2020/01/24 挑戦者たち

有限会社 Jack-in-the-Box 代表取締役 寺田 憲司 氏

創作居酒屋、ワインバル、焼肉など、岡山を中心に13店舗を展開する有限会社Jack-in-the-Box。自由な発想で岡山の飲食を盛り上げており、代表の寺田憲司氏は2019年「オカヤマアワード」を受賞。夢と想いを聞いた。

URLコピー

プライドを持って楽しく働ける環境を経営者として作りたい

――26歳の若さで開業されたそうですが、飲食業を志した経緯を教えてください。

 中学生のときの新聞配達のアルバイトで、働いて稼ぐ楽しさを知ったのが最初のきっかけです。頑張った分の対価をもらえることがうれしくて、夢中になりました。その影響もあって勉強することの意味がわからなくなり、高校は入学から1カ月で中退し、回転寿司店でアルバイトを始めました。魚の下処理やシャリづくりをはじめ、何でもやりました。その後、正社員になり、20歳頃までその店で働きました。

 転機が訪れたのは26歳のとき。魚以外のことも勉強しようと岡山市内の創作居酒屋で働いていた頃、同級生が居酒屋を始めたんです。なかなかの人気店で、私も何度か訪れるなかで、「自分も独立してやってみたい」と思うようになりました。その気持ちが高まり、あまりしっかりしたビジョンもないまま、創作居酒屋「我流厨房es~エス~」を倉敷市内に出店しました。

 でも最初の半年は苦戦し、本当にきつかった。今振り返ると、当時は自分が好きなことをやるという考えしかありませんでした。完全に自分本位だったと思います。当然、お客様がついてきてくれるわけがありません。この頃、なんとかこの状況を脱したいと、自己啓発本などを読み漁りました。そのなかの1冊にあった言葉から生まれたのが、今も大事にしているモットー「気配り、心配りの徹底」。自分本位で一方的に提供するのではなく、お客様の“気配”を感じ取り、“心配”することを徹底し、満足して帰ってもらうことに必死になった結果、徐々に経営は上向きに。15坪の店で、月平均500万円を売り上げる店へと成長しました。

 オープン当時は店舗展開についてはまったく考えていませんでしたが、満席で断ることがだんだん多くなり、また、働きたいと言って入店してくれる人材も増えたことから、1店舗目を出した3年後に、2店舗目の「和道我歩」(現「串カツと餃子のガッポ」)を、同じく倉敷にオープン。こちらはほぼ居抜きだったので低予算で出店することができ、1店舗目から近い立地ということもあって、比較的スムーズに経営が軌道に乗りました。

――現在は13店舗を展開。会社組織として強化を考え始めたのはいつ頃ですか?

 6~7店舗目を出店した頃くらいからですね。3店舗目からは店に立たず、経営に専念していましたが、5店舗目くらいまでは自分の理想の接客や店づくりの考え方がしっかりスタッフに浸透していました。ところが店舗のスタッフが増え、会社の規模が大きくなるにつれ、だんだん目が行き届かなくなり、きちんと理念や想いを発信する必要性を感じるようになりました。

 ただ、当社の場合は「組織」というより、漁港の「組合」のようなイメージ。ローカルの企業だからこそ、各店舗が自由にやれる環境も重要だと考えています。例えるなら、それぞれ漁に出て魚を獲るのが店舗で、必要なものをそろえ、何かあったらサポートする組合のような存在が会社。ですので、売上など数字についてはあまり厳しく言いません。それは、人間はやらされるのではなく、自分が「悔しい」と思ったときに初めて本気で頑張り、結果を残そうとすると思うから。無理矢理やらせても、自分の“スイッチ”が入らないと意味がないんですよね。

 現在は月1回、肩書きに関わらず、各店舗の代表者を集めて会議を開いています。また、社員だけでなく、アルバイトも含めた全従業員参加のLINEグループを設定。日替わりで各店舗のスタッフが思うことや気づきを投稿しています。これは、相互にいい影響を与え合い、働くことに対する意識やモチベーションを高めることが狙いです。さらに、同様の目的で社内報もLINEで配信。会社の規模が大きくなるとグループとしてのつながりが希薄になりがちですが、こうしたものがそれを補う役割を果たしています。

Kenji Terada 1977年、岡山県倉敷市出身。15歳で飲食の道に入り、2003年に独立。2006年に有限会社Jack-in-the-Box を設立。「人と街に驚きと幸せを与え続ける」を企業理念に多様な業態を出店し、現在は倉敷を中心に13店舗を展開する。今後は倉敷の活性化への貢献のほか、東京への出店も計画中。

――多様な業態を出店しているのにはどういった意図があるのでしょう?

