2020/02/25 特集

【後編】注目シェフ クローズアップ 料理界の若き旗手にいま聞きたい、10のこと。

いま注目を集める8名の料理人。様々な分野で活躍する彼らは、これまでどんな道を歩み、日々どんなことを考え、どんな未来を描いているのか。10の質問でそれぞれの素顔を解き明かす。後編も4名のシェフを紹介する。

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【sio】オーナーシェフ 鳥羽 周作

鳥羽周作(とばしゅうさく) 1978年、埼玉県生まれ。小学校の教員から32歳で料理人へ転身。「ディリット」や「フロリレージュ」などを経て、2016年に「Gris」のシェフに。2018年、同店を買い取り、「sio」にリニューアルして独立。繊細で独創的な料理で注目を集め、「ミシュランガイド東京2020」では一つ星を獲得した。現在、「o/sio」と「純洋食とスイーツパーラー大箸」を合わせた3店舗を運営する。
sio(シオ)
東京都渋谷区上原1-35-3
https://r.gnavi.co.jp/s279sby30000/
2018年7月オープン。小田急線・代々木上原駅近くのビル1階に立地。木のぬくもりと光の優しさを感じられる内装で、テーブル席のみの全18席。昼(土・日曜日・祝日のみ)は7,000円、夜は1万円のコースを提供。

料理人を目指したきっかけ

 父が洋食の料理人で、僕も料理を作るのは好きでした。でも、子どもの頃からの夢はサッカー選手で、大学卒業後にプロの入団テストも受けましたが、契約には至らず。その後、小学校の教員をしながら社会人チームでサッカーを続けていたのですが、20代後半に入り、友人が建築家として活躍するのを見て、焦りを感じ始めたんです。このままサッカーへの未練を抱いたままくすぶっているより、新しい世界で勝負したいと思い、自分がプレーヤーとして輝ける仕事を考えた結果、料理人を目指すことにしたんです。

 まず、東京・代官山のカフェなどで働いた後、もっと高いレベルの知識や経験を得たいと思うようになり、以前から友人に勧められていたイタリアン「ディリット」(東京・神楽坂)の門を叩きました。シェフの坂内正宏さんには「料理とは何か」「おいしいとは何か」を、1から10まで教えてもらいました。僕の場合、料理人としてのスタートがかなり遅かったので、人の何倍も考えながら働くようにして、少しでも早く技術や知識を身につけようと必死でした。

独立の経緯と独立で重要だと思うこと

 「ディリット」で3年修業した後、川手寛康シェフのスペシャリテ「チョコレートのオムレツ」に衝撃を受けて、「フロリレージュ」(東京・青山)へ。ここでは素材の組み合わせとお客様へのプレゼンテーションを学びました。さらに、イタリアン「タクボ」(東京・代官山)のスーシェフ、モダンフレンチ「Gris(グリ)」(東京・代々木上原)のシェフを務め、「Gris」を買い取るかたちでリニューアルし、2018年に「sio」をオープンしました。

 独立を考えるうえで重要なのは、自分は独立に向いているか、経営ができるタイプかを客観的に判断すること。料理だけに集中する方が向いている人や、二番手として最高の働きをする人もいます。何事も80%までは努力でいけますが、残りの20%はやはり才能が必要だと思うので、自分の特性や強み、弱みを把握することが大切。加えて、腹を決めてやり抜くこと。戦術を考え、電卓をはじいて、勝算ありと踏んで店を始めても、想定外のことは必ず起きます。僕も、どうやって運転資金を調達するか真剣に悩んだ時期がありました。でも「人からは絶対借りない」と決め、がむしゃらに働いて何とか乗り越えたんです。そのときは神様から「料理を続けていいよ」と言われた気がして、自信がつきました。

“幸せの母数”を増やすため、店舗展開と人材育成に取り組む(鳥羽氏)

自身の料理スタイル

おいしさの本質を追求するために、これまで学んだ技術やアイデアで、いかに素材を最大限活かせるか考えています。コースは、1本の映画を見るように、10皿の起承転結を楽しんでいただきたい。帰りの電車で、一緒に食事をした人と感想を語り合う時間も含めてプロデュースしたいと考えています。

