今こそ〝遊楽〞を発揮して、静岡を代表する企業を目指す
――若くして会社を継いで社長に就任しました。決心した経緯は?
曽祖父は静岡・沼津で旅館を経営。その後、父が興した雄大株式会社は、静岡県内で携帯電話の販売や飲食事業を営んでいました。私は東京の大学に進学して商学を学び、企業の数字を見ることがおもしろくて、税理士を目指して会計事務所に就職。いずれは起業することも考えており、父の会社を継ぐつもりはありませんでした。
実は、税理士資格を取得するまであと少しとなったときに、父が体調を崩してしまったのです。ワインなら軽く2〜3本は空ける父が、グラス2杯で「もう飲めない」と。初めて父がいない会社を想像し、家族や社員の方々の顔が浮かんで、〝雄大〞があったからこそ今の自分があることを実感しました。このときですね、静岡に戻りたいと思ったのは。幸いなことに父は重大な病気ではなく、体調は回復し、今も元気です。
帰郷して雄大に入社し、実際に店舗で飲食業の経験を積みながら、本部の仕事にも従事しました。父は、「この先の10年、20年を社長の下で過ごすより、社長となって経験を積むほうが強くなれる」という考え方で、4年で私を社長にすると言いました。そして、入社1年後に副社長、4年後の2018年10月に社長に就任。もちろん、父はさまざまなサポートをしてくれましたが、副社長になってしばらくしてからは、細かいことは言わなくなりましたね。
税理士の勉強は、企業経営にも生きていると思います。事業の課題は売上に現れるので、やはり数字はしっかり意識します。ただ、飲食業は人の要素が大きいので、数字が全てというわけではないとも思っています。
――飲食事業をメインに据え、静岡で存在感を増しています。
現在、携帯電話ショップやカラオケ、ゴルフ場なども運営していますが、飲食事業が売上の半分以上を占めています。飲食店は食材を選ぶのも、加工して提供するのも自分たち。しかも、お客様がそれを食べる姿を目の前で見ることができます。つまり、お客様の消費に対して、最初から最後まで責任がある仕事です。だからこそ飲食店は、お客様を心から喜ばせることができる。そうやってお客様の声をダイレクトにもらえることはうれしいですし、楽しい。こんな仕事はほかにないと思います。
この飲食業の醍醐味を感じつつ、お客様に最高の時間を提供して喜んでいただくために、私自身が最も大切にして、スタッフにも伝えていることは「楽しく仕事をする」こと。スタッフが遊び心を持って仕事を楽しむことができて初めて、お客様の心に届くサービスができます。これが、社是でもある「遊楽(ゆうらく」の精神。私自身、新規出店の際や新しく入ったスタッフには、必ずこの「遊楽」について語ります。仕事に慣れないうちは、お客様に迷惑をかけることがあるかもしれないけれど、この仕事を心から楽しむ気持ちがあれば、それは必ずお客様に伝わるはず。今後もこの軸をぶらさず、スタッフと共に成長していきたいと思っています。
――社長就任後、どんな戦略で店舗を展開していますか?
これからの飲食業界は、確実に二極化が進むと思います。コロナ前から始まっていましたが、機械化やIOTの導入、フードテックがますます進み、今まで人がやってきたことが機械やAIに代わり、省人化されます。その一方で、省人化が進めば、逆に人でしかできないことの価値は大きくなる。この両方のバランスを取りながら展開することが重要と考えています。
社長に就任して1カ月後にFCでオープンした「大阪焼肉・ホルモンふたご呉服町店」は、人による接客サービスの要素が大きく、部位や焼き方などについてしっかりコミュニケーションを取ることが売り。一方、現在開発中なのが、徹底的に省人化した焼き肉店です。特急レーン、ロボット、セルフレジを駆使して、非接触・省人化を突き詰めます。感染対策にもつながるので、業態として磨き上げ、静岡から発信して全国展開も探っていきます。
さらに、コロナに対応した非接触のスタイルとして構想中なのが、新しいバー業態。バーはマスターのトークやうんちくが売りの一つですが、1杯の価格が高いので若い層にとってはハードルが高い。そこで、あえてマスターは置かず、そのうんちくをAI化したり、セルフサービスで多種類を少量から提供して、飲んだ量に応じて課金する仕組みにすれば、非接触・低料金のバー業態の実現が可能で、若い人たちの利用を増やせると思います。
同時に、もっと会社を成長させたいので、いろいろな業態にも挑戦したいですね。FCでの出店のほか、2019年11月には、「創作料理ゆうが」に続くオリジナルブランド「大衆酒場イマさん」を、JR沼津駅前にオープンしました。20〜30代のサラリーマンが仕事帰りにふらっと立ち寄れる気軽な居酒屋が、沼津にはあまりなかったからです。この店は物件が決まってから業態を考えましたが、逆に「こういう店をやりたい」という発想から、その業態に合う物件を探すこともあります。今は物件が市場に出回りやすくなっていますから、出店のチャンスと捉えています。
――飲食事業における攻めの姿勢は、コロナ禍でも変わりませんね。
コロナの影響による厳しさは当然あります。しかし、「外的要因だから赤字でも仕方がない」というわけにはいきません。「選択と集中」を徹底し、削るところは削り、方向転換が必要なら断行してきました。
例えば、宴会が中心だった「創作料理ゆうが」は、自宅での法事や宴会のニーズをつかもうと、仕出し弁当などを強化しました。また、2020年11月に静岡駅の駅ビルにオープンした「大衆食堂イマさんアスティ静岡」では、当初の計画にはなかったテイクアウトコーナーを併設。そのための商材として、唐揚げを看板料理に据えました。ほかにも、オーダーシステムなど機械化を加速さ
せ、オペレーションの効率化を追求し、新しい生活様式に対応するとともに役員報酬もカット。考えられる限りの企業努力を行って、2020年9月の決算は黒字に。コロナの収束は見えませんが、今期も当然、黒字にするつもりです。
――2021年以降、どんな夢を抱いて進んでいくのでしょうか。
夢は、雄大を静岡のトップ企業にすること。北海道に行ったとき、現地の友人が「コンビニはセイコーマートに行く。なぜなら北海道の企業だから」というのです。雄大も同じように、静岡を代表する企業になりたい。私たちには、静岡の県民性やエリアの特徴について、大手チェーンにも負けない知識と経験があります。静岡県民をより喜ばせることが、雄大にはできるはずなので、ここをもっと磨いて「静岡の企業だから雄大の店へ行く」と言われる企業に成長したいです。
同時に、地域への還元や貢献を通して、静岡の発展にも寄与したい。スタッフも静岡出身が多いですから、会社の活動を誇りに思えるような取り組みを、今後も展開していきます。
Company Data
会社名
雄大 株式会社
所在地
静岡県沼津市三園町13-35
Company History
1986年 前身となる株式会社ユーダイ設立。節電機器を開発・販売
1998年 カニ専門店「沼津甲羅本店八宏園」(FC)をオープンし、外食産業に参入
2000年 雄大株式会社に社名変更
2001年 初のオリジナル業態「創作料理ゆうが」をオープン
2020年 「大衆食堂イマさん アスティ静岡」オープン。現在、飲食店23店舗を展開するほか、携帯電話販売店などを運営
https://r.gnavi.co.jp/4xgayf440000/