2021/04/23 挑戦者たち

ワンズトライン株式会社 代表取締役 山内 仁 氏

東京を中心に店舗数を増やす大阪発の「大衆酒場 あげもんや」。運営するワンズトライン株式会社の山内仁氏は、外食の世界に進んだ経緯や出店戦略などあらゆる面でユニークだ。コロナ禍での成長の理由を探った。

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コロナ禍でも立ち止まらず、〝メジャー〞の夢を実現したい

――音楽活動をされていたそうですが、飲食業を始めた経緯を教えてください。

 18歳から5年間、パンクバンドで活動し、国内外でライブを行い、途中からは自主レーベルを立ち上げてアーティストのプロデュースも手がけていました。23歳で音楽に区切りをつけた後、新たな仲間と販売代理店業をスタート。並行して飲食店のコンサルティングも始めました。バンド時代にライブで全国を巡り、その土地、その土地の居酒屋でいろいろな料理を食べてきた経験を生かそうと思ったのです。ミュージシャンをプロデュースする観点で、知り合いの店を中心に、販促やメニュー表のデザインなどを手伝いました。

 一方で、音楽でメジャーデビューを果たせなかった挫折感はくすぶり続けていて、別の道で次こそ成功をつかもうと考えたことが、飲食での独立開業という決断につながりました。メジャーデビューに当たるものとして上場を目標に定め、そこから逆算してFC展開やアジア進出を視野に業態を組み立てていきました。アジア、特に中国の投資家や経営者が魅力に思う業態は何かを考え、浮かんだのが地元・大阪名物の串カツです。さらに特色を持たせるため、天ぷら・とんかつ・から揚げも加えた4本柱で「揚げ物の総合デパート」という軸が定まりました。おいしさを徹底的に追求するため、串カツのソースはメーカーと半年がかりで共同開発。フルーツを多く配合し、そのまま飲めるような味わいに仕上げています。そのほか、パン粉、練り粉、油もオリジナルを開発。また、居酒屋業態で初めて山形の平田牧場と直接契約し、とんかつ用に三元豚を仕入れる準備を整えました。ここまですべて、1号店オープン前の話です。

――出店してから改良を加えるのではなく、準備段階で完璧を追求した理由は?

 一発勝負の音楽業界に長く身を置いてきたことが影響していますね。世に出す時点で100%に持っていくことが、自分にとっては自然でした。料理を専門的に学んだ経験はありませんが、さまざまな店を食べ歩いたり、インターネットを駆使して情報を集めたりしながら、試行錯誤して風味や食感の研究を重ね、全メニューを決めました。味の好みは主観だからこそ、自分の趣味嗜好ではなく、「この味であれば好きな人は多いはず」と、常に客観的な視点を意識しました。

 そして2017年、33歳で大阪・蒲生に1号店を出店。店名の「あげもんや」に「大衆酒場」と付けたのは、当時メディアなどで言われ始めた「今後、居酒屋は衰退する」という見方に反発する気持ちもあります。また、ファミレスなどが〝ちょい飲み〞集客に注力し始めた時期でもあり、ならば逆に、居酒屋としてファミリーの取り込みを狙うことに。家族3世代で楽しめる居酒屋をコンセプトに、子どものいる世帯が多いエリアを選び、店内には駄菓子や射的のコーナーも作りました。

 席数を削ってでも子どもが楽しめる仕掛けを凝らしたのは、将来の顧客づくりの意味合いもあります。自分自身の経験からも、幼い頃に家族でよく行った店には、大人になっても足が向きやすい。世代を越えて愛される店にすることは、FC展開の上でも重要でした。いざオープンしてみると、コンセプトやメニュー構成も含めて読みがピタリとはまり、連日ファミリーで満席に。手応えを得て、3カ月後には2店舗目をオープンしました。

Hitoshi Yamauchi 1983年、大阪府生まれ。バンド活動やアーティストのプロデュース業などを経て、飲食店のコンサルティングに従事。2017 年4 月にワンズトラ イン株式会社を設立し、大阪・蒲生に「大衆酒場 あげもんや」1 号店を出店。 現在、「あげもんや」11 店舗(FC 含む)のほか、多業態を展開中。

――2号店以降や、その後の別業態にはどのような戦略があったのですか?

