台に「新たな食文化を生み出し、世界へ発信する」「地方の魅力ある店を誘致する」「個人店を増やす」の3つを考えていて、これに沿った既存店リニューアルや新業態出店の計画も進めています。街をおもしろくしながら、川崎の食のリーディングカンパニーや、食の総合商社を目指したいですね。その先に、新たな働き方を提案するなど、外食の価値を変えていける会社でありたいとも考えています。

 何をやっても続かなかった自分が、10年変わらず情熱を傾けているのが飲食という仕事であり、根幹にはものづくりに携わる喜びがあります。その原点を大切に、ビジョンをブレることなく持ち続け、共有できる仲間とともに実現していきたいと思っています。

Company Data

会社名
株式会社 サンライズ

所在地
神奈川県川崎市川崎区 駅前本町2-11 都ビル3F

Company History

2014年 「串揚げ 華火」オープン(現在は売却)
2015年 「とろろ鍋×隠れ家居酒屋 華金-hanakin-川崎駅前店」オープン
2017年 株式会社サンライズ設立。「和ビストロ HANABI」オープン(現在は「鶏とワイン HANABI」に業態変更)
2018年 「鮮魚と炉端焼き 魚炉魚炉 川崎店」「鶏炉端×水炊き ◯銀(マルギン)仲見世通り店」オープン

とろろ鍋×隠れ家居酒屋 華金 ‐hanakin‐ 川崎駅前店(神奈川・川崎駅)
https://r.gnavi.co.jp/314v0xp70000/
“大人の隠れ家”がコンセプトの創作和食居酒屋。濃厚な味わいのとろろ鍋と、厳選食材を使用したさっくり軽い串揚げが二大名物。
鮮魚と炉端焼き 魚炉魚炉 川崎店(神奈川・川崎駅)
https://r.gnavi.co.jp/c2k1ejnt0000/
炉端焼きを現代風にアレンジ。その日に仕入れた旬の鮮魚を須崎備長炭で焼き上げる「本日の炉端焼き一本魚」などが人気メニュー。