2020/11/27 繁盛の黄金律

今こそ「得意」を極めよう。「不得意」には手を出すな

例えば居酒屋のような“夜型”は、夜に、調理力の高い商品としっかりとしたサービスを提供し、お客に満足してもらう店です。今はこの本来の時間帯の客数をコツコツと回復させることが重要です。

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Vol.111

苦手なことをやっても回復につながらない

 外食業は、テイクアウト・デリバリーで何とか活路を拓こうと、どこも必死です。これらのイートイン以外の販売を、アメリカではオフプレミスと言います。イートインは、オンプレミスです。プレミスとは店舗のことで、店舗外(オフプレミス)・店舗内(オンプレミス)という意味になります。

 ケンタッキーフライドチキン(KFC)やマクドナルドはなどのファストフードは、原型は物販業ですから、オフプレミスの色が強いのです。KFCなどはもともと売上の約8割がオフプレミスですから、このコロナ禍にあっても、客数、売上ともに、対前年同月比で100%を超えています。コロナに最も強いチェーンです。

 一方、ファミリーレストランや居酒屋は、テーブルサービスであり、オンプレミスです。強い商品を持つことはもちろん大事ですが、店の居心地のよさとサービスも重要な役割を果たします。時間、空間の体験型のビジネスですから、商品だけを売るオフプレミスは、もともと不得意なのです。多くの店がテイクアウト商品の開発に力を入れていますが、ファストフードのような力は発揮できません。特に、アルコールの売上比率の高い業種(居酒屋、バーなど)は、オフプレミスになじみません。やっている方も、「苦手分野だよなぁ」と思いながら、店頭でランチ弁当などを売って、少しでも売上を稼ごうとしているところが多いと思います。気をつけなければいけないのは、オフプレミスに力を入れ過ぎていると、本来の夜の営業に影響が出てしまうことです。一番お客を引き付けていた時間の集客力が、弱まってしまうのです。

「夜行性動物」は、昼間は休んで体力を温存する

 ここでは、アルコール比率の高い店を「居酒屋」と総称しますが、居酒屋は夜型の店です。“夜行性”と言ってもいいでしょう。店にはそれぞれ、得意と不得意があって、多くの居酒屋は、昼はじっくり休み、準備を整えて、夜に力を全開にする業種です。

 昼に売上を取ろうと、ランチをやったりランチ弁当を売ったりしていますが、それは不得意なことを無理してやっているのですから、夜の営業力が弱まります(もちろんスタッフの数やレベルなどによって、得意にしている店もあります)。夜の時間に、調理力の高い商品と“店格”に合ったしっかりとしたサービスを提供することで、お客に満足してもらうのが居酒屋です。その力を発揮する場が、コロナ禍で大変な打撃を受けているわけですが、逃げてはいけません。立ち直るためには、この本来の時間帯の客数をコツコツと回復させるしか道がないのです。

 慣れないランチ弁当を売っている姿を見て、そのクオリティーが低い場合、本来の店の顧客や常連はどう思うでしょうか。「やらないほうがいいのになぁ」と思う人も多いのではないでしょうか。そして、夜に店へ足を向けることをためらうようになる可能性もあります。得意を極め、不得意を捨てる。これは、商売を成功させるための大原則です。居酒屋が今やらなければならないことは、夜に来店してくださったお客に、以前と変わらない満足感を与えることです。

 居酒屋の市場は今後、小さくなるでしょう。リモートワークが進み、町の中心部の昼間人口が減るのですから、当然です。これに、高齢化社会が加わりますから、市場縮小は避けられません。一方、このコロナ禍で閉店する店が増えています。チェーングループの多くも、大幅な閉店計画を発表しています。お客の数は減りますが、同時にプレーヤー(同業者)も減るのですから、まともなことをやり続けて生き残った店には、コロナ以前よりも多くのお客様が来店してくれるかもしれません。

 そうです、今は我慢の時です。じっと耐え忍ばなければなりません。我慢の仕方は1つ。得意なことの中から、一歩も出ないことです。得意なことの価値をとにかく磨き、高めることです。これは、居酒屋以外の外食業についても、同じことが言えます。

 テイクアウトやデリバリーと相性が悪い店は、イートインのお客の満足度を高めることに、軸足を置くべきです。テイクアウトはテイクアウトで、ファストフードのような「プロの店」が山ほどあるのです。そのプロのフィールドに素人が、入念な準備なしに踏み込み過ぎると、スタッフの疲弊や店の評判の下落など、立ち直れないくらいのダメージを受けることになります。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。