2019/12/27 繁盛の黄金律

「デリバリー」も「ロボット化・AI化」も危険がいっぱい

2019年10月の消費税アップや、近年の慢性的な人で不足もあり、大手チェーングループは「デリバリー」「ロボット化・AI化」を進めています。この2点に対して個人店はどう向き合えばよいかについて解説します。

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Vol.100

イートインのお客が増えなければ、デリバリーはやってはいけない

 いわゆる大手チェーングループが今、力を入れて取り組んでいることは、1つがデリバリーで売上を増やすことで、もうひとつがロボット化やAIの導入で人手不足を補うこと。この2点です。

 デリバリーは、個人店でも積極的に取り組んでいるところが増えていますが、ロボットやAIとなると、ちょっと手が出せません。ここで大きな差が出てきてしまうというよりは、チェーン店と個人店とでは、ビジネスの中身がこれからどんどん違っていくことになります。今回は、この2点(デリバリー、ロボット化・AI化)に対して、個人店がどういう姿勢で臨むべきか、について書いてみたいと思います。

 その前にまず確認しておきたいことは、外食業というものの本質です。それは、お客から注文を受けて、それから技術を持ったプロの調理人が注文品をつくり、できあがったものを即、素晴らしいサービスでお客に提供する。これを行うのが外食業です。その場でつくって即提供。つまり、最終価値を店舗での調理とサービスで生み出すのが外食なのです。確かに、外食業にも昔から出前がありましたが、出前はお客も品質劣化を承知の上で、持ってきてもらえるので便利だからという理由で、注文するものです。

 デリバリーの市場はこれからも大きくなっていくでしょうが、その市場の大部分は大手チェーングループが取ることになるでしょう。品質の劣化が進みにくい商品を開発したり、保温性が高く、荷崩れを極力防止するパッケージを製作したり、注文をセンターに集中することなどにより、各チェーンが“デリバリー力”を上げていくことは間違いありません。個人店が中途半端な「出前」をやっても、取れるデリバリー市場はほんのわずかです。個人店の人気商品は、でき立てが飛びぬけておいしく、その分、経時劣化が早いものがほとんどです。つまり、基本的にデリバリーには向かない商品が多いのです。それをあえてデリバリーで提供しようとすると、お客の手に渡ったとき、とんでもない劣化が起こっています。当然、お客は満足しません。人気商品のデリバリーほど、クレームが多くなってしまいます。行き着く先は、繁盛店の地位からの転落です。人気の失墜です。一方、イートインのお客に対しても、デリバリーをやることで、提供が遅れたり、調理が雑になってしまい、客離れが起こります。

 デリバリーの基本的な考え方は、「結果的にイートインの客数が増えるのであれば、やる価値がある」。これに尽きます。そのためには、デリバリー専門の商品と調理人と調理スペースを置くことが必須になります。しかし、そこまでやって取り組む価値があるのでしょうか。私は、ビジョンや勝算がないのなら、個人店はきっぱりデリバリーに背を向けるほうがいいと考えています。もちろん、企業としての成長戦略や、店舗の規模、また主力商品の内容などにもよりますが、イートインに徹してこそ人気が高まる可能性は高くなります。

チェーンが生み出せない個性を出し続ける

 次にロボット化・AI化は、これからどう進化していくのでしょうか。ロボット化・AI化も個人店で無理に導入しようとすると、人気下落を招きます。100坪以上の大型店であれば、ロボットの導入は可能です。運ぶことと下げることをロボットにやらせる。しかし、お客と接する部分は「人」がやらなければなりません。つまり、よりレベルの高いサービスを提供するための「お手伝い」として、ロボットを位置付けなければなりません。

 調理も同じです。単純作業をロボットにまかせることは可能ですが、これも最後の「匠の技」を高めるためのヘルパーです。あくまでも最終価値は、「人」の技術で生み出さなければなりません。繰り返しますが、外食の魅力は、店の「人」でしか生まれないのです。それを頭に叩き込んでおきましょう。チェーングループはロボット化・AI化を採用して、どんどん人手を使わないビジネスへと変質させていきます。そこへ突き進むことで、人時生産性はあがりますが、本来の外食業からはどんどん離れていきます。

 ほとんどの個人店は、チェーンの後追いをするのではなく、外食業に徹するべきです。サービスの調理技術を大事にして、「人」でしか出せない価値を高めていくのです。外食業のおもしろいところは、「人」のレベルを上げていくと、生産性も高まっていく点にあります。「人」のレベルが店の人気を高め、客数を伸ばし、客単価を上げます。ふと気付くと、少数精鋭で生産性の高い大繁盛店を生み出しているのです。チェーンは、省力化でそこそこ売って、そこそこ儲かることを追求しますから、こちらもふと気が付くと、個人店の魅力は到底出せない存在になっているのです。

 チェーンは低価格での提供力を持ち続けていますから、個人店は価格でチェーングループと戦わないことです。ひとつ上の価格帯に身を置いて、「人」の魅力で価値を生み出す存在に徹することです。厨房機器やレジのメーカーは、当然省力化の商品をどんどん出していきますから、それは利用するべきです。イノベーションはとことん使い尽くすべきです。ただしそれが、「人」が生み出す価値を引き下げるようなものであれば、どんなに便利に見えても導入してはなりません。

 デリバリーも、ロボット・AI化も、今後の外食の姿を大きく変えることは間違いありません。個人店の経営者も、その変化を見守ることは大事ですが、「うちは変わらない」という姿を鮮明にすべきです。「変わらない」ことによって、チェーンでは出せない価値を生み出す存在になることです。

 ただし、調理人の技術とサービス力を高め続ける努力は必要です。変わらないということは、一ヵ所に留まって進化しない、ということとは違うのです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。