更新日:2023.11.27
目次
・おすすめによる追加注文の効果
・「利き酒セット」で利益アップ
・ラストオーダーが狙い目
・特別サービス券で忘れられない店に
・専門店におけるトッピングの重要性
・高原価メニューはまず数量限定で!
経営や店舗運営に役立つ店舗の数字管理について、計数管理コンサルタントの東海林健太郎氏に3回にわたって教えていただいた。最終回である今回は、さらに実践的に数字管理を学ぶ。追加注文の効果をどのように図るか、利き酒セットやラストオーダー、サービス券、トッピングなど、店舗で行った販促がどのくらい利益が出るのか、例をあげて計算しながら解説する。
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おすすめによる追加注文の効果
飲食店には、「これだけは絶対食べてほしい!」というメニューがあるはずです。ここではそういったメニューの“おすすめ”効果について考えていきましょう。
A店には、自分の店の料理が大好きで、「ぜひ、このメニューは食べてください」と頑張ってお客様におすすめするスタッフがいました。そのメニューの単価は600円で、原価率34%です。このスタッフは「おすすめ用トーク」を作り、ほかのスタッフも巻き込み、店全体でおすすめ販促に取り組みました。
来店した1,280人のお客様に対しておすすめし、6人に1人の割合で注文してもらえた時、いくら利益がアップしたでしょうか?(下の表A店参照)
店全体でおすすめを行っても、ほとんど経費はかかりません。メニューの食材原価以外、全て利益になりますので、
①客単価600円×変動利益率66%=396円
おすすめメニューをお客様1人に注文いただいた時の利益は396円。そして、6人に1人の割合で注文が獲得できたので、
1,280人÷6×396円≒84,480円
約84,480円の利益アップにつながったことになります。
おすすめ販促は食材原価しかコストが掛かりませんので、大きな利益アップが期待できます。また、スタッフの行動によって変わるものなので、取り組んだ方が得策なのは明らかです。
「当店の名物メニューをご存じですか?」などの“おすすめトーク”を作り、スタッフ全員で共有して取り組んでほしいと思います。
さらに、名物メニューをおすすめすることによってお客様との距離を縮めることができれば、再来店にもつながりますので、そういった接客オペレーションも確立できればなお良いでしょう。
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「利き酒セット」で利益アップ
日本酒、焼酎、ワインなどアルコールドリンクは種類も多く、どの銘柄をチョイスすればいいか迷われるお客様も多いです。この「どれを飲めばいいかわからない」は、客単価を上げるチャンスでもあります。
日本酒であれば、升(ます)で提供すると180mlですが、それを60mlずつ3種類の「利き酒セット」で提供することで、客単価を上げることができます。これは焼酎やワインでも使えるやり方です。それでは、問題を通してその効果を見てみましょう。
B店は、日本酒の各銘柄について特徴を記載した“虎の巻”を全スタッフに配りつつ、迷っているお客様には、60mlずつ3種類の飲み比べができる「利き酒セット」をおすすめするようにしました。
この利き酒セットは3種類合わせて升酒と同じ180ml。また、この3種類は全て単品価格600円で、原価率は25%です。単品価格を50%オフにして「利き酒セット」を提供した時、利益率は何%アップするでしょうか?
まず、升酒(180ml)で1種類を提供した場合の営業利益を考えます(下の表B店-①参照)。
①単品価格600円×営業利益率75%=450円
次に、「利き酒セット」で60mlずつ3種類提供した場合(下の表B店-②参照)。
元の原価は、
②600円÷量3(1/3の量)×原価率25%×利き酒3種類=150円
3種類それぞれ単品価格の50%で提供するので、売価は、
③600円×50%×3種類=900円
利き酒セットの変動利益単価は、
④売価900円-原価150円=750円
利き酒セット(180ml)を提供した時の営業利益は、升酒(180ml)1種類を提供したときと比べ、750円÷450円=1.67倍になります。この利き酒セットを2回注文しもらえれば、単純計算で利益は1.67倍×2回=3.34倍となり、2回のオーダーで升酒3杯以上の注文をもらえるのと同じになります。どの銘柄を飲もうか悩んでいるお客様を見つけたら、ぜひ、「少量を飲み比べしてみると、好みのお酒を見つけやすいですよ」とお声がけしてみましょう。
また、利き酒セットは数種類用意しておくとより効果的です。例えば、最初は「甘め」「中辛」「辛め」の日本酒を1つずつ選んでセットに。これを飲んでもらい、例えば「辛め」が好きなお客様なら、次は「辛め」の中で、「口当たり濃厚」と「スッキリ」を飲み比べるセットなどをおすすめすると、さらに客単価アップにつながります。
お客様にとってもスタッフとコミュニケーションを取りながら、いろいろな情報をもらえると喜んでいただけ、リピートの可能性が高まります。アルコールドリンクのおすすめはコアなファンを作り、店への親近感を生んでくれるのです。
