目次
・DX化によって、アフターコロナの“新しい居酒屋体験”を創出
「焼鳥IPPON」(東京・大崎)
・AIによる自動発注システムで業務効率を改善
「肉汁餃子のダンダダン 調布総本店」(東京・調布)
IT化を進めることで生産性や利便性の向上を目指すDX(デジタルトランスフォーメーション)。ぐるなびのアンケート調査では、飲食店の76%が「店舗運営のデジタル化を進める必要がある」と回答しており、飲食業界でもDX化に取り組んでいる企業が増えている。
そこで、実際にDX化を進めている飲食企業の成功事例として、モバイルオーダーなどを導入した「焼鳥IPPON」と、AIが食材の発注提案を行うシステムを導入した「肉汁餃子のダンダダン」の取り組みを紹介する。
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DX化によって、アフターコロナの“新しい居酒屋体験”を創出
東京都品川区大崎1-6-5 大崎ニューシティ5号館2F
https://r.gnavi.co.jp/r934xdzt0000/
モバイルオーダーで、個人での注文&決済を実現
オフィス街や繁華街を中心に個性的な居酒屋を展開してきた株式会社ダイヤモンドダイニング。既存業態には大箱店も多く、コロナ禍は「心臓のど真ん中を撃ち抜かれた感じでした」と第一営業本部部長の北島康次氏は振り返る。仮にコロナ禍が収束しても、これまで収益源だった忘新年会や歓送迎会などの大型宴会が以前の水準に戻る保証もない。
そこで、DX化を軸にアフターコロナに対応しうる“新しい居酒屋の形”として、2021年9月にオープンしたのが「焼鳥IPPON」だ。東京・大崎駅直結のオフィスビル内にあり、もともと自社で肉バルを運営していた物件をリニューアル。「内観をガラリと変え、お客様同士が十分な距離を取れるよう、ゆったりと席を配置。女性でも気軽に入れるような店を目指しました」と、マネジャーの古賀祐太郎氏は語る。看板メニューは店名通り「焼鳥」(1本220円~)で、つくねや盛り合わせも含めて約20種類を用意。そのほか、トッピングやドレッシングをカスタマイズできる「わたしのサラダ」(550円)や「よだれ鶏」(580円)などの一品料理や、「チキン南蛮」(680円)などの定食メニューも5種類あり、1人飲みや食事利用にも対応している。
数ある業態の中で焼き鳥をメインにしたのは、「未来の居酒屋を作る第一歩なので、王道の業態でチャレンジすることに価値があると考えました」と北島氏。店づくりのポイントとして意識したのは、DX化の目的を効率化だけにしないこと。これまで居酒屋業態が抱えていた課題を解決しつつ、新しい外食体験につなげることを目指した。
その1つが、個人注文と個人決済が可能なモバイルオーダーシステムだ。来店客がそれぞれのスマートフォンで注文用のQRコードを読み取り、メニュー画面から個別にオーダーし、クレジット決済で会計をするというもの。オーダーは焼き鳥なら部位(もも、セセリなど14種)と味付け(塩、たれの2種)を1本単位で指定でき、前述した「わたしのサラダ」や「鶏白湯ラーメン」(680円)もトッピングを豊富に用意しアレンジが可能だ。また、ドリンクの売りである「わたしのレモンサワー」(550円)は、アルコールの濃度とレモンの種類を選んで、自分好みのレモンサワーを楽しむことができる。
これまで、居酒屋に来店したグループ客は、全員の好みを考慮しながらオーダーする必要があった。しかし、個人注文であれば自分の好きなメニューを好きなタイミングでオーダーができる。また、個人決済で自分が注文した料理の金額だけを支払うため、従来の割り勘で起こる「人によって食べたメニュー(飲んだドリンク)の単価や量が違うのに、同じ金額を支払う」という不公平感も発生しない。もちろん、注文をする人を1人だけ決めてしまえば、これまでのような注文の仕方も可能だ。「個人注文によって、これまで居酒屋が抱えていた“お客様の不自由”が解消されます。これまで以上に、食べたいものを食べたいときに注文できるという“新しい居酒屋体験”を提案しています」と北島氏は自信をのぞかせる。
一方で、オーダーと会計がデジタル化されたことで、スタッフと来店客が接する機会は減少する。その中で、居酒屋らしい接客をどう実現するか、という部分も業態開発において重要なポイントだった。「以前と同じサービスをしようと考えるのではなく、DX化を機に、これまでの接客がお客様にとって本当に必要で快適といえるものだったのかを総点検しました」と北島氏。この中で生まれたのが「既存のサービスを疑ってみる」という議論。そうして上がったのが、居酒屋でよく行われるスタッフによるおすすめ料理の提案。今までは当然のコミュニケーションだったが、現在はSNSなどの普及によって来店客が食べる料理をあらかじめ決めているケースが多く、おすすめトークは以前ほどは歓迎されていないと考えた。
そこでDXと融合して新たに生まれた接客スタイルの1つが「ニックネームでの呼びかけ」だ。最初にモバイルオーダーを登録する際、注文者を識別するために「ニックネーム」を登録してもらい、料理を提供する際にはスタッフがニックネームで呼びかける。すると、場が和みスタッフと来店客の距離が一気に縮まるという。
