2021/01/29 繁盛の黄金律

今のうちに、イートイン客の満足度を上げておこう

厳しい状況が続く外食業界。しかし、ピンチはチャンスでもあります。もう一度、イートインのお客の満足度を高めるために、飲食店の基本である「QSC」の磨き込みに力を入れましょう。その理由や心構えとは―。

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Vol.113

テイクアウトが不得意なら早めにやめる

 コロナ禍で外食業は、テイクアウトとデリバリーで何とか売上減をカバーしようとしています。成功しているところもありますが、うまくいっていないところも多いようです。大手チェーンでいいますと、マクドナルド、モスバーガー、ケンタッキーフライドチキンのようなファストフードは強いです。もともとテイクアウトが本業ですから当然です。“テイクアウト力”が高くて、郊外ロードサイド立地で、ドライブスルーを持っているところが、断然力を発揮しています。
 
 繁華街やオフィス街中心部(の特に地下や空中階)の店舗、アルコール売上比率の高い店舗(当然、夜主体の営業形態)、例えば居酒屋やバー、パブなどは苦戦しています。また、居酒屋の中でも、大箱で宴会が主力の店は、大人数の宴会客が消えてかなり厳しい状況です。こうした居酒屋も、ランチ営業を始めたり、店頭で弁当を売ったりして、何とか売上を取ろうとしています。

 もちろん、綿密な準備や勝算を持ってやることが大事です。ランチに強い店、テイクアウトに強い店、それぞれその道のプロがいるのですから、もしも不得意なことに無理してエネルギーを注ぐのであれば、なかなか売上を増やすことにはつながりません。得意なことに専念し、不得意なことには手を出さない。今こそ、肝に銘じるべき言葉です。

商品もサービスもクレンリネスも、ガタガタになっていないだろうか

 目先のコロナ対策も重要ですが、「コロナ後」に目を向けることも忘れてはいけません。コロナの収束はまだ先になるでしょうが、ワクチンが開発されたのですから、徐々にではありますが収束に向かうはずです。それまで何とか歯を食いしばって、生き残らなければなりません。「コロナ後」の準備は、言葉にすれば簡単です。飲食店の基本であるQSC(Quality=商品の質、Service=サービスや接客、Cleanliness=クレンリネス・清潔)を高め(もし下がっているようであれば元に戻し)、とりわけイートインの来店客の信頼をつかむ(取り戻す)ことです。

 言葉にすればこれだけのことですが、これが今の外食業にとっては大難事なのです。コロナ禍の嵐が吹き荒れてからそろそろ一年が経とうとしていますが、この間に大部分の外食業の、QSCのスタンダードがガタガタに崩れてしまっているからです。仕方のないことですが、人員の削減などにより、店舗の調理レベルが下がってしまったり、提供時間が遅れてしまったりしています。また、フロア(ホール)サービスも、育成・訓練不足でレベルダウン。これではイートイン客の不満も溜まる一方です。さらに、クレンリネスはもともと視覚的な清潔さを指す概念であり、コロナ対策で衛生面には力が入っているものの、改装等にはとても手が回らず、店そのものの経年による疲弊が進んでいるところも少なくありません。

 従業員を減らし、その状況でテイクアウトに力を入れているような店では、イートインのお客への対応がおざなりになっているはずです。外食業は、一部のファストフード店やテイクアウトが主力の店を別にして、イートインが本道のビジネスです。わざわざ店に食べにきてくれたお客に、熱々(もしくは適切な温度)の出来たての商品を、心のこもったサービスで提供する。これこそが価値の核心部です。

 そして、コロナ禍から立ち直るということは、とりも直さず、イートインのお客の満足度を高め、イートン客の数をジワリジワリと増やすことに他なりません。その準備ができていますか? それどころではなく、まったくできていないという店もあると思います。すっかりテイクアウトにシフトして、イートインのお客のことは忘れてしまったよ、という店も多いのではないでしょうか。

 コロナ後に起こるであろうことは、

・外食市場が小さくなる
・特に、イートイン市場が縮小する
・アルコール需要が減る
・大型宴会の需要が激減する
・飲食店の数そのものが減る
・特に、繁華街やオフィス街中心部の店の数が減る

の6つです。お客の数が減り、店の数も減るということです。苦境ですが、チャンスでもあります。テーブルサービス主体の大手チェーンは、「今」をチャンスとして捉え、イートイン客の囲い込みに全力を尽くしています。今のうちに、自店のQSCレベルを圧倒的な水準に高めておいて、コロナ後の既存店の客数を一気に伸ばすことを狙っているのです。居酒屋グループは大型店を閉店し、より立地の良い小型物件への引っ越しを進めています。小さくなるであろうアルコール市場を、適正立地、適正規模で押さえようとしているのです。

 このまま閉店に追い込まれるか、生き残れるか。その瀬戸際に立たされています。しかし、ピンチはチャンスです。もう一度、イートインのお客の満足度を高めるために、QSCの磨き込みに力を入れましょう。生き残った店は、相当手ごわいライバルです。そのことを、肝に銘じておかなければなりません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。