2020/03/31 挑戦者たち

H VIEW 株式会社 代表取締役 中田 匠 氏

2017年に出店した日本酒バルを皮切りに5店舗を展開しているH VIEW 株式会社の代表取締役・中田匠氏。「人が辞めない外食企業」を目指し、離職率はゼロという。外食の枠に捉われない生産性向上への挑戦などを聞いた。

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飲食+αの強みやスキルを持ち、個の力を高めることが重要

――飲食業界でも販促・集客分野での経験が長いそうですね。

 大学時代に居酒屋でのアルバイトをきっかけに飲食業に興味を持ち、最初に就職したのが、飲食店のWeb販促や集客をサポートする会社でした。その後、24歳のときに学生の頃からの仲間と飲食企業を創業。そこでもWebを活用した店舗戦略に注力し、複数の新店立ち上げ・統括を経験するとともに、経営全般を学びました。会社の目標として100店舗、売上100億円を掲げていたのですが、次第に自分の中で、違う方向を目指したいという思いが強くなり、独立を選びました。店舗数を増やすことよりも1店1店の個性が光る、おもしろい店を作っていきたいと考えたのです。

 約2年の準備期間中に、開業した際の理念や経営方針を固めつつ、共感してくれる仲間を集めました。軸に据えたのは「日本でいちばん人が集まり、人が辞めない外食企業を作る」という信念。さらに並行して、首都圏全域を視野に物件探しも進めました。それまでの経験から、エリアごとにいくらの広告予算でどれくらい認知度が上がり、何人の来店につながるのかというデータやノウハウがあり、いくつかの選択肢の中から費用対効果の高さを考えて決めたのが東京・神保町でした。幸いにも希望通りの居抜き物件を駅近くの路面で見つけることができ、2017年2月、日本酒バル「Mr.happy」を仲間6人とオープンしました。

――日本酒が売りの業態を選んだ経緯や店づくりで力を入れたことは?

 日本酒を飲む人を増やして流通量を上げることが、飲食店が地方活性化に貢献するいちばんの近道になるはず。そう思ったことが、この業態に決めた理由の1つです。私は山梨の山間部出身で、通っていた小学校は当時200人ほど児童がいましたが、平成の間に1桁まで減り、2019年にはついに廃校になりました。過疎を身近な問題として感じていることが、地方活性化への強い想いにつながっています。

 「Mr.happy」では、日本酒を飲んだことのない層へのアプローチを狙い、その中でも拡散力が見込める「27歳のOL」をターゲットに据えました。全国から60種以上そろえる日本酒は、おためしサイズが240円からと、気軽に味わえる価格で提供。日本酒についてはスタッフも全員がビギナーなので、あえてその点を活かし、素人目線で味の特徴をわかりやすく説明したり、飲みやすい種類をおすすめしたりと工夫を重ねました。こうした狙いが当たり、オープンから間もなく経営を軌道に乗せることができました。

 翌年、立川と蒲田に“日本酒ビストロ”を出店。続いて2019年末、西新宿にクラフトビールの店を出しました。これも地方活性化を意識して選んだ業態で、日本各地の魅力あるクラフトビールを樽生で提供しています。今年1月には5店舗目の「居酒屋アバンギャルド」を立川にオープンしました。

 これらの店舗は、一等立地、二等立地、路面店、空中階など、あえて異なる立地条件を選んでいます。成功例を踏襲して出店を図るのではなく、多様な立地や業態でノウハウを蓄積し、今後もそれぞれに個性的で持続可能な店を作りたいと考えたからです。

Takumi Nakada 1987年、山梨県生まれ。10代の頃にアルペンスキーのジュニア五輪に出場。大学卒業後、飲食のコンサルティング会社や、創業メンバーである株式会社クリエイティブプレイスを経て、2017年に独立。現在、「Mr.happy」など5店舗を運営。飲食店プロデュースなども手がける。

――目標に掲げる「人が辞めない企業」を具体的にどう追求しているのですか?

