2019/11/20 挑戦者たち

株式会社C.F.C.company 代表取締役 武本 一利 氏

福岡市内を中心に14 店舗を展開する株式会社C.F.C.company の代表・武本一利氏。目覚ましいスピードで成長路線を歩みながらも、この3年間は組織を強化。そして今、出店意欲を全開にする武本氏の次なる挑戦とは。

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今は自らの感性を信じて、“らしさ”を追求していきます

――飲食の道に進もうと思ったきっかけを教えてください。

 正確には、飲食を志したというより、居酒屋をやりたかったんです。中学2年生のときに親に連れられて行った居酒屋で、店員さんに「いらっしゃいませ!」と大きな声で出迎えられ、こんな仕事があるのかと衝撃を受けました。楽しそうに働く姿が印象的で、興味が芽生え、高校生になって居酒屋でアルバイトをするなかで「25歳までに自分の店を持つ」と目標を決めました。

 高校を卒業して一度は大学に進みましたが、すぐに辞めて1年間たっぷり遊んだ後、19歳で地元・福岡県飯塚市の繁盛店に社員として入社。本格的に料理の修業を開始しました。自分で選んだ道でしたが、連日深夜までの立ち仕事はきつく、同世代の友だちが遊んでいる姿が本当にうらやましかったですね。それでも、絶対に夢を叶えてやると自分に言い聞かせていました。

 2年で調理師免許を取って店を辞めた後、独立までと期限を決めて、飯塚でケタ違いに繁盛していた居酒屋「籠目×籠目(かごめ×かごめ)」で修業させてもらいました。店主の小原英範さんは、それから数年後に病気で亡くなられたのですが、今でも偉大な師匠です。感性が豊かで愛情深く、仕事への向き合い方など、多くを学びました。給与袋の裏に書いてくれる「この料理がよかった」などのメッセージが励みになり、従業員一人ひとりに目を配るリーダーとしての姿勢は、今の自分の基盤になっています。そしてその後、目標通り24歳で飯塚に居酒屋をオープンしました。

――中学生のころからの夢の実現ですね。どんな店を目指したのですか。

 25歳までにという目標を達成したい一心で、勢いだけで独立したので経営の知識も将来像もなし。資金も乏しく、人通りが少ない立地の物件を格安で借り、総合居酒屋で、とにかく活気ある店を目指しました。原価率の計算もおぼつかない状態で始めたものの順調で、2店目にはカフェを出店。続いて、「いつか天神で店を持ちたい」と話していた師匠の遺志と店名を継ぎ、「籠目×籠目」を福岡にオープンしました。

 ただ、この2店とも苦戦し、創業店の利益でやりくりする状況が1年ほど続きました。師匠の店の名前を借りた手前、店は畳めないと踏ん張りましたが、このままでは従業員の給料もあげられない。そこで腹を決め、カフェを居酒屋に、「籠目×籠目」はイタリアンバル「サンパチキッチン」に変更。さらに、創業店は人に譲り、会社と住まいを福岡市に移して再スタートしました。師匠の店に対する思い入れはありましたが、それは従業員やお客様には関係のない話。それよりも繁盛する店、お客様に喜ばれる店を作り続ける方が、師匠への恩返しになると気づいたんです。

Kazutoshi Takemoto 1982年、福岡県生まれ。高校卒業後、繁盛店での修業を経て、24歳で地元の飯塚市に居酒屋を開店。その後、福岡市内を中心にイタリアンバル「サンパチキッチン」、居酒屋「ぎょぎょすけ」、「博多一口餃子 たけとら」などを出店。現在、FCを含め14店舗を展開している。

――福岡に拠点を移したことでどのような変化がありましたか?

 福岡に腰を据えたことで、出店のスピードが圧倒的に速くなりました。また、人材育成や組織の強化などすべてにおいて、会社の成長につながりました。先輩経営者との交流の機会が増えたことも大きな要因だと思います。

 もう1つの大きな変化は、それまでの「人で売る」やり方から、「業態で売る」方針に転換したことです。「サンパチキッチン」の業態開発では、イタリアンを安く提供することを最優先に、フードとドリンクを380円均一に設定。社内にイタリアンの経験者はいませんでしたが、それを逆手にとり、「居酒屋が手がける気軽なイタリアン」を打ち出しました。当初は原価率が50~60%にもなり、回転数で勝負する状態でしたが、軌道に乗ってからは原価調整もできるようになり、現在は福岡と熊本で8店舗を展開しています。