 1つは倉敷の活性化です。街全体をおもしろくできるような店を作ることで、倉敷をより魅力ある場所に変えていきたいという想いがあるので、同じような店を増やしてもつまらない。現在、創作居酒屋、ワインバル、焼肉、炉端焼きなど、様々な店を展開していますが、今後もいろいろな業態にチャレンジしていきたいと思っています。

 もう1つは、働いているスタッフの社会的地位向上。おもしろい店を出して、チャレンジし続ける会社に所属することで、飲食業を楽しいと思ってもらいたいし、仕事に誇りを持ってほしい。そういった意味もあり、社員を連れて大阪や神戸などを中心に頻繁に視察に行きます。そして、彼ら発信で新しい店の出店を決めることもあります。2017年オープンの「熟成焼肉にくまにあ」や、2019年オープンの「魚のとりやまさん」は、それぞれ店長を務める社員のアイデアで生まれました。私は次の展開を考えつつ、社員から「やりたい」という声が上がってきたら成功事例を調べるなど、できる限りサポートできるよう努めています。

 実は、これまで飲食に携わってきて、この仕事が本当に好きになったのはつい最近。そこには、スタッフの存在があります。自分が発信したことを彼らがしっかりと受けとめ、会社に対する愛を持ってのびのび働いているのを見ると、「自分がやってきたことは間違っていなかったんだな」と感じることができたんです。そして、初めて「飲食の仕事が好きだ」と心から言えるようになりました。だからこそ、この好きな仕事をより多くの人に、プライドを持って働いてもらえる環境を、経営者として整えていきたいと強く感じています。

 そのために実現したいことの1つが東京出店です。東京に店を出すことで、社員にとってはいろいろな可能性が広がるだろうし、何より会社や仕事に対してワクワクしてほしい。実現したら、東京店に一定期間社員を派遣し、働きながら生活できる制度も作りたい。そうやって会社としてより一層、社員の成長を手助けできるようにしていきたいですね。

2019年の新年会の様子。現在、同社にはアルバイト・パートを含め、約130名のスタッフが勤務している

――今後のビジョンや、その先に実現したいことはありますか?

 毎年テーマを決めているのですが、2019年は「会社の知名度を高める」でした。ありがたいことに、岡山県内の若手経営者を対象にした「オカヤマアワード」のグルメ部門を受賞するなど、会社として存在感をアピールできたと感じています。また、「女性従業員を増やす」ことも目標にしていましたが、現在、社員32名のうち女性は15名と約半数を占め、2020年も新たに2名の女性が社員として入社する予定です。今後も、魅力的な職場づくりに尽力したいと考えています。

 そして、2020年は「流行発信」がテーマ。観光で訪れる人たちに「倉敷に来てよかった」と思ってもらえるような貢献をしたいと考えています。会社としても「どうすればもっと街に人を呼ぶことができるか」を考えられるところまで成長できたので、飲食店を超えていろいろなことを発信し、街の資産であり続けたいと思います。

Company Data

会社名
有限会社 Jack-in-the-Box

所在地
岡山県倉敷市白楽町383-3 2F

Company History

2003年 「我流厨房 es~エス」オープン。
2006年 有限会社 Jack-in-the-box 設立。「和道 我歩」(現「串カツと餃子のガッポ」)オープン
2015年 「倉敷ワインバル 八十八商店」オープン
2017年 「熟成焼肉にくまにあ」「FURTA」オープン
2018年 「八十八商店 バンビーナ」、炉端焼きの「ほしや食堂」オープン
2019年 宅配事業スタート。「熟成焼肉にくまにあ よしはら」「魚のとりやまさん」オープン

熟成焼肉 にくまにあ よしはら(岡山・倉敷)
https://r.gnavi.co.jp/5rbt08hb0000/
一頭買いで仕入れる鳥取のブランド牛・大山黒牛と熟成肉が人気の焼肉店。古民家を改装した上質な空間で、接待や会食の利用も多い。
魚のとりやまさん(岡山・倉敷)
https://r.gnavi.co.jp/fv5e0ekg0000/
2019年11月、JR 倉敷駅から徒歩4分の立地にオープンした海鮮酒場。岡山県産タチウオなど漁港から仕入れる鮮魚メニューが売り。

※本記事の情報は記事作成時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新の情報はご自身でご確認ください。

ぐるなび通信をフォローする