2020/08/04 繁盛の黄金律

「やっぱり、店で食べなきゃ」~イートインのお客が確実に戻り始めた~

全国的な緊急事態宣言中は、ファストフードチェーンが好調でした。宣言解除後の6月、イートイン主体のテーブルサービス業態の既存店売上上位グループを見ると、ある共通点と今後のヒントが浮かび上がります。

URLコピー

Vol.107

郊外のロードサイド店は、ファミリー狙いの店が強かった

 お店が徐々に、本来の姿の「お店」に戻り始めています。しかし、お客の戻りのいい店と悪い店の差が、はっきりと表れてきました。こういうときには、チェーングループの動向もしっかりウオッチしておかなければなりません。業界の大きな流れとその変化をつかめるからです。

 4月、5月、6月と、新型コロナの嵐が吹き荒れている間、力強い営業力を見せたのがファストフードです。マクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、モスバーガーの既存店は、3カ月ともほぼ前年同月の売上をクリアしました。この3つのチェーンが強かった理由は、
①もともとファストフードの本質は物販であったから。
②強力なテイクアウトメニューを持っていた。
③物販力をフルに発揮できるため、郊外ロードサイドのドライブスルー付き店舗を多く持つチェーンほど強さを発揮できた。
の3点です。コロナ耐性が強かったのです。

 そのほか、牛丼チェーン、とんかつチェーン、から揚げチェーンも、コロナ禍での善戦組です。イートイン中心であっても、売上全体の3~4割がテイクアウトであるため、その商品力と業態力で強さを発揮できたのです。問題は、イートンイン主体のテーブルサービスの業態です。どんなところが強かったかというと、6月の既存店売上の対前年比の数字が高い順に並べると、

  1. 焼肉きんぐ(102.4%)
  2. スシロー(97.9%)
  3. くら寿司(97.4%)
  4. 山岡家(97.1%)
  5. 餃子の王将(93.5%)
  6. 元気寿司(91.6%)

 もともと強いチェーンばかりです。もう少しこれらのチェーンの共通点を探ってみますと、
①ほとんどの店が郊外のロードサイドにある。
②主な客層はファミリー。したがって、土・日曜日の集客力が高い。
③商品・業態に圧倒的な強さがある。
の3点が浮かび上がります。

 やはり、どのチェーンも「家」に太いパイプがあったのです。コロナ禍ではテイクアウトやデリバリーに力を入れましたが、ターゲットはあくまでも「家」です。「家」から取りに来てもらうか、「家」に届けるか。ファミリーがその回復を支えたのです。

「お店で食べたい」という渇望がお客の戻りの原動力になっている。

 それでは、テイクアウト・デリバリー作戦が効果を発揮して、目覚ましい回復を遂げたのでしょうか。それは違います。実際にお店へ行くお客が戻ってきたのです。イートイン客の回復です。

 この動きをどう解釈したらよいでしょうか。地域のもともとの顧客は、“ステイホーム”でテイクアウトやデリバリーを利用していたのですが、だいぶ飽きてきたのです。例えば「餃子の王将」はテイクアウトにもデリバリーにも力を入れてきた強い中華チェーンですが、顧客はコロナ禍でそれらを利用すればするほど、「やっぱり店で食べたいなぁ」「店で餃子と生ビールで一杯やりたいよな」という潜在的な需要が高まっていきます。その渇望がどんどん高まり、5月下旬の全国的な緊急事態宣言の解除後、とうとう爆発。そして、お客が店に一気に戻り始めた――。こう解釈すべきでしょう。テイクアウトやデリバリーを利用すればするほど、「イートインへの希求」が高まる店、これが回復力のある店なのです。外食業界は、この「イートインに戻ったお客」の奪い合いの段階に入った、と見るべきでしょう。

 回転寿司もまったく同じです。強い回転寿司チェーンでは、「やっぱりお寿司は店で食べなきゃね」というファミリーの笑顔で満ちあふれています。内食・中食の我慢が限界にきて、店に駆け込んできたのです。

 作りたて感、おいしさ、ライブ感、シズル感、そしてサービス力を持っているかどうか、それがこれからの勝負になります。それらが備わっている店は、お客の戻りも堅調で、生き残ることができるでしょう。しかし、もともとその魅力がなかった店は、たとえコロナ禍が収束しても、お客は期待するほど戻ってこないでしょう。

 なぜなら、イートイン(テーブルサービス)の市場は、このコロナ禍を通じて、縮小するからです。テイクアウト主体のファストフードは、市場規模は小さくなりませんが、イートインとしてのテーブルサービス市場は確実に小さくなります。高齢化社会の進行で、その縮小はもう始まっていたのですが、コロナがそのアクセルを思いきり踏んだのです。5年後、10年後にやってくるはずだった未来が1年後に早まった、という言い方ができるでしょう。

 しかし、外食業の真の魅力は、よい食材、高い調理力、高レベルのサービス、ゆったりできる空間、大きくこの4つによってもたらされるものです。つまり、イートイン(テーブルサービス)でしか、真の外食業の魅力を打ち出すことはできないのです。

 イートインの市場は小さくなりますが、しっかりと残ります。競争は激しくなって、撤退せざるをえない店も増えていきますが、生き残った店は、この本来の外食需要をしっかりと捉えて、さらに成長していくことも可能です。もちろん、テーブルサービスとテイクアウトを並行して続けていくのもよいですが、まず生き残るためには、イートイン(テーブルサービス)でなければ提供できない本質的な価値を生み出す能力を持っていなければなりません。

 食材、調理力、サービス、空間を先ほど挙げましたが、お客からすれば、その店に行く「価値」が大事なのです。この価値の競争がこれまで以上に激しくなっていくでしょう。しかも、低価格戦略にしがみついていたチェーンが、軒並み苦戦しています。「安いだけ」では、見向きもされなくなったのです。価格戦争も、「価値のある適正価格」にフォーカスする段階に入ってきました。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。