 もっとも重要なのは、理念や目標を共有できる、価値観の近い人を採用することだと考えています。これまで社員の採用に求人広告費をかけたことはなく、直接的、または間接的な人のつながりを生かしたリクルーティングを徹底しています。また、各自の希望に合った働き方ができるように、出勤日数や勤務時間帯などは選択肢を複数用意し、そこに当てはまらなければ新たに就業プランを作ります。社員は現在24名で、創業以来、離職者はゼロ。5店舗ともスタッフはほぼ全員が社員という状態です。社員比率を高くしているのは、外食企業が直面しやすいアルバイトのモチベーションコントロールの課題に対して、その要因自体を削ろうという発想からです。

 加えて、全店舗共通して、お客様と積極的にコミュニケーションを取るような店づくりをしているという点も、「人が集まり、辞めない」ことに大きく影響しています。お客様を神様扱いせずにフランクに会話し、リピーターを「知人」と呼んでいます。どの店も、居合わせた人同士が仲良くなれるホームパーティのような雰囲気があり、そこに心地良さを感じて来てくださるお客様との交流は、スタッフにとってのやりがいや働く楽しさにも直結します。私自身もお客様とコミュニケーションを取ることが好きで、今も店舗を回りながら月20日ほど現場に立ちます。そしてもう1つ、人がやりがいを持って長く働くためには、「利益の出る楽しい仕事」であること。そのためにも、生産性を最大限に上げることが非常に重要だと考えています。

――では、日々の営業においても生産性を最重視しているのでしょうか。

 そうではなく、生産性を追求するのは、店舗運営とは別の部分においてです。端的に言うと「外食×異なる要素」のかけ合わせで、新たな価値を生み出そうと考えています。例えば、培ってきた出店戦略や組織作りなどのノウハウを商材とし、これを販売するコンサルティング業にも最近は力を入れています。ほかにも店舗スペースの貸し出しや、不動産会社とタッグを組んだ事業なども展開しています。

 あわせて、スタッフ一人ひとりが「飲食のプロ+α」の強みやスキルを磨き、個の力を高めることも大切だと考え、そのための金銭的・時間的サポートにも力を入れています。すでに酒造りを学んだり、飲食人兼プロカメラマンを目指したりと、それぞれが挑戦を続けています。インドでスパイスを勉強してきた社員は、新たに立ち上げたカレーのケータリング事業の責任者に就きました。

 個の力を高めた結果、スタッフが独立を希望するのであれば、必要なノウハウは惜しみなく提供するつもりです。その一方で、「独立するよりここに残った方がいい」と思ってもらえる魅力ある企業にできるかどうかが、私の勝負どころだと思っています。

京都にある酒蔵・松井酒造をスタッフとともに訪れた際の一コマ。彼らの個の力が会社の成長を支えている

――幅広い事業を手がけるなかで外食に感じる可能性やおもしろさは?

 外食という仕事は、AIがどれだけ台頭しても、なくならない職業だと思います。人にしかできない仕事であることは、ほかに代えがたい大きな魅力です。そして、我々がいま取り組んでいるように、店舗営業以外でも利益を生む仕組みを作り上げることができれば、店長の年収1000万円も不可能ではないはず。飲食業を夢のある仕事にするためにも、必ず実現したいですね。

 今後、会社として酒造りにも本格的に取り組みたいですし、宿泊施設を備えたレストランを地方に作りたいとも考えています。スタッフの個の力をさらに伸ばすサポートをしながら、自分自身もその手本となれるよう、常に学び続け、柔軟な発想で挑戦を重ねていきたいと思っています。

Company Data

会社名
H VIEW 株式会社

所在地
東京都千代田区神田神保町1-4-4 コンフォートKビル1F

Company History

2017年 1号店「Mr.Happy 神保町店」オープン
2018年 「肉バル&魚バル KATSUO 立川店」オープン。
H VIEW株式会社設立。
「肉バル&牡蠣バル ほいさっさ 蒲田」オープン
2019年 クラフトビール業態「BEER BOMB」を西新宿にオープン
2020年 「居酒屋 アバンギャルド」オープン

BEER BOMB(東京・新宿)
https://r.gnavi.co.jp/gtxrbdbr0000/
厳選した樽生ビールを日替わりで18タップ用意し、創作イタリアンとともに提供。ガレージをリノベーションした独特な空間も魅力。
居酒屋 アバンギャルド(東京・立川)
https://r.gnavi.co.jp/4x8ej7880000/
今年1月オープン。三陸直送の鮮魚や地元・立川産の野菜を使う料理が自慢。ワイングラスで提供する日本酒も30種用意している。