2020/03/27 繁盛の黄金律

“暴風”が吹き荒れる今、「何でもあり」ではない。「やってはいけないこと」もある

新型コロナウイルスの影響が各地で大きく出ている今、デリバリーやテイクアウトの商品開発に力を入れる店も多いでしょう。その際に注意しておきたいことや、経営全般において意識したいことを解説します。

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Vol.103

「食べ放題」業態が大打撃。デリバリーやテイクアウトは好調

 新型コロナウイルス感染拡大による“暴風”が吹き荒れています。当分収まりそうにありません。外食業はモロに直撃を受けています。特に、食べ放題やブッフェ業態は、どの店も大幅な客数減にあえいでいます。ホテルや旅館も、予約キャンセルが相次いでおり、中でも食事がブッフェスタイルというところは、とりわけ敬遠されています。

 日本中が「引きこもり」になっていますが、外食は「家庭内外食」の傾向が強くなっているだけなのです。つまり、「家の中」にパイプを差し込める業態は強い、ということになります。その最たるものは、デリバリー(宅配)ですね。ピザや寿司などの専業デリバリーは、どこも好調です。このビジネスは、雨・雪の日が強かったり、今回のような緊急事態のときに威力を発揮したりして、普通の外食業とは好不調が異なります。普通の外食業でも、デリバリー部門を持っているところ(例えば、マクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、ガストなど)は、デリバリー部門の売上は伸びています。

 また、テイクアウトが強いファストフード(マクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、唐揚げ業態など)も、堅調傾向です。ドライブスルーもテイクアウトの一種ですが、これも強いです。ドライブスルーは、車で来て、まとめ買いをしてくれることも多いので、単価がハネ上がります。このシステムが、今回は最大限の力を発揮しています。

 テイクアウトやデリバリーが強いということで、これらに対応できる商品開発に力を入れる店が増えています。売上の減少が止まらない中で、あらゆる手を尽くすことは重要なことですが、慣れない領域に手を出すと、かえって傷を広げることにもなりかねません。このことも、肝に銘じておかなければなりません。

嵐のときこそ、経営者の器量が問われる

 テイクアウトの最大の弱点は、(デリバリーも同じですが)冷めてまずくなる点です。経時劣化ですね。どんな食品にも経時劣化は必ずありますが、「比較的まずくならない」商品もあります。ピザと寿司がその代表例です。だからこの2つがデリバリーの代表的商品になっているのです。天丼、カツ丼、唐揚げなども、時間の経過にある程度耐えられます。いずれも、テイクアウトにも強いですね。一般的には、出来立てがおいしいものほど経時劣化も大きいのです。麺や汁もの、中華メニューがそうです。パッケージがちゃんとしていて、持ち帰り後20分以内で必ず食べる、というのであれば、何とか持ちこたえられるものもありますが、基本的にデリバリーやテイクアウトには向きません。

 商品にはそれぞれの特性があります。イートイン向きの商品を、無理してテイクアウトに仕立て上げ、無理して売っても、いっときは売れても反動があります。それが怖いのです。テイクアウトを始めると、その店の看板商品ほどよく出るのですが、看板商品はその場で作って即食べてもらうからおいしく、人気が高いことが多いです。それを無理にデリバリーやテイクアウト商品にすると、悲惨な状態のものをお客様に食べていただくことになる可能性が高まります。すると店の評判は一気に下がるでしょう。新型コロナウイルスによる混乱が一段落したとき、こうした苦肉の策を打った店は、お客の戻りが極めて遅くなります。デリバリーとテイクアウトでしのいでいる間に、評判がガタ落ちになっているからです。

 例えば、ある地域に中華料理店が2店舗あり、同じような人気があったとします。A店は、デリバリーとテイクアウトを無理をして打ち出しました。そのために、(今回のような新型コロナウイルスによる)非常事態で“暴風”が吹き荒れたときも、そこそこ売上を上げていました。B店は、そういう手は一切使わず、ひらすら来店してくださったお客様に、最高のおもてなしと商品を提供していきました。もちろん、その間の売上はボロボロでした。しかし嵐が去った後、客数の回復スピードはどうでしょうか。A店よりもB店のほうが、はるかに「戻り」が早い可能性が高いです。もしかしたら、無理にテイクアウトやデリバリー商品を販売した結果、A店は真の顧客に見離されて、立ち直れないくらいの打撃を受けて、経営を続けることが難しくなるかもしれません。

 経営でいちばん大切なことは、生き延びるということです。長い年月の間には、山あり谷ありが続きます。そして今回のような、“大暴風”が吹き荒れることもあります。それをしのいで、何とか生き延びることです。それを第一優先としなければなりません。生き延びる方法として、何が正しいか。このことを、じっくりと考えなければなりません。そういう意味で、ディスカウントもあまりおすすめできません。「全品30%割引」を打ち出している企業もありますが、嵐が去った後も「30%割引をやった店」として、人々の記憶に残るでしょう。その記憶がよい記憶になるとは思えません。

 こういう時にこそ、経営者の器量が問われます。我慢できるかどうか。そして、どんなに苦しくとも、従業員を守れるかどうか。それが今、いちばん問われているのです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。