2021/05/25 特集

好調!焼肉業態に見る これからの飲食業界 成功のキーワード

飲食業界で、今、好調の焼肉業態から業界全体が参考にすべき部分はないだろうか。コンサルタントの二杉明宏氏に話を聞き、繁盛している焼肉店も取材。今後の店舗運営のヒントになる「成功のキーワード」をひもとく。

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株式会社船井総合研究所フード支援部マネージング・ディレクター上席コンサルタント 二杉明宏氏
1974年和歌山県生まれ。同志社大学大学院法学研究科修士課程修了後、2000年4月に株式会社船井総合研究所に入社。入社後は、外食産業におけるコンサルティング活動に従事。業態開発、新規出店、多店舗展開、既存ブランドのブラッシュアップなどにより、持続的な企業業績向上のプロデュースを得意とする。

【キーワード1~3】消費者ニーズ・感染予防・立地

【キーワード1】消費者ニーズとのマッチ

外食に求めるごちそう感&特別感。家で食べる頻度の少なさもプラスに

 この1年、コロナ禍により時短営業や休業、事業規模の縮小などを余儀なくされた飲食業界。その中で目を引くのが、焼肉業態の強さだ。売上の前年同月比の推移(下表)を見ると、焼肉業態は最初の緊急事態宣言下の2020年4月こそ約30%まで落ちたが、その後、急速に回復し、Go Toキャンペーンが実施された10~11月はともに前年を上回っている。2回目の緊急事態宣言下の今年2月からの回復も速かった。一方、居酒屋は2020年4月に10%以下まで落ち込み、その後の回復も緩やかで苦戦が続いている。また、ぐるなび調べによる「2021年に食べたいメニュー」(下表)でも、焼肉が1位で、ニーズの高さが読み取れる。では、なぜ焼肉は今、消費者に選ばれているのだろうか。

 株式会社船井総合研究所の二杉明宏氏は、「焼肉ニーズの高まりは、以前から見られた傾向。それがコロナ禍によって加速した」と指摘する。焼肉が選ばれる理由の一つは、圧倒的な〝ごちそう感と特別感〞だ。焼肉の主力食材である牛肉は、鶏肉や豚肉と比べると単価が高く、家庭の食卓に上る頻度も少ない。加えて、「焼肉が家庭調理のカテゴリーから消えつつある」(二杉氏)ことも理由の一つ。かつては、家のホットプレートなどで焼肉を楽しむ光景は珍しくなかった。だが、一軒家からマンションなどへの住環境の変化や、共働きの増加により、「臭いが室内に残る」「後片付けが大変」といった理由で敬遠されるように。やがて、〝食べたいけれど、家ではあまり食べない(食べられない)〞メニューの代表的な存在となり、消費者が外食の価値を強く感じる業態になったのだ。さらに今は、外食の頻度が減っているため、「少ない機会を無駄にしたくない」という心理から、満足度の高い焼肉業態が一層選ばれやすくなっている。

 とはいえ、全ての焼肉店が繁盛しているわけではなく、消費者ニーズも好調の一要因にすぎない。その他のキーワードも含めて、飲食業界全体が参考にできる要素も多い。苦境を乗り越え、次の成長につなげるヒントにしていただきたい。

【キーワード2】感染予防◎のイメージ

換気機能をいち早く、かつ具体的にアピールし、“安心感”を醸成

 感染予防策をしっかりと行うことは、今やあらゆる場所で不可欠の取り組み。飲食店では、食事する際に必ずマスクを外すため、より一層重要度は増す。「飲食店における感染予防の不徹底を気にするお客様は依然として多いです。『お店のスタッフがマスクをずらして会話をしていた』などと、クレームが入ることも珍しくありません」と、二杉氏は指摘する。

