2021/10/29 繁盛の黄金律

テイクアウト無しには生きていけない時代に入った

飲食店にとって、テイクアウト、デリバリーなどのオフ・プレミスが必須という時代になりました。ただ、外食ならではの商品開発、販売の仕組み作りなしには、かえってお客様が離れていくことになります。

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Vol.122

イートインのお客が100%戻ることはない

 新型コロナの感染者数は激減していますが、飲食店の退店は目立っています。平常に戻るということは、地方自治体からの協力金や助成金が止まるということです。また、特別融資の返済が始まります。無利子だ低金利だと言っても、借りたお金は返さなければなりませんから、これからこの負担が重くのしかかってきます。飲食店経営にとって、本当の厳しさはこれからです。そして、町中の飲食の空き物件も増えています。

 「開業するならば、今がチャンス」と言いたいところですが、まだ家賃は下がり切っていませんし、物件数はこれから増えていきそうです。はやる気持ちは分かりますが、自分の店を持つのは、もう少し待ったほうがいいかもしれません。

 もう1つ。本当に良い物件は、家賃は下がりません。また空き物件として出ることは少ないのです。つまり、二流の物件がドッと増えるということです。慎重な精査が必要です。焦って「ババ」を引かないように、くれぐれも注意してください。

 コロナの嵐の中で、チェーンも個店も、オフ・プレミス(テイクアウト、デリバリー、ドライブスルーなど)強化で売上減をしのいできました。では、コロナの終息でイートインのお客が元に戻るかというと、残念ながらそうはいきません。イートインのお客が100%戻ることはない、と覚悟しておかなければなりません。

外食ならではのテイクアウト商品を作る

 もちろん、戻り率は立地によって、業種・業態によっても違います。また本当に力のある店は、ごく例外的に100%イートイン客を戻せるでしょう。つまり、大方の店は、これからはオフ・プレミスで一定の売上を確保しなければならない、そういう時代に入ったのだということを、強く認識しなければなりません。簡単に言いますと、テイクアウト商品の開発・強化が必要ということですね。テーブルサービスの店も、強いテイクアウト商品を持たなければ生きていけない時代に入ったのです。

 それも、外食としてのテイクアウトでなければなりません。ここが大事です。つまり、店で作ったものでなければならないということです。出来合いの物販商品ではダメだということです。

 そのように考えると、業種・業態によって、テイクアウト商品がすぐに思い浮かぶ外食と、思い浮かばない外食とがあることに気付かされます。例えば、
・喫茶店ならば、サンドイッチ、カツサンド、ケーキ類
・寿司店ならば、押し寿司、握り寿司、ちらし寿司
・日本料理店ならば、和弁当、和惣菜詰め合わせ
・洋食店ならば、カレーセット、チキンライス、とんかつ弁当
・うなぎ店ならば、うな重
・天ぷら店ならば、天丼、天重
・中国料理・ラーメン店ならば、餃子、チャーハン
と思い浮かびますが、そば店などはなかなか思いつきませんね。居酒屋も、焼き鳥、唐揚げがありますが、通常の居酒屋メニューですと、テイクアウト商品にするのはなかなか難しいです。

 ここで注意しなければならないのは、思い浮かんだ商品のほとんどが、スーパーやコンビニで手に入るということです。しかも、外食よりもずっと安価です。ですから、「外食でしか出せないテイクアウト商品」になっていなければ売れない、ということです。

 それをもう少し具体的に言うと、店舗で調理した出来立ての商品でなければダメだということになります。もっと言うと、時間劣化しやすい商品です。

 スーパーやコンビニの商品は、工場で作ったり、早朝まとめて作ったものです。もちろんそういう商品だって時間劣化はしますが、相当劣化速度が抑えられています。外食のテイクアウト商品は、そういうものではダメなのです。

 基本的に、出来立てのほやほやで、できるだけ早く食べていただきたい、そしてレンジを使えば出来立てに近くなるようなもの、そういう要件を備えていることが必須となります。放っておくと、どんどん味が落ちる商品ですね。だからこそ、パッケージングがとても大事になります。

 つまり、外食のテイクアウト商品は、店舗調理と切っても切れない関係にあります。しかも厄介なことに、イートイン用とテイクアウト用とでは、店舗調理は微妙に違います。テイクアウト用は、イートイン用の調理の一歩手前で止めておかなければなりません。

 特に中華メニューは、そこが大事ですね。完全に調理してしまうと、野菜などがへなへなになってしまいますから。この寸止めも、ちゃんと数値化されていて、勘や気分に頼らない調理プロセスが確立されていなければなりません。

 もちろんメニューによっては(例えばカツサンドなど)ある程度の作り置きに耐えられるものもありますが、スーパーやコンビニの同類品とどこが違うのかということを、いつも意識して作らないと、外食ならではのテイクアウト商品にはなりません。

 オフ・プレミスはどこまで準備しておくか、その手順を一品一品決めておかなければなりません。イートインとテイクアウトの調理が重なると、キッチンもフロアもガタガタになります。それをどう回避するか。それも問題です。

 営業を続ける中で、一品一品の曜日別の売れ個数を確認し、それぞれの製造時間を細かく決めておかなければなりません。そうでなければ、テイクアウトの商品はなかなか出来上がらない、イートインのお客へは提供時間が遅れるで、店は大混乱。結局お客様の数は減る一方、ということになりかねません。テイクアウトで成功するためには、しっかりとした調理と販売の仕組み作りが大前提になります。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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