客数が減る値上げ、増える値上げ

外食チェーンが次々と値上げに踏み切っています。しかし、下手な値上げをすると、立ち直れないくらいの客数減となる可能性も。値上げした価格に見合う外食ならではの「体験価値」を高めることが大切です。

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Vol.128

同業者しか見ないで値上げすると失敗する

 外食のチェーングループは、次から次へと値上げに踏み切っています。日本の外食業は価格が安すぎますから、総体的に価格を引き上げることが必要だ、と私は考えています。それもかなり。だから、今はいいチャンスだと思っています。

 しかし、下手な値上げをすると、立ち直れないくらい客数減を被ることになります。値上げはすべきですが、細心の注意を払ってやらなければなりません。値上げについては、昨年11月掲載の記事「値上げの上手な店になろう」でも触れましたが、お客様の反発を買わない(反発を小さくする)ことを目指さなければなりません。

 値上げの方法ですが、看板商品、主力商品の価格を守る。これは支持を得られます。看板・主力商品の価格を守りながら、どうやって客単価を上げるか、粗利益率を上げるか、ここが知恵の出しどころです。一つは、「値上げの上手な店になろう」でも書きましたが、主力商品のまわりに、同じ領域のちょっとぜいたくな、プレミアムな商品を据えることです。この周辺メニューの注文数が増えれば、当然、客単価は上がります。

 しかし、もっと大事なことは、注文皿数を増やすことです。例えば、ハンバーグ専門店であるとしたら、サラダ、スープを注文してくれれば、当然、客単価が上がります。そのためには、サラダやスープが注文しやすい価格になっていなければなりません。注文しやすい価格になっていないのであれば、価格を下げなければなりません。「値上げの上手な店になろう」でも書きましたが、サイドメニューの価格を下げて注文皿数を増やし、結果として客単価を上げる方法があるのです。

 それによってお客様の満足度が上がれば、来店頻度も上がります。つまり、客単価が上がって、しかも客数も伸びる、という最善の結果が得られることもあるのです。現実には、なかなかそうはいきませんが。

 原価率は、メニューによってデコボコで(違いが)あるべきです。原価率が50%以上のメニューもあれば、10%台のメニューがある。それでいいのです。それによって店の競争力を高め、最終的に望む原価率に着地させる。それがプロの腕の見せどころです。メニューの価格を決めるときには、この「デコボコ」を頭に叩き込んでおかなければなりません。

外食でしか出せない価値をもう一度作り直す

 値付けを行うときに、一番気になるのが、同業者の価格です。例えば居酒屋ですと、ライバルが生ビールをいくらで売っているか。お通し料は取っているのか、いないのか。取っているなら、いくらか。基本メニューはどんな値付けでやっているのか。気になることばかりですね。

 しかし、これではあまりに井の中の蛙です。外食全体の価格の動きを見直さなければなりません。業種・業態の垣根を超えて。

 さらに、外食だけを見ていたのでは足りません。食品スーパーの惣菜売り場、コンビニエンスストアの食品・惣菜の棚、冷蔵・冷凍ケース。そこに並ぶ商品の全てがライバルです。何しろ胃袋は1つなのですから。

 例えば、コンビニで特に強化しているのが、冷凍食品です。売り場の冷凍ケースは広がり、品ぞろえは充実しています。その一品一品が、外食のライバル商品です。そして、その価格の安さに戦慄しなければなりません。外食の相当商品のだいたい半額です。そして、その品質は年々高まっています。この価格、この品質と、あなたの店は戦わなければならないのです。相当厳しい戦いが予想されます。

 私は、これから冷凍食品群が外食の最大のライバルになると思っています。豊富な冷凍食品が詰まった家庭の冷凍庫が、外食に向かおうとする消費者の足を止めます。それから食品スーパーの寿司・惣菜売り場もぜひ見てください。ここはスーパーの実力によってバラつきがありますが、強い食品スーパーの商品力には圧倒されます。主力となる外食メニューの商品の全てがそろっていると言っても過言ではありません。そして、ここでも品質の高さと安さに圧倒されます。スーパーは基本的に店舗調理を行っていますから、この点でも外食に比肩する調理力を持っているわけです。

 この二大勢力が外食の最大のライバルです。これからはこの2つのライバルとの戦いが一層激しくなります。前述のとおり、コンビニは冷凍食品に力を入れています。一方、食品スーパーは安心、安全、健康、おいしい惣菜の強化に力を入れています。彼らの実力(商品力、価格力、品ぞろえ)を前にしたときに、安易な値上げがいかに危険な行為であるかがはっきりします。しかし、冒頭で申し上げたとおり、外食は値上げをしなければもはや持ちません。食材費はもとより、人件費、水道光熱費、全てが上がっています。かなりの値上げを強行しないと、利益が出ないビジネス領域になってしまいます。

 そのためには、値上げした価格に見合う、いやそれ以上の価値を身に付けなければなりません。それは、外食でなければ出せない価値でなければなりません。ひと言でいうと、出来立て適温の料理、素晴らしい盛り付け、迅速な対応と心温まるサービス、清潔でクレンリネスの行き届いた空間です。つまり、体験価値を高めることに全力を注がなければなりません。

 こればかりは、外食でなければ出せません。そして、コロナ禍の2年間でこの価値がすっかり崩れてしまっているのです。この価値をもう一度、作り上げるところから始めなければいけません。これができた店だけが、値上げが許されるのです。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

■飲食店経営の明日をリードするオピニオン誌「Food Biz」

「Food Biz」の特徴
鍛えられた十分な取材力、現場を見抜く観察力、網羅的な情報力、変化を先取りする予見力、この4つの強みを生かして、外食業に起こっている変化の本質を摘出し、その未来を明確に指し示す“主張のある専門誌”です。表層的なトレンドではなく、外食業に起こっていることの本質を知りたい人にこそ購読をおすすめします。読みたい人に直接お届け!(書店では販売しておりません)

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