 出店は基本的に物件ありきで、業態を後からはめるやり方です。業態開発には力を入れていて、その際に大事にしているのは、経営理念でもある「こだわりよりも柔軟な思考」。自分たちが何をやりたいかという「こだわり」ではなく、今この街で何が求められているかを見極め、柔軟な思考でそれに応えていくことを意識しています。

――ここ数年は内部強化に注力したとか。その内容や成果を聞かせてください。

 会社の方向性を話し合う定例会議の開催やアルバイト研修など、様々な取り組みを進めてきました。「TEAM OF TEAMS」を合言葉に、互いに助け合うチームを目指し、腹を割って話し合える関係作りに努め、人が育つ仕組みが整ってきた実感があります。

 実はここに至るまでの過去3年ほどは葛藤が続き、熊本に出したカフェが不調で1年で撤退するという苦い経験もしました。振り返って思うのは、カフェ出店の際、女性の雇用を進めるといった大義名分を掲げたことは、自分たちらしくなかったということ。自社の取り組みで、結果的に地域や社会へ貢献できることはすばらしいことですが、最初にそれを掲げるのは違うな、と痛感しました。会社が大きくなるにつれて、外からの見え方や評価を気にしすぎていた気がします。様々な葛藤を経て、従業員とも話し合いを重ねた末に、30代の残り3年間は、感性や直感を信じてひたすら突き進もうと決めました。そして、会社のミッションとして新たに「らしさの追求」を掲げ、今後はこれを軸にしていきます。

 師匠から学んだ、一人ひとりに目を配る大切さは今も心に留めています。創業以来、社員全員の給与明細袋の裏にメッセージを書いていて、アルバイトの分は各店長に書いてもらうようにしています。店長たちにいつも言うのは、「上の顔色をうかがうのではなく、目線は常に下に向けてスタッフを第一に考えてほしい」ということ。アルバイトたちが「この店長の下で働きたい」と思えるような人を育成することが、自分の役割だと思っています。

「居酒屋甲子園」に参加したときの一コマ。日頃からスタッフとのコミュニケーションを大切にしている

――新たなミッションのもと、今後の挑戦や目標は?

 直近の3年間で、組織を作り上げてきて準備は整ったので、今後は自分たちらしさに立ち戻り、外に飛び出していくつもりです。第1弾として、来春には札幌駅近くに新しくできる横丁への出店のお話をいただき、「博多一口餃子 たけとら」の2店舗目をオープンする予定です。誰を札幌の店に送り出すか悩みましたが、考えた末に、1カ月交代で社員を順番に1人ずつ行かせようと決めました。それも、人ではなく、業態で勝負する「自分たちらしさ」ではないかと思っています。

 博多名物の鉄鍋餃子を看板メニューにした「たけとら」は、今後も力を入れていく業態です。「サンパチキッチン」も、チャンスがあれば九州に限らず全国への出店を目指したいですね。従業員がいろいろな地域で仕事ができる選択肢を増やすことは、例えば趣味と仕事の両立など、本人が望むライフスタイルや働き方をサポートすることにもつながると思うからです。

 もう1つ目指すのは、既存のものからヒントを得て考えるだけでなく、ゼロからまったく新しい業態やスタイルを作り上げること。福岡で生まれ育った飲食人の1人として、自分たちらしさを追求しながら、福岡発のブランドを発信していきたいですね。

Company Data

会社名
株式会社C.F.C.company

所在地
福岡県福岡市中央区舞鶴2-8-6 クラージュ舞鶴101

Company History

2006年 独立し、地元の福岡県飯塚市内に居酒屋をオープン(のちに経営譲渡)
2011年 「ぎょぎょすけ飯塚店」オープン
2013年 「サンパチキッチン今泉店」など2店舗オープン
2014年 「サンパチキッチン天神店」など2店舗オープン
2015年 「サンパチキッチン小倉店」など2店舗オープン
2016年 「炉ばた しんがり」など3店舗オープン
2017年 「ぎょぎょすけ大野城店」「博多一口餃子 たけとら」など3店舗オープン
2019年 「サンパチキッチン六本松店」オープン

鉄板バル サンパチキッチン(福岡・中央区今泉)
https://r.gnavi.co.jp/bvgpm2nt0000/
フォアグラやトリュフを使った料理をはじめ、全フード・ドリンクメニューを380円(税別)で提供する。お通しのバーニャカウダも人気。
博多一口餃子 たけとら(福岡・中央区春吉)
https://r.gnavi.co.jp/gbegjwpf0000/
2017年12月オープンの餃子酒場。フロア中央の巨大鉄鍋で焼き上げる餃子は皮から手作りで、外はパリッと香ばしく肉汁たっぷり。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

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