2022/06/24 繁盛の黄金律

イートインへの移動が一気に進み始めた

外食を楽しむお客様が増えていますが、ここにきて客足を取り戻せている店とそうでない店の明暗もはっきりしてきました。お客様を呼び戻すためにできることを再確認してみましょう。

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Vol.130

イートイン客を大事にした店だけにお客様は戻っている

 この2年半、外食業はデリバリーとテイクアウトへ注力してきましたが、流れは変わりました。イートインへの移動が一気に始まっているのです。デリバリーとテイクアウトに注力しすぎた店は、これから大苦戦するかもしれません。イートインのお客様を大事にしてこなかったからです。

 ファストフードやテイクアウト専門店は元々本業がデリバリー、テイクアウト(それからドライブスルー)ですから、こちらは注力していいのです。しかし、イートインが中心のテーブルサービスがメインの店は、来てくださったお客様に、出来たてで熱々で、盛り付けのいい料理をクイックに、素晴らしい笑顔で提供することが本来の仕事なのですから、デリバリーやテイクアウトに力を入れ過ぎた店は、必ずイートインのお客様の不満が蓄積しています。

 まず、来店したお客様のお迎えができなくなっています。お客様と目と目を合わせてお迎えしていない。席にきちっと案内しない。注文をなかなか取りに来ない。キッチンはテイクアウトやデリバリーへの対応にてんてこ舞いで、イートインの料理の提供が大幅に遅れています。そして、大幅に遅れて出てきた料理は冷めている。ポーションがスタンダードから遠く離れている。盛り付けはメチャメチャ。さらにその冷えた料理が心の込もらないぞんざいなサービスで提供されています。もはやテーブルサービスの体(てい)を成していません。お客様は「もう二度とこの店には来ない」と決意して、憤然として店を去っていきます。

 コロナ禍の間に、最も大切なコアのお客様を失ってしまった、そういう店があまりに多いのです。イートインへとお客様の流れが変わったと言いましたが、こんなボロボロの店にはお客様は戻りませんね。コロナ禍の間に何をしたか。コロナ禍の間に少なくなったイートインのお客様に最高のレベルの商品とサービスを提供し続けてきた店だけに今、お客様が押しかけているのです。

 外食業にお客様が戻ってきている、と言われていますが、全ての店に戻ってきているわけではありません。正確に言うと、外食業の出来たてのおいしい料理、楽しさ、ライブ感、キビキビとして笑顔あふれるサービスを提供している店に、お客様が戻ってきているのです。この2年半で何をやったか。厳しい評価が下されている、そう言っていいでしょう。

 テーブルサービスのチェーンでも、居酒屋グループでも、明暗がくっきりと出ています。苦しいときでも、テイクアウトやデリバリーに対して抑制的であり、イートインのお客様の満足度を落とさなかったところが、急回復をしています。お客様は本当に店をよく見て、正しく評価しています。厳しい商売です。

ボロボロになった店。調理、サービス、心を元に戻す

 もう一つ、デリバリーに力を入れ過ぎた店は、価格意識が鈍くなっています。

 宅配会社の手数料を上乗せするのですから、お客様の支払い額は当然、高くなります。店の取り分が増える訳ではありませんが、例えば「600円のものが1,000円で売れる」という事実は、店主の頭の中に刻印されます。それは「うちの商品は、1,000円でも売れる」という意識に変わり、値上げしたり、高単価商品を導入することが平気になります。しかし、デリバリーのお客様の大部分は緊急時の特別なお客様ですから、新型コロナウイルスの流行が終われば消えてしまいます。それにデリバリーはまとめ買いも多いですから、当然、単価が上がります。それらに慣れてしまうと、イートインのお客様に一品一品を真面目にコツコツ提供することが、バカらしくなるのです。

 そこからもう一度、昔のようにコツコツ頑張る商売に戻るのは、なかなか容易ではありません。もしかしたら、もう元には戻れないかもしれません。しかし、真面目にコツコツ、イートインのお客様の満足を高めていくより他に、生きる道はないのですから、勇気を振り絞って本来の外食の道に戻る努力をしなければなりません。

 まずは、次の点から取り組んでください。

1 主力の看板商品に戻る
 メニューを絞り込む。特に最近導入した高単価メニューは捨てる。看板商品をもう一度、磨き上げましょう。

2 調理場の整理
 テイクアウト、デリバリーに注力した際に、器具や道具、備品が店内に散乱していないかチェック。余計な物は一切、捨てましょう。やるべきことはイートインへの集中なのです。その決意を示すために、調理場をイートイン専門に戻すことです。

3 調理の再教育
 メニューが増えれば、調理の技術も浅く広くなっています。メニューも絞り込み、そのメニューに合った調理技術のレベルを高めることです。限定して深掘りをする。そして、キッチンの技術の底上げを図らなければなりません。絞り込むもう一つの目的は、提供スピードを上げることです。ここも前述の通り、鈍感になっているのです。

4 盛り付けのチェック
 テイクアウト、デリバリーで一番崩れているのが、この盛り付けです。提供直前にすべてのメインメニューをスマホで撮影しましょう。後でその全部を確認するのです。「ここまで崩れていたのか」とがくぜんとするはずです。猛省してコツコツと改善していくことです。

5 お迎え、誘導、迅速なオーダー取り、クイックな提供を徹底的に見直す
 ひと言でいえば、サービスの質の低下です。さらにもっと言えば、心の荒廃です。お客様に喜んでいただこう、素晴らしい時間を過ごしていただこう、その精神が失われてしまったのです。これが、回復しない限り、何をやってもお客様が店に戻ることはありません。

6 店を磨き込む
 改めて店を見渡してみると、荒れ放題になってはいないでしょうか。こんな店でお客様が満足するはずがない。さあ、大掃除です。磨いて磨いて、ピカピカに磨き込み、その習慣を取り戻します。クレンリネスの徹底です。そして改装コストもケチってはいけません。絶えざるリフレッシュこそが、お客様の再来店を促すのです。

 やるべきことは山ほどあります。何から手を付けていいか、途方に暮れているかもしれません。まずやるべきことは、テイクアウト、デリバリー依存体質から抜け出すことです。イートインで生きていくことを決意することです。頑張ってください、まだ間に合います。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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