2020/04/23 繁盛の黄金律

緊急時に絶対やってはいけないこと、を明確にする

外食業に吹き荒れる強烈な逆風を乗り越えるためには、自分の店で何ができるのか、何を求められているのかを見極めることが必要です。テイクアウトを行う際にも、イートインを続ける際にも、やっていいこと・避けたほうがいいことを明確にしましょう。

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Vol.104

まったく新しいテイクアウト商品の開発も視野に

 新型コロナウイルス感染症拡大の“大暴風”は、外食業全体にさらに強く吹き荒れています。業種や立地によっては、営業続行が厳しい店も増えています。大手チェーングループも全店、もしくは一部の店を一時休業にしているところが増えています。個人店でも一時休業に入るところが多くなっていますが、絶対に廃業してはいけません。様々なケースがあると思いますが、何が何でも経営を続けていかなければなりません。ダメだと思ったら、そこでおしまいです。「意志あるところに道あり」です。どうか、頑張ってください。

 何が何でもと言いましたが、やっていいことと、悪いことがあります。基本的に、店のブランド力、評判を落とすことをやってはいけません。常連や顔なじみのお客が喜ぶことは、何でもやるべきでしょう。

 前回も書きましたが、テイクアウト(やデリバリー)に注力することは、選択肢の1つです。しかし、時間の経過とともに大きく劣化するメニューしか提供できないのであれば、それはやめたほうがいいでしょう。店の看板メニューだとしても、テイクアウト向きかどうかを熟考すべきです。商品設計そのものを、テイクアウト向けに考えなければなりません。食材の組み合わせ、ポーション、ビジュアル、包材、すべてをテイクアウト向けに作り直さなければなりません。基本的にラーメンなどの「汁もの」は、テイクアウトやデリバリーには向きません。

 テイクアウト販売するメニューは、経時劣化を少なくすること、荷崩れを防止すること、この2点が重要です。イートインとは別に、テイクアウト商品として完成度の高いものを生み出さなければなりません。これに成功すれば、将来はイートインよりもテイクアウトのほうが人気の高い看板メニューになる可能性さえあります。新しい看板メニュー、新たな収益の柱を作るという気持ちでゼロから設計する必要があります。

 繰り返しますが、イートインでいくら人気が高くても、テイクアウトに不向きな商品があります。大事なことは、テイクアウトに対応しない商品を明確にすることです。どんなにテイクアウトやデリバリーのニーズがあったとしても、「それはできません」とはっきり表明することです。その見識こそが、店の信頼を高めます。「この店は、節操なく何でもやる店ではないのだな」という安心感をお客の心に深く植え付けます。

清潔、クイック、“飲み客”なし、安心できるテイクアウトスペース、が選ばれる条件

 イートインの営業そのものが困難になっていますが、イートインを続けている店は、お客の安心・安全を第一にしなければなりません。そして、ここでもやっていいことと悪いことがあります。新型コロナウイルス感染症拡大の状況が収束した後に、店の評判が上がるかどうか、が基準になります。お客の来店頻度が上がるかどうか、です。

 例えば、食事の後に、ちょっとしたデザートを無料サービスするのは、小さなサプライズになるし、お客がリピーターとなる1つのきっかけになります。また、キッズメニューの開発・提供も大きな武器になりえます。人々の足は外食から遠のいていますが、子どもにも外食欲求はあるからです。従来、キッズメニューというと、おざなりなものが多かったように感じますが、このコロナ禍では、テイクアウトも含めてキッズメニューが集客のフックの1つになっています。「デニーズ」では4月からキッズメニューとして「サーモン丼とミニうどん(ゼリーつき)」を提供しています。回転寿司で売れ筋トップを争うのはサーモンです。そこに目をつけて、新メニューとして開発したのです。キッズメニューも、これまでとは別の視点で開発しなければいけません。

 外食に強烈な逆風が吹いている現在、「行きたくない店」と「行ってもいい店」は、はっきり分かれると言ってよいでしょう。では、選ばれる店とは、どういう条件を備えている店でしょうか。

①クレンリネス(清潔さ)が行き届いている
当然ですね。入口に消毒用のアルコールスプレーは用意してありますか? イスやテーブルなど、フロア全体を頻度高く清掃していますか? トイレの清掃も完璧ですか? 従業員は毎日新品のマスクを着用していますか? キッチン内のスタッフもしっかりマスクをしていますか? 見た目だけではなく、スタッフ全体の動きでもクレンリネスの追求が表現されていなければなりません。

②客席の間隔が十分に取られている
至急、客席のレイアウトを変更しなければなりません。感染を防ぐために、席と席の間を十分に空けるようにしなければなりません。お客の数は激減しているのですから、極端かもしれませんが、客席数は半分にしてもいいのです。特に、大人数のグループ客は少ないのですから、そういった席はクローズしていることを表示してもいいでしょう。牛丼チェーン・カレーチェーンのような、カウンターのイスが固定されている店は、1席おきに×印をつけて、隣席との間隔を空けるべきです。

③滞在時間を短くできる 
提供までの時間が長い店、コース料理などで長時間の滞在を余儀なくされる店は、現在の状況下では敬遠されがちです。どんな業態の店でも、丼メニューのようにクイックな提供ができて、喫食時間が短いメニューを開発したほうがよいでしょう。

④“飲み客”がいない
いま、居酒屋でなくても、グループの飲み客が多い店は敬遠されます。夜間の酒類の提供を自粛するよう要請されている地域もありますが、自主的に酒類の提供を制限(もしくは中止)する店も増えています。経営的に非常に厳しい店も多いでしょうが、ここは我慢です。今は“飲み客”を積極的に受け入れる時期ではありません、

⑤テイクアウトメニューが豊富
テイクアウト営業中心に切り替えるのも選択肢の1つです。メニューの条件については先述のとおりですが、また、テイクアウト客を「3密(密閉、密集、密接)」の状態でお待たせする店は敬遠されるでしょう。十分なスペースがあって、クイックな提供ができない店は、どんなにすばらしいテイクアウト商品があっても、お客は増えません。

 かつて経験したことのない状況が続いています。あらゆる知恵を絞って、どうか生き残ってください。頑張ってください。心から応援しています。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。