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ラストオーダーが狙い目
おすすめ販促の中で、最も利益につながりやすいのがラストオーダーです。ラストオーダーはグループの中で1人でも注文していただけると、ほかのお客様もオーダーしてくれる可能性が高い“最強の武器”です。このラストオーダーが数字的にどれくらいの効果があるのか考えてみましょう。
C店は客単価3,000円、原価率34%、人件費率27%、その他店舗諸経費合計が14%です。まずC店が通常、お客様1人からいただく利益(変動利益単価)はいくらでしょうか?(下の表C店-①参照)
①客単価3,000円×変動利益率25%=750円
次にC店は、新たにラストオーダーでおすすめするシメの名物メニューを開発しました。このメニュー単価は480円で、原価率30%。狙いどおりラストオーダーで注文された時、お客様1人からいただく利益はいくらでしょうか?(下の表C店-②参照)
シメの名物メニューをおすすめするのに、余分な人件費や諸経費はほとんど掛かりませんので、
メニュー単価480円×変動利益率70%=336円
つまり、ラストオーダーでシメの名物メニューの注文が入ると、
②通常時の変動利益単価750円+336円=1,086円
お客様1人から得られる利益は1,086円になります。
さらに、先述したように、ラストオーダーではグループの1人が注文すると、ほかの全員から注文してもらいやすくなります。例えば、4人グループの全員からオーダーが取れれば、336円×4人=1,344円利益が上がり、お客様が約1.8人(1,344円÷750円)増えるのと同じです。
では、ラストオーダーでは、グループの中の誰におすすめするといいのか? それは、入店されて席にご案内した際、最初にお声がけをして答えを返してくれたお客様です。
店側からの「今日も暑かったですね~」というお声がけに対して、「ほんと溶けそうだったよ!」などと返答してくれるのは、「あなたと話しても良いよ」というサインです。こういったお客様は、その後のお声がけに対してもほぼスルーすることはないので、ラストオーダーでも最初におすすめし、グループ全員の注文を引き出すようにしましょう。
特別サービス券で忘れられない店に
「あなたのことが好きですよ」と言われて悪い気持ちになる人は少ないと思います。この心理は、サービス券を使った販促にも活用できます。
D店は、客単価3,000円、原価率34%、人件費率27%、その他店舗諸経費合計が14%。今回、スタッフがお気に入りのお客様に渡す「次回使えるドリンクサービス券」を用意しました。このサービス券を利用してオーダーされたドリンクの原価は100円でした。このとき、利益額はいくらでしょうか?(下の表D店参照)
通常、お客様1人をもてなすためのコスト(変動費単価)は、客単価3,000円×変動費率75%=2,250円なので、
①2,250円+サービス券利用時のドリンク原価100円=2,350円
また、お客様1人からの利益(変動利益単価)は、客単価3,000円×変動利益率25%=750円なので、
②750円-サービス券利用時のドリンク原価100円=650円
サービス券を利用いただくことで、お客様1人当たりの利益は650円となり、通常と比べて100円少なくなりますが、見方を変えると、再来店につながって650円の利益を生み出してくれたとも言えます。また、お連れ様を連れてきてくれることも多いので、実際はその2倍、3倍の効果をもたらしてくれます。
誰にでも配るのではなく、特別なお客様だけに渡すサービス券には大きな意味があります。その券にスタッフが自分の名前を記しつつ、「特別な(好きな)お客様にしかお渡していない券なのですが、受け取ってもらえますか?」などコメントを添えると、お客様にとっては忘れられない店とスタッフになるでしょう。
さらに、特別なサービス券を喜んでいただけたことで、名刺をいただくことも容易になり、これは、コロナ禍の現状のような集客が厳しい時に店から発信するための貴重な顧客情報となるでしょう。
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専門店におけるトッピングの重要性
お客様と接する時間が短い専門店(ラーメン・うどん・牛丼・かつ丼など)でも、おすすめなどの販促は有効です。問題を通して考えていきましょう。
ラーメン店を営むE店はある日、トッピングの注文が多く取れた月に利益が上がっていることに気がつき、その要因を探ってみることにしました。
E店は通常、ラーメン1杯800円に対して、平均的な原価率は35%掛けており、人件費は20%、その他店舗諸経費合計は15%でした。この時、ラーメン1杯から得られる利益はいくらでしょう?(下の表E店-①参照)
全体の変動費率は70%、変動利益は30%残ることになるので、ラーメン1杯から得られる利益は、
①客単価800円×変動利益率30%=240円
次にトッピングの煮卵100円(原価10円)の利益額を計算します(下の表E店-②参照)。
煮卵をおすすめするのに余分な人件費や諸経費はかかりませんので、残る利益は
