2020/09/25 繁盛の黄金律

清潔で衛生的な店にしか、お客は戻らない

コロナ禍で逆風が吹く飲食業界ですが、集客の回復力が高い店の共通点は、「イートインのお客が戻っている」ことです。イートインの集客回復のために必要なこと、大切なことはどんなことでしょうか。

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Vol.109

お客は我慢して、デリバリー・テイクアウトを利用している

 デリバリーやテイクアウトでコロナ禍の急場をしのぎ、“ひと息ついている”店主が多いと思います。イートインのお客が減っても、これがあれば少しは安心と、ちょっと前の緊張感をすっかり失っています。これからは、デリバリーとテイクアウトの時代だと思ってはいませんか。とんでもない話です。コロナ禍が一段落したら、デリバリーとテイクアウトの需要は蒸発してしまうことを、覚悟しておかなければなりません。

 ファストフードやテイクアウト中心の店は、そっち(デリバリーやテイクアウト)が主たる商売なのですから、それはそれでいいのです。しかし、イートイン主体のお店は違います。お客は我慢して「そっち」を利用しているのです。早くお店で、できたての料理を素晴らしいサービスで、心ゆくまで楽しみたいのです。それができないから「そっち」で耐え忍んでいるのです。

 回復力の高い店の共通点は、「イートインのお客が戻っている」ことです。おそるおそる店にやってきたけれども、「やっぱり店で食べるのはいいな」と、大満足してくださるお客がいて、そのお客が「ここならば大丈夫」ということで、再び店に通い始める。こういう吸引力があるお店が、力強い回復を見せています。「そっち」に頼りすぎているお店は、いっときは売上が回復したけれども、再び下降線をたどっているところが多いです。「そっち」でお客を完全に満足させることは不可能なのですから、当然のことです。つまり、イートインの客数の回復がなければ、真の回復とは言えない、ということです。このことを頭に叩き込んでおかなければなりません。「そっち」は、あくまでも「仮の需要」です。「仮の需要」は、社会状況が変われば、消滅してしまうものです。

 イートインの集客回復のために、必要なことは何だと思いますか。
・おいしいできたての料理
・生き生きとしたスタッフの、真心のこもったサービス
 そうです。これがなければ、お客は戻ってきてくれるはずがありません。しかし、その前にもっと大事なことがあります。

トイレの汚い店にはお客は戻らない

 それは、「清潔な店舗」です。もっと厳密に言うと、コロナをとことん意識した、掃除の行き届いた安心安全な店舗です。見た目の清潔さだけではダメ、ということですね。この店はコロナにきちんと注意しているなということを、ビジュアルでもお客にアピールしなければなりません。具体的には、
・客席の間引きがしっかりできている
・入口に消毒液が用意されている(強制ではないかたちで、来店客全員が消毒液を使うような誘導がされている)
・テーブルは、お客が替わるたびにしっかり消毒されている
・テーブルの下や通路などにゴミが落ちていないか、目を光らせている
・トイレの清掃とチェックは、最低1時間ごとに行われている
この5つです。

 店全体が見た目にスカッとしていて、また、従業員が清掃・消毒に注意を払い、キビキビと働いていなければなりません。そのための労働時間が増えることは、覚悟しなければなりません。“人の間引き”をやり過ぎた店は、ぜったいに集客の回復はありません。働く人が少なく、覇気がなく、空気がよどんでいる店に、お客が戻ると思いますか。戻るはずがありませんよね。

 また、特に気をつけなければいけないのは、トイレです。多くの店が、トイレの重要さを十分にわかっていません。お客が今、いちばん神経質になっているのはトイレです。コロナ前と今とのいちばんの差は、トイレへの意識だと言っても過言ではありません。特に女性は、過敏すぎるほど過敏になっています。本当は真っ先にトイレを改装すべきなのです。狭い空間、湿っぽい床、薄汚れた便器、随所に積もるゴミ、チリ、におい。飲食店でギョッとするようなトイレに出会うことは少なくありません。店の人たちは毎日店にいるので、すっかり慣れてしまって、「こんなもんでしょ」と思っていますが、お客目線で見ると、悲惨の一言に尽きる店が多いです。慣れというものは、本当におそろしいものです。

 いつもお客の新鮮な目で自店を見ることが、いかに大事か。まさに、こういう時にこそ心がけなければなりません。とはいえ、トイレの面積を広げることはなかなかできるものではありません。しかし、本当を言うと、「拡張」も考えなければなりません。今、店にあるトイレが、時代に合っていないというところが大部分なのです。そのことを自覚しなければなりません。

 もう一度言います。お店にイートインのお客が戻らなければ、真の回復ではありません。戻ってきてくださったお客に、大満足してもらえるか。新鮮な目で、お客の目線で、常に目を光らせていなければなりません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。