 入店時の検温や手指の消毒、客席のソーシャルディスタンス、スタッフの正しいマスクの着用などと合わせて、エアロゾルによる感染などを予防するために換気の重要性も指摘されている。多くの飲食店も換気をしているが、仮に窓を開けていても、窓から離れた奥の席までしっかり空気が循環しているかなど、把握はしづらい。その点、焼肉店はテーブルごとに吸気ダクトが付いているケースが多く、換気のための新たな設備投資や対策が最小限で済む店が多かったことや、消費者にとって目の前で換気が行われていると実感しやすいことが、他の飲食店にはない強みになったといえる。

 ただ、「換気機能の優位性自体が、消費者の来店動機に直結しているとまでは言いきれない」と二杉氏。むしろポイントは、焼肉=換気が良いというイメージを作った情報発信にある。実際、「焼肉店の中には、ダクトのメーカーと連携し『3分ごとに店内の空気が入れ替わっています』といった具体的な情報を、早い段階から積極的に発信したところもあります」と二杉氏。それを見た消費者が、焼肉店のテーブルに設置された排気設備などを思い起こし、安心感が醸成された可能性はある。

 他業態でも、消費者に安心感や信頼感を持ってもらい、選ばれやすい店になるためには、あらゆる感染予防策とともに、説得力のあるアピールが重要。目に見える予防だけでなく、換気や目に見えない対策を徹底し、それをしっかりと消費者に伝えることが肝心だ。例えば、店内の二酸化炭素濃度を測定し公表することも一案。感染予防策に積極的な店として、イメージアップを図ることもできるだろう。

【キーワード3】“ツイてる”立地での出店

郊外やロードサイドなど、住宅地に近い場所は、集客力の回復も早い

 焼肉業態がコロナ禍で好調を維持している大きな理由として二杉氏が挙げるのが、「〝ツイてる立地〞への出店が多かったこと」だ。

 〝ツイてる立地〞とは、緊急事態宣言などによる集客の落ち込みが小さく、解除後の回復も早いエリアのこと。具体的には、郊外やロードサイド、居住者が多い地域の駅前商圏などだ。一方、〝ツイてない立地〞とは、オフィス街や観光地、繁華街などで、売上の落ち込みが大きく、回復のめども立ちにくい。「例えば、東京駅周辺でも、丸の内や大手町など完全なオフィス街は、なかなか客足が戻りませんが、八丁堀など、同じオフィス街でも近くに住宅地があると比較的回復が早い傾向にあります。人が住んでいるところに近いかどうかが、ツイてる立地かどうかの分岐点」と、二杉氏は語る。

 これは、ステイホームやリモートワークが推奨され、会食や宴会の自粛が要請されたことから必然的に生まれた現象。昼のオフィス街と夜の繁華街から消えた人々が、それぞれ居住する地域でランチとディナーの店選びをしているため、立地の明暗がはっきりと分かれた形だ。「日本人の胃袋の数が急速に減ったり、サイズが小さくなったわけではなく、食べる場所が住宅地近くに偏ってしまっただけ」(二杉氏)で、これが立地による優位性につながっている。

 では、焼肉店の出店エリアはどうか。繁華街の居酒屋を業態変更して成功したケースも含めて、オフィスや繁華街にも焼肉店はあるが、「焼肉業態のメインの出店立地は、ターゲットであるファミリーが来店しやすい住宅地に近いエリア」(二杉氏)だ。その背景には、排気ダクトなど特有の設備が必要な焼肉店が、ハードの問題で繁華街の飲食店ビルなどに出店しにくいという事情もある。元々焼肉業態が郊外やロードサイドを中心に出店してきたことが、図らずも功を奏したといえる。

 立地と業態には相性があり、どんな業態でも〝ツイてる立地〞なら繁盛するとは限らない。だが、コロナ禍で変化したライフスタイルが、収束とともに完全に元に戻るとは考えにくい。「明らかになった〝ツイてる立地〞にフォーカスした出店計画なども検討の余地がある」と二杉氏は語る。

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