2019/11/29 繁盛の黄金律

居抜き物件をそのまま使っては、成功しない

居抜きで新店をオープンする場合は、前の店の“匂い”や“香り”を徹底的に消すことが大前提です。例外もありますが、リフレッシュは必要です。その理由やポイントを解説します。

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Vol.99

同じ商売を引き継ぐときも、リフレッシュが必要

 外食業では、独立開業や多店舗展開の際、居抜き物件を使って自分の店を出すケースが、大変に多いです。“町中型”の飲食店は特にそうで、外食商売を何か始めようとするとき、候補に上がってくる物件は、たいてい居抜きです。水まわりの設備もあるし、客席レイアウトもそのまま使えるし、その分投資が少なくてすみます。メリットのように見えますから、ほとんどの人は「居抜きで、OK」ということになりますが、よほどの注意が必要です。

 ひと言でいうと、前の店の“匂い”や“香り”を徹底的に消せ、ということです。少しでも“残り香”があると、それが営業に大きな影響を与えることになります。安くあがるからといって、前の店を「そのまま」使うことは、絶対にやってはいけません。入口もそのまま、カウンター(席があれば)もそのまま、イスもテーブルもそのまま、食器もそのまま、新規投資は看板だけ、という形で営業を始める経営者が多くいますが、たいてい失敗します。

 前任の経営者が高齢化でリタイアして、その直弟子が同じ商売を引き継ぐ場合は、すんなりと軌道に乗るケースがありますが、その場合でもリフレッシュは必要です。お客さまは、前の主人に付いていた人たちですから、基本的にその主人が店から離れたら、その人たちも店から離れます。「私が店を受け継ぎました。一所懸命やります」と決意を述べても、よほど卓越した技術を持っているか、店舗の一新が図られていなければ、常連を続けてくれる人は、よほど少数です。

 特に前の店の経営状況がジリ貧続きの場合は、そのジリ貧をくい止めて、さらに客数増に反転させるためには、よほどの実力が必要です。やはり、投資をしっかりして、まったく新しい店として出発したほうが、成功率は高まります。

前の店との商売の連続性を完全に断つ

 “残り香”を消し去れ、と言いましたが、なぜそれが必要かというと、そのほとんどがネガティブなものだからです。前任者の廃業の理由は、その大部分は経営不振です。

 前述のように、高齢のため廃業という例もありましょうが、その場合だって、隆々と繁盛していたわけではないでしょう。業績ダウン→ジリ貧のケースが、ほとんどです。同じ商売を引き継ぐ場合でも、何もかもすっかり変える覚悟(と資金)が必要です。安くあげようなどという、ケチな考えを起こすと、虎の子の貯金を全部失うだけではすみません。あっという間に累積赤字を抱え込んで、ニッチもサッチもいかない状態に陥ります。それより何より、居抜き物件そのものに、よほどの注意が必要です。

 コロコロと借り主が変わって、そのたびに別の商売になっているような物件は、手を出さないほうがいいでしょう。立地として、どこか重大な欠陥があるのです。「両隣は流行っているから大丈夫」などと考えてしまいがちですが、そうともいえません。その物件だけがダメということが、しばしばあります。地理的要素、あるいは店の規模や形の関係で、その店だけが流行らないことがよくあるのです。

 同じ借り主が何回か商売替えをしたものの、いずれもダメだった、という場合もあります。その人の資質がダメだった、商売への熱心さが足りなかった、という理由で、商売が軌道に乗らなかった例もありますが、これも原因はやはり立地ということが多いのです。立地は悪くないというケースももちろんありますが、とにかくやらなければいけないことは、前の店の“不吉な亡霊”を追い払うことです。そのためにも、全面転換が必要なのです。改装ではなく、改造です。業種と業態の転換です。例えば前のお店が居酒屋で、それを居抜きで、また居酒屋を始めるのは賛成しません。寿司屋が、また「そのまま」寿司屋をやるのも同じです。商売の内容が同じだと、なかなか“残り香”が消せないものなのです。

 また、前の商売が立地に合っていなかったということも、よくあります。ランチでは十分集客できる立地なのに、ディナーをメインに商売していたために、十分にお客を集められなかった、というケースがしばしばあります。居抜きに限ったことではありあせんが、やろうとする商売が立地に合っているのかどうか、とことん精査しなければなりません。当たり前の話ですが。

 それから、周辺をとことん歩き抜き、人の流れとエリアの民度をつかみ、同業の店があるのかどうかも調べ尽くさなければなりません。朝、昼、夜で、立地はガラリと変わります。平日と土・日曜日でも、まったく違う相貌を見せます。また学生街などは、1年の半分は商売になりませんから、とりわけ注意が必要です。

 「やる商売が立地に合っているか、の検証」。「前の店の“残り香”を完全に消す」。「新規投資を惜しむな」。これが大原則です。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。