 ファミリー狙いの立地で成功したので、次はFC展開に向けたモデル店舗として梅田エリアに出店しました。さらに、オフィス街など異なる立地で出店を重ね、現在、大阪市内で5店舗を運営中です。ほかの業態も展開していますが、ここにも明確な狙いがあります。弁当店を出したのは、そこで培ったテイクアウトのノウハウを「あげもんや」に落とし込むため。同様にラーメンや豚丼の業態は、「あげもんや」のランチ営業の強化に生かせます。すべては「あげもんや」ブランドを強くするためで、より正確には、FCに加盟いただくオーナー様にとっての選択肢やサービスのオプションを増やし、安定的な運営を可能にするための戦略です。

 こういった準備を経て2019年からFC募集を本格スタートし、昨年7月にFC1号店の東京・西八王子店がオープン。その後、岩手、三重、東京・町屋と続き、今年4月には東京・昭島にFC5店舗目がオープンしました。

――コロナの厳しい状況下でも着実に店舗数を増やしていますね。

 実は、昨年初めの時点でFC出店に向けて進んでいた十数件の話は、コロナですべて立ち消えに。そこから改めて「テイクアウト、ファミリー需要に強い業態」としてアピールをし直し、出店につながっていきました。

 東京のFC3店舗はいずれも郊外立地で、売上は予想を上回り好調です。コロナ禍で物件取得費が大幅に下がったことや、内外装工事を当社で行うこともあり、出店費用は800万円程度に収まります。この金額には、スタッフの採用・研修、店舗運営、細かな契約作業に至るまで、FC本部の全面サポートが含まれています。

 今後、首都圏でのFC展開を加速していく上で、直営の旗艦店も必須と考え、今年3月、神田に新店をオープンしました。オフィス街・居酒屋・大箱と、コロナの影響を強く受ける3要素がそろい、現状は厳しいものの、想定の範囲内です。家賃が安いため損益分岐点は低く、「あげもんや」メニューに加え、当社が持つゴーストキッチンの16ブランドを駆使してデリバリー事業を行うことで、利益の底上げが可能です。神田店は、これだけ厳しい条件下でも損益分岐点をクリアするノウハウを備えた会社であることを、FC加盟に関心を持つ皆さんに知ってもらうためのモデル店でもあります。戦略的に培ってきた多くのノウハウを組み合わせ、臨機応変に対応できる柔軟性が強みです。

スタッフとの飲み会の一コマ。「それぞれが挑戦する」という意味で社名は「ワンズトライン」と名付けた

――〝メジャーデビュー〞への展望を聞かせてください。

 年内に東京都内でFC6店舗の新規出店が決まっています。また、台湾・香港の企業と業務提携し、コロナが収束すればすぐに動き出せるよう準備をしています。まずは、安定した営業利益を上げるFC店を着実に増やし、土台を固めることが最優先です。この1年が勝負の年になると思っています。この先、別の業態を出すとしても、それは「あげもんや」強化のための戦略。ファミリーをターゲットとする方針も変わりません。目指すゴールがブレないからこそ、コロナ禍でも迷ったり、立ち止まったりすることなく、前に進むことができています。

 僕自身はメジャーデビュー=上場を目標に据えていますが、飲食業で何をもって「成功」とするかは人それぞれ。1店舗であっても、生涯現役でお客様を喜ばせ続けられたら、それは成功でしょう。自分がこれで良し!と思えたら成功をつかめる。この点は、人からの評価ですべてが決まる音楽とは違うところであり、それが飲食業の面白さだと感じています。

Company Data

会社名
ワンズトライン株式会社

所在地

大阪府大阪市北区芝田2-3-16 NLC北梅田ビル505

Company History

2017年 ワンズトライン株式会社設立。1号店「大衆酒場 あげもんや蒲生店」を皮切りに、計4店舗をオープン前身となる株式会社ユーダイ設立。節電機器を開発・販売
2019年 「大衆酒場 あげもんや 船場センタービル4号館店」などオープン
2020年 「豚丼TON TON新大阪店」など2店舗オープン。「大衆酒場あげもんや」のFC店舗を東京、岩手、三重にオープン
2021年 「大衆酒場 あげもんや 神田店」、「大衆酒場 あげもんや 昭島店」(FC)オープン

大衆酒場 あげもんや 船場センタービル4号館店(大阪・船場)
https://r.gnavi.co.jp/66hnrrbk0000/
平日はビジネス層、週末は近隣のマンションなどに住むファミリーを中心に集客。「串カツ食べ放題コース」(2,178 円)が人気。
大衆酒場 あげもんや 神田店(東京・神田)

東京での初の直営店として2021年3月にオープン。店内には射的や綿菓子機、駄菓子コーナーを設置。デリバリーにも注力する。