2020/05/29 繁盛の黄金律

日本人の外食スタイルは、根本的に変わっていく

コロナ禍は今後、飲食店の営業スタイルにも影響を与え、テイクアウトやデリバリーなどの店外売上をつくることも重要になってきます。主要ターゲットは「家」。そのポイントを探ります。

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Vol.105

サラリーマンの出勤回数は、週数回に?

 約1カ月半振りに緊急事態宣言が全面解除となりましたが、外食業への“暴風”はまだ吹き荒れています。というよりは、今回のコロナ禍で日本人のライフスタイルが根本的に変わってしまうかもしれないのですから、全体的に苦戦が続いていた外食業は、厳しいままです。どういった外食業が厳しいかというと、大きく「総合居酒屋」「バー・クラブ」「カラオケ」の3つだと考えます(食事を伴う利用シーンということで、「カラオケ」も含めました)。これらの来店客数は、今後も100%の回復はない、と考えたほうがよさそうです。

 コロナ禍で散々「ステイホーム」が叫ばれましたが、大手企業を筆頭にテレワークが普及して、業種や役職、担当業務にもよりますが、出勤停止、あるいは週に2~3日程度出勤という働き方も普通になっています。これから先も、従来のように月曜日から金曜日までの5日間すべて出勤する人は減ると考えなければいけません。繁華街やオフィス街にあるアルコールを売る店は、今の客数減が完全に元に戻る可能性は低いと、覚悟しなければならないでしょう。さらに言えば、オフィス街ではランチ客も減る、ということです。出社日の数が少なくなるのですから、当然のことです。

 「ケンタッキーフライドチキン(KFC)」と「マクドナルド」は、コロナ感染防止のためにイートインを中止しました。それにもかかわらず、KFCの4月の既存店売上は前年同月比133.1%で、マクドナルドも106.5%とアップしました。郊外のドライブスルーがある店は、車の長い列ができていました。トンカツやカツ丼の「かつや」や唐揚げの「からやま」、牛丼チェーンの郊外店も強かった。やはり、“テイクアウト力”ですね。駅前立地でも、やはりテイクアウト力です。例えば「餃子の王将」はイートインの売上は落ち込みましたが、テイクアウトとデリバリーは好調でした。もちろんその要因は「家」と連結したことで、ステイホームのファミリーのニーズをしっかりと捉えたのです。

 これからは、テイクアウトとデリバリーで一定の売上をつくれない店は厳しい、ということです。もちろん、主要ターゲットは「家」です。「家」のニーズに連結できる業種・業態なのか。「家」が求める商品を持っているのかどうかが、生き残るための重大なカギになってきます。

「家」と連結する食ビジネスを考え抜こう

 コロナ禍でもう1つ、大きく売上が下がったのがブッフェや、一部の料理が食べ放題になっているような店です。来店客がトングなどで配膳台から自由に料理を取る方式の店は、大変な客数減に見舞われています。この傾向は長く続き、こうした店も完全な客数の回復は難しいと私は思います。思い切って提供方法を変えないと、生き延びられません。

 デリバリーも一気に普及しました。この市場は大きくなっていくと思います。とはいえ、「すかいらーく」やピザや寿司のデリバリー専門店のように、自社便を持っているところはごく少数。ほとんどが外注です。便利だし、他に配達方法がないので、つい利用してしまいますが、外注することのデメリットは、
・手数料が高くつく
・お客にどのように運ばれて、お客が満足しているのか、不満を抱いているのか、さっぱりわからない(特に宅配する人の質の問題)
・注文客の情報が、宅配会社に集まってしまう(自店で情報が得られない)
というところにあります。

 「軒先を貸して、母屋を取られる」というようなことが起こりかねません。気がついた時には、宅配業の下請け製造部門になっている、ということが起こりかねません。そして、高い宅配料がお客の支払い額に転嫁され、その価格が店のイメージとして定着しかねません。これもリスクと言えます。デリバリーを外注することは、このような負の側面があることも忘れてはいけません。

 しかし、先述のように、デリバリーの市場規模が拡大していくのは間違いないことです。ステイホームといっても、家庭でしっかり毎日調理する習慣が根付いたかというと、必ずしもそうではないと思います。スーパーなどで惣菜を買ってくるか、飲食店でテイクアウトをするか、デリバリーを頼むのか、という選択はこれからも続くでしょう。

 「ミールキット」の存在も注目です。これは一次加工された食材が運ばれてきて、最後の一手間(10分以内)で完成品になる“食材セット”です。このジャンルでは、家庭で有名店の料理が味わえるという魅力から、高級店の本格的な料理もこれから市場が伸びていきそうです。パーティー需要も取り込めるミールキット。ここにはぜひ注目してください。

 重要キーワードの1つは「家」です。「家飲み」や「オンライン飲み会」など、今後は「家」がベースになる割合が高まります。家で飲む需要には、何が求められるのか。ここにも、新しい市場開拓のヒントがあります。

 飲んで、かつ、食べるという需要そのものは、変わらずあります。場所と喫食の方法が変わるだけです。外食業には大逆風が吹き荒れていますが、新しい需要が生まれているのですから、チャンスでもあります。冷静に新しい商売を考えている同業者がいることも、忘れてはなりません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。