Vol.126
人も商品もリフレッシュしなければならない
コロナの嵐は依然吹き荒れています。イートイン主体の店は、総じて大打撃を受けています。こういう時期に一旦店を閉めて店舗の改装をしようというところが増えています。そのこと自体は間違いではないのですが、やり方が間違っている経営者があまりに多いので、今回は「改装の間にやっておくこと」について述べておこうと思います。
改装中の10日間なり半月の間、営業はできません。一般的にパート・アルバイトを雇い止めにすることが多いですが、これが「いちばんやってはいけないこと」です。新装開店したらまた働いてもらいます、ということで、改装中の売上が上がらない時期のパート・アルバイトの人件費を浮かそうとしますが、とんでもない間違いです。改装中にやるべきことがあるのです。
それは、パート・アルバイトの再教育・再訓練です。そして店長の意識改革です。働く人のリフレッシュも必要だということです。
店ばかり新しくなって、商品も働く人(の意識と能力)も改装前と同じであったらお客様はどう思うでしょう。「前と変わらないな」と思ってくれたらまだいいのですが、そうは思ってはくれません。商品と働く人が前のままだと「なんだかショボい店になったな」と思ってしまうのです。皆さんもそういう体験をしたことがあるでしょう。店ばかりがピカピカして、従業員は昔のままでやる気なし。これでは失望感は倍化してしまいます。
店のリフレッシュも大事ですが、それ以上に働く人が見違えるように生き生きとして商品も生まれ変わったようにグレードアップ、そちらの方がよほど大事なのです。
長年の悪い習慣は一掃すること
まずは人材のリフレッシュですが、その前に今までのオペレーションでいいのか、この検証が必要です。というよりは、店舗改装はオペレーションの根本的な見直しと連動していなければなりません。改装の規模にもよりますが、厨房の機器の配置と道具の変化が伴っていなければなりません。そこでの目標は働きやすさとより高い生産性の実現です。より少ない労働時間で、よりスムーズで効率的な働き方ができないものか、改装の目標をそこに設定しておかなければなりません。
厨房ばかりではありません。客席フロアの動線も「今のままでいいのか」を改装では念頭に置いていなければなりません。複雑な動線ゆえにサービス負荷が高くなっていて、人員数が適正以上に増えていたりしているものです。それを改善しなければなりません。
客席でもう一つ注意しなければならないのは、客席数です。経営者は席数をもう少し増やせないものかと考えがちですが、増やせばいいというものではありません。2人席を無理に4人席にしても、その席に2人客が座ったら同じことです。客席稼働率が高まらなければ、意味がありません。むしろ客席を減らし居心地を良くして、その結果、客席稼働率が高まる(客数が増える)ことだってあるのです。
従業員の再教育、再訓練ですが、まずは「悪しき習慣の一掃」をしなければなりません。ちゃんとしたマニュアルがあるのに、働きやすさを優先して別の「裏マニュアル」が横行しているケースがしばしばあります。これは調理についても言えます。本来の手順と全く異なるやり方で調理が行われ、それが定着しているものです。一言で言えば、手抜きです。それも改装時にあるべき形、手順に戻さなければなりません。
従来のやり方への否定が伴いますから、現場からの抵抗が必ず起こります。この抵抗に断固立ち向かわなければなりません。妥協は許されません。場合によっては、キッチンのボス、フロアの古狸をたたき出さなければなりません。ここで経営者の不退転の覚悟を見せなければなりません。こういう強い意思が貫かれて、初めて改装効果が表れるのです。
調理工程も考え抜いて構築した本来の手順に戻すことができれば、同じ食材を使っても質が上がります。味は変わらないけれども、質は上がる。これが大事なのです。
メニューについて、もう一言加えるならば、この際、邪魔物メニューを排除するべきです。この一品によってほかのメニューの提供の足を引っ張っているお邪魔メニューがあるものです。そういうメニューの摘発も改装時の大テーマです。改装を機にもう少し凝った高いメニューを提供しよう、メニューをもう少し増やそう、と考える経営者がいますが、それは失敗につながります。メニューは減らしながら、多様性と豊かさをどのようにして提供するか。ここに主眼が置かれなければならないのです。
パート・アルバイトについても悪い習慣を捨てさせ、基本動作をもう一度ゼロから身に付けさせることが大事です。
現状の否定。そしてあるべきサービスの形をもう一度、指し示さなければならないのです。それに抵抗するような従業員がいたら、去っていただくよりほかはありません。
アメリカの外食業の教科書を読むと「figure」(フィギュア:姿・形)という言葉によくぶつかります。これはとても大事な言葉です。まさにあるべき姿、形です。青写真、想像図と表現してもよいかもしれません。経営者が改装にあたってどういう店にしたいのか、どういう姿、形に変えたいのか。この予想図がはっきりと描かれていなければなりません。そのフィギュアに基づいて料理も刷新、サービスも一新、楽しさ豊かさも倍増。課題は多いのです。改装は、そういう店に切り替えるための基盤づくりなのです。
料理とサービスのレベルを上げることを目標に据えていない改装は、金をドブに捨てるような行為だ、ということを頭に叩き込んでおかなければなりません。
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