①客単価100円×変動利益率90%=90円
例えば、3人のお客様に煮卵のトッピングをおすすめして注文いただけると、利益は90円×3人=270円。ラーメン1杯の利益240円と比較すると、1人以上のお客様に来ていただけたのと同じ効果となります。
これが理解できると、最初から様々な商品がトッピングされたメニューを打ち出したり、メニューブックにトッピング商品を目立つように掲載する意味が理解できると思います。
また、ラーメン店などは接客する時間が短いため、メニューの表記の仕方やPOPでの訴求、季節商品のポスターでのアピールなど、視覚に訴求するツールも非常に大事です。
トッピングの効果を理解したE店のオーナーは、チャーシュー、煮卵、のり、メンマなどトッピング商品を山盛りにした「わがまま盛り」(販売価格380 円、食材原価90円)を開発。チャレンジ企画として、ポスターでも「完食上等!」とアピールしました。
「わがまま盛り」に余分な人件費や諸経費はかからず、コストは食材原価の90円だけなので、利益は380円-90円=290円。つまり、「わがまま盛り」トッピングが注文されると、プラス290円の利益が計上され、通常、ラーメン1杯の利益が240円(表E店-①)なので、ラーメン2杯分以上の利益になることがわかります。
トッピング以外に、食べ方を提案するのも利益を上げる1つの方法です。例えば、途中で辛味噌を足す「絶品の”味変”!」や、残ったスープに特製出汁とご飯を加える「シメはあっさり雑炊で!」など、文言を決めておすすめすると良いでしょう。
さらに、自店のメニューを「お持ち帰り用」としても用意しておくと、1人のお客様が自宅用として2人前以上購入いただけることも期待できます。
加えて、キムチやメンマなど、ラーメン店のサイドメニューやトッピングの中にも物販用として提供可能な商品は意外に多くあります。店で使っている丼(どんぶり)を買いたいというコアなファンもいるので、チャレンジしてみてください。
セットメニューで価値を訴求する
専門店では、サイドメニューと組み合わせたセット売りも重要です。前項のラーメン業態E店を例に考えてみましょう。
日本全国にはおいしいブランド米がたくさん存在し、佃煮やこだわりの卵など“ご飯のお供”も豊富です。ラーメン店で、「ご飯100円」として提供するよりも、その米の銘柄と味の特徴をしっかりアピールしつつ、卵などとセットにして提供することで、手間をかけずに客単価を上げるセットメニューができあがります。
E店の店長は、ラーメンのスープにも合う、モチっとした食感で甘味があるブランド米と、育て方からこだわった地鶏の卵のセットメニューを開発。「●●米の香りともっちりとした食感を、弾ける卵と一緒に召し上がれ!」と表記した大きな写真付きポスターを作成し、お客様に訴求しました。
このご飯と卵のセットメニューの単価は200円、原価は50円のとき、利益はいくらでしょう?(下の表E店-③参照)
①客単価200円×変動利益率75%=150円
このセットメニューの利益は1人当たり150円で、2人のお客様から頼んでいただければ、単純に利益は150円×2人=300円。ということは、E店がラーメン1杯から得られる利益は240円なので(E店-①参照)、300円÷240円=1.25人のお客様が増えたのと同じことになるのです。
素材にこだわり、その価値を訴求することで、お客様により「これも一緒に食べてみよう」と思っていただけますし、手間もさほどかかりません。専門店ではこういったセットメニューを積極的に活用し、わかりやすく訴求すると効果的でしょう。
高原価メニューはまず数量限定で!
今までの価格帯を超えた高単価のメニューを作りたい時は、最初はロスになる可能性もあるので、限定で販売することをおすすめします。また、そういった商品を作るときのポイントは、思い切って原価率を引き上げて、お様様の満足度を上げることが大切です。こちらも、例を通して考えていきましょう。
ラーメン店を営んでいるE店は通常、ラーメン1杯800円に対して、平均的な原価率は35%、人件費20%、その他店舗諸経費合計は15%。この時、ラーメン1杯から得られる利益は、客単価800円×変動利益率30%=240円(E店-①参照)です。
E店は、ブランド豚を使ったトロトロチャーシュー入りのラーメンを1日限定10食で販売することにしました。
価格は1杯2,000円で、原価率は45%、人件費20%、その他店舗諸経費合計を15%掛けました。この限定ラーメン1杯から得られる利益はいくらでしょうか?(下の表E店-④参照)
このトロトロチャーシュー入りラーメンの利益は、
①2,000円×変動利益率20%=400円
高単価メニューは原価率を上げることによって、お客様が感じる“お得感”を引き上げることができます。また、1杯当たりの利益率は通常時の30%から20%に下がりますが、利益額は240円から400円へ上がります。
高原価メニューを作る時は、最初は数量限定にしておき、人気が出れば定番化すれば良いですし、あまり注文が入らないようであればなくせばいい。まずは限定でお試しすることをおすすめします。
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