2021/07/30 繁盛の黄金律

経営技術をチェーンに学びつつ、個人店の武器である「調理」を磨き抜こう

外食の市場規模が縮小し続ける中、個人店が生き残るためには、経営の技術や戦略をチェーン店から学ぶ必要があります。一方で、個人店の良さである「料理」も研ぎ澄ましていかねばなりません。

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Vol.119

“無手勝流”では、個人店はチェーンに勝てない

 日本の外食業に本格的なチェーンが登場したのは、1970年のことでした。大阪万博の年です。その万博会場内にケンタッキー・フライド・チキンが出店したのですが、それがはじまりです。それ以降、外資系、国内系が入り乱れて、チェーンが一気に増えていったのです。当時は、外食市場も膨張の一途をたどっていました。

 外食市場のピークは1997年。その年に市場規模は29兆円を超えましたが、それからじわりじわりと下降していきました。今は下げ止まってはいるものの、25兆円にまで落ちています。少子高齢化(=胃袋が小さくなって、その数も減る)の時代に入ったのですから、市場が小さくなるのは当然といえば当然です。チェーンも伸びなくなっていますが、個人店はもっと大変です。お客様をチェーングループに奪われながら、そのお客様の総数が減っているのですから、厳しさは増すばかりです。
 
 同じ市場に身を置きながら、なぜ個人店が劣勢に立たされているのでしょうか。「そりゃ、資本力が違うからさ」とおっしゃるかもしれませんが、それは違います。外食業というのは、他の業界と違って、小資本で開店できます。そして、大資本と伍して戦っても、十分に勝つ可能性はあるのです。個人店もチェーン店も、戦う武器はたいして変わらないからです。事実、大手チェーンがひしめく町で、圧倒的な繁盛を誇っている小規模個人店はたくさんあります。

 一般的に個人店が弱い最大の理由は、経営の手法が“無手勝流”だというところにあります。セオリーを学ばないで、アイデアと体力だけで戦い続けている個人店が、あまりにも多い。ストリートファイターは、プロのボクサーに絶対に勝てないと言われますね。どんなに剛腕で体力があっても、ストリートファイターは、戦う戦術を1から学び、技と俊敏な対応力を身に付けたプロのボクサーにはかなわないのです。

 それと同じで、個人店も経営の原理原則を学び、徹頭徹尾、自分のものにしなければチェーングループには勝てないのです。立地開発、店づくり、客席とキッチンの比率、キッチンレイアウト、パート・アルバイトスタッフの採用と教育の手法、商品構成、値付け、ジャンル別の原価のかけ方、利益の出し方、顧客を手放さない方法、来店の頻度を上げる方法、集客力を上げる方法、多店舗展開するための鉄則…。こういった一連の経営技術は、やはりチェーングループのほうが一枚上手です。この半世紀の中で、磨き上げてきたのです。これらについては、個人店はチェーングループに謙虚に学ばなければいけません。

 個人店とチェーン店とでは、戦い方の違いはもちろんあります。しかし、共通するところも少なくありません。というよりは、ほとんど重なっていると言っても過言ではないでしょう。学べることは学べばよいのです。「商売が違う」などと言って、チェーングループの50年の蓄積を敵視する必要は、全くありません。吸収すべきは吸収すべし、です。特に、店を長持ちさせる方法は、しっかり学ばなければなりません。個人店は、いっとき繁盛させることができても、その繁盛を長く保つことは総じて苦手です。店の寿命が短いのです。

 では、チェーンが絶対的に優れているかというと、そんなことはありません。チェーンはチェーンで、固有の弱さがあるのです。

利益を追い求めすぎるのがチェーンの弱さ

 1つは、利益を追いすぎてしまうこと。いつも利益の最大化を目指して、その結果、店の肝となっている価値を殺してしまいがちです。原価を削る、人件費を削る。これにすぐ手を染めてしまうのです。また、決められた枠の中で、商品開発と値付けをしますから、超絶お値打ち商品を生み出すことも、なかなかできません。「利益を追いすぎると、利益は逃げていく」ことを知り尽くしているはずなのに、チェーンはこの愚を繰り返してきました。

 もう1つは、店舗調理から逃げたがります。外食業というビジネスは、店舗での最終調理によって価値を生み出すビジネスです。店舗調理を捨てたら、それはもう外食業ではなくなります。しかし、チェーングループは、一般的に面倒くさいこと、煩雑なことを忌避する傾向にあります。

 もちろん、何から何まで店で調理する必要はありません。外部化、集中化しても、商品の質が下がらなければ、どんどんやっていいのです。チェーングループは、それをとことん推し進めています。しかし賢明なチェーンは、最後の調理部分を必ず店に残します。店での調理技術こそが、最終武器だということを、よく分かっているのです。その大事さを認識できないチェーンは、最終調理までも捨て、自らの首をしめてしまうのです。

 逆に言えば、チェーンと対抗する最大の武器は、調理の技術だということになります。この技術を高め続け、いつ行っても安定した高質な技を提供できれば、チェーンは怖くないのです。店舗における調理の技術こそが最大の武器であることを、絶対に忘れてはいけません。

 チェーンのもう1つの弱さは、労働基準法を厳密に守らなければいけない点です。個人店だってもちろん守らなければなりませんが、「創業時の店主とその仲間」は別です。創業メンバーは寝食を忘れて働くことができます。そして、その情熱がなければ繁盛を生み出すことなんて無理です。個人店の店主ならば、誰でも死ぬほど働いた経験があるでしょう。もちろん、チェーンのオーナーも創業時には死ぬほど働いたはずです。それがあるから、今日があるのです。でも、会社が大きくなった今はそれができません。労働基準法を守れるようになったことは、一大進歩ですが、それが1つの縛りになっていることも、否定できません。チェーングループが第2、第3の新しいチェーンを生み出せない理由もそこにあるのです。死にもの狂いで働くという条件が、もはや社内では作れないのです。

 ということは? 創業メンバーが死にもの狂いで働けば、チェーンを寄せ付けない繁盛と利益につながる力を、生み出すことができます。これは、個人店のアドバンテージになりますね。でも、もちろん普通の従業員、パート・アルバイトにそれを強いてはいけませんよ。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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