成長につながった成功や失敗

 2019年には2店舗を新規出店するなかで、人を雇うということについての難しさを痛感しました。特に感じたのは、「自分ができた努力や働き方を、今の若いスタッフもできると思うのは間違いだ」ということ。朝から晩まで料理について考えられる人もいるけど、そうでない人もいるということを認め、彼らをどう活かし、チームとして同じ方向を向けるようにするのか。コミュニケーションの方法も含めて、より真剣に考えるようになりました。

日々、習慣にしていること

 夜、決まったコースを2時間かけて歩くようにしています。最初の1時間は、その日あった嫌なことや消化できなかったことに向き合い、負のエネルギーを次の日に持ち越さないための時間。残りの1時間は、メニュー開発などのアイデアを練るクリエイティブな時間として使っています。店にはスタッフが、家には家族がいて、1人になる時間が意外と少ないのがその理由です。そういう時間を作ることで、何かを生み出そうという意識も働きますし、歩くことでリフレッシュにもなります。

スペシャリテ、自慢の一品

「鳩のロティ」。ローストしたムネ肉と網焼きしたモモ肉の食感の違いが楽しめる。下に敷いてあるのはレバーのピューレ。仕上げにガラムマサラとポルチーニ茸のパウダーを上からかける

 個人的に大好きなハトの肉を使って、一番おいしい食べ方を追求したのが「鳩のロティ」です。しっとりとしたムネ肉のローストと、皮付きモモ肉の網焼きで、異なる食感を楽しめます。ムネ肉の皮には塩麹を塗って焼くことでパリパリに仕上げ、食感を強調。風味付けとして、ガラムマサラとポルチーニ茸のパウダーをかけています。

座右の銘、好きな言葉

 好きな言葉は「幸せの分母を増やす」。お客様はもちろん、スタッフも含めて、料理を通してできるだけ多くの人を幸せにしたい。「sio」は席数が少なく、単価も高めなので、客数も客層も限られる業態です。昨年、「sio」よりも席数が多く、カジュアルな「o/sio(オシオ)」(東京・丸の内)を出店した理由も幸せの分母を増やすため。同時に、スタッフが育ち、活躍する場所を増やすことにもなる。「sio」も含めて、僕がいないと成立しない“レストラン鳥羽”にはしたくないので、少しずつ料理を任せるようにしていて、それが会社の成長やスタッフの幸せにつながると考えています。

趣味や休日の過ごし方

 休日や空いた時間は、家族や仲間とファミリーレストランに行くのが好きです。子どもが初めてナイフやフォークを使うのもファミレスだったりしますし、食のリテラシーの根幹にかかわる業態。老若男女に愛される、究極のレストランのかたちだと思います。

目指す料理人像

 “誰のために、何のために料理を作るのか”を大切にして、もっと幸せの母数を増やしていきたい。昨年、「ミシュランガイド東京2020」に掲載して頂きましたが、そこがゴールでなくまだまだ目指すところは先にあります。今の自分たちだから表現できることをしたい。例えば、ミシュランシェフとして、ファミレスを作るのも1つの夢。幸せの分母を増やしながら色々な課題に取り組めたら最高ですね。

2020年の目標や予定

 昨年は、初の店舗展開に着手し、都内に2店舗をオープンしました。「o/sio」は、丸の内にはないタイプの新しい食堂を作ろうというコンセプト。「純洋食とスイーツパーラー大おおはし箸」(東京・渋谷)は、老若男女が楽しめる古き良き洋食を提供したいと作りました。2020年は、11月に2店舗をオープンさせる予定。1つは東京・青山に、クラシックをリスペクトしつつ“青山で今やるべき料理”を出す客単価3万円のフレンチ。もう1つは奈良にカウンタースタイルのすき焼きの店を作ります。すき焼きは、伝統料理である1方で、あまりアップデートされていない印象があります。カウンタースタイルにすることで、新しい可能性を提示できるんじゃないかと考えています。

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