また、ドリンクについてはダイナミックプライシング(時間帯で価格が変動するスタイル)を設定しており、価格が変動する前後で、スタッフが価格が変わる旨を伝えつつオーダーを促す声掛けも実施。さらに、デジタルに慣れていない来店客には、端末の操作方法をおもてなしの一環として丁寧に説明するようにしている。「お客様にとって本当に必要で有効なコミュニケーションに特化することで、スタッフへの信頼感が高まっています」と、北島氏は手応えを語る。ほかにも、メニュー画面のビジュアルを充実させ、メニューを選びやすくさせている。
オープンから9カ月。メインターゲットであるビジネス層はもちろん、駅周辺の居住人口が多いことから、週末もファミリーらを集客。最高月商は850万円で、まだまだ伸び代があると考えている。「コロナ禍によって、今までの常識や固定概念に囚われずに未来を考える機会を得ました。お客様のニーズを見極めつつ、DXを居酒屋業態に融合させて新しい時代を切り拓きたい」と北島氏。今後の展開に期待を寄せている。
AIによる自動発注システムで業務効率を改善
東京都調布市布田1-44-4 FRANK1ビル
https://r.gnavi.co.jp/1a0a7ksx0000/
来店客の利便性を第一に考え、モバイルオーダーもテスト導入中
肉汁たっぷり、モチモチした食感の「肉汁焼餃子」(6個515円)が人気の「肉汁餃子のダンダダン」。2011年1月、調布駅徒歩5分の天神通り沿いに1号店をオープン後、京王線沿線を中心に店舗を展開。餃子酒場ブームの火付け役となり、2022年6月現在、全国で117店舗を運営している。
現在、同ブランドで注力しているのが業務のDX化だ。「コロナ禍前に導入していたDXツールといえば、POSレジくらいでした。しかしコロナ禍で出店スピードが停滞したことを機に、『やりたいことをやれるチャンス。できることはすべてやろう』と考え、以前から検討していたDX化を推し進めることにしました」と株式会社NATTY SWANKYホールディングスの代表取締役社長 井石裕二氏は振り返る。まずは、2020年3月以降、予約を取りこぼしている可能性を考えて、インターネット予約を導入した。
加えて、バックオフィスの業務負荷を軽減するために導入したのが、AIによる需要予測型の発注システムだ。以前は店長らが日々在庫を確認しつつ、翌日の出数を予想しながら、20~22時という最も忙しい時間帯にパソコンで発注作業を行っていた。そのため、発注を行う店長や店舗責任者が接客に集中しにくい状況が生まれたり、発注を担当する人の作業効率や経験値に大きく左右されるため、人によっては業務に時間が掛かったり、必要以上に食材ロスが発生していた。そこで、2020年の年末から調布総本店(2016年4月オープン)など数店舗で、AIが食材ごとに“その日に発注すべき数”を提案する発注システムを導入した。
このシステムは、過去の出数データを学習したAIとPOSレジを連携させたもの。食材の在庫数と翌日以降の出数予測を基に、その日に発注しておいたほうがいい食材とその量をAIが提案するというもの。「担当者は提案内容を確認して問題なければ発注ボタンを押すだけなので、作業が簡略化され、現場からは負担が軽くなったというポジティブな声が多く上がっています。発注忘れや過剰発注も激減し、食材のロスを防ぐ効果も得られました。将来的には完全自動発注を目指しています」と井石氏。調布総本店の店長・郷野光氏は、「導入後も、AIが学習してどんどん精度が上がっているので、今では10分程度で発注が完了します。ほかのスタッフに発注作業を教えるのもスムーズで助かっています」と効果を語る。
また、2021年春からは調布総本店を含む5店舗でモバイルオーダーもテスト導入。卓上に置いてあるQRコードを読み込むことで来店客のスマートフォンにメニュー画面が表示され、注文できる仕組みだ。「忙しい時間帯に、スタッフの目が届きにくい席など一部のテーブルにQRコードを置いています。特に若い層のお客様が利用されるケースが多いです」と郷野氏。現在は効果を検証中だが、スタッフの負担が一部軽減されることで、接客の向上にもつながっているという。
DX化というと店舗の効率化や省人化が主目的になりがちだが、井石氏はそれには否定的な立場を取る。「DX化はあくまでもお客様の利便性や店舗の価値を高めるためのもの。単に“少ないスタッフで店を回すため”といった理由ではお客様に何のメリットもありません。DX化によってスタッフの業務負担を減らすことで、お客様へのやり取りに集中し、サービスの質をさらに向上させることが大切だと思っています」(井石氏)。AIによる発注システムは、2022年から全店舗に導入するなどして、活用を本格化しており、今後もDX化に前向きに取り組んでいく考えだ。
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