2022/07/29 繁盛の黄金律

メチャクチャ売れる単品があると、多店舗化できる

経営者がさらなる利益拡大を目指し、多店舗化を考えるのは当然かもしれません。しかし繁盛というのは、いろいろな要素で成り立っているものです。その要素を慎重に分解して組み立て直すという、作業が必要なのです。

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Vol.131

ポピュラー領域のスペシャル商品であること

 繁盛店の経営者が「この店で、月100万円儲かっているのだから、もう1店舗出すと200万円か、いや、10店舗出店したら月1,000万円が懐に入る」と、取らぬ狸の皮算用をします。そして、それを実行に移します。多店舗化への道、あるいはチェーン化を目指す、ですね。何とか4店舗まで出店したとします。利益は400万円になっているのか、とういと「ありゃりゃ」。1店舗の時の100万円にも満たないではないか、という惨状に直面します。多店舗化への道は、どうやら失敗であったようです。

 多店舗化、チェーン化ができる店というのは、とにかくメチャクチャ売れて、メチャクチャ儲かっていなければなりません。それから単品(看板商品)がメチャクチャ売れていなければならないのです。

 マクドナルドは全世界に約4万店ありますが、マクドナルド兄弟がやっていた店はとんでもない繁盛店だったのです。たまたまその店に立ち寄ったミルクシェイクマシンのセールスマンだったレイ・クロックは「いける!」と判断して、兄弟から権利とブランドを買ったのですね。それが始まりです。

 まず、看板商品が途方もなく売れて、しかも利益商品であることです。「原価率を6割もかけているから、やっぱり売れる」これではダメなのです。それからその商品が特殊でなければなりません。独自商品ということですね。ここで注意しなければならないのは、特殊な領域の商品ではない、ということです。

 例えば、インカ料理で売れている。そりゃー、1店の繁盛店は出せるかもしれませんが、ニッチなジャンルですので、多店舗化、チェーン化はちょっと難しい。つまり、領域としてはポピュラー。その中で特別である、という商品でなければなりません。典型的な例が、KFCのフライドチキンですね。フライドチキンはどこにでもある商品ですが、KFCのフライドチキンは特別です。どこにも真似ができません。スパイスと製法(機械を含めて)が独特だからです。こういう商品を開発できていれば多店舗化どころか、大チェーンを生むことも可能です。しかし、マクドナルドの例を出しましたが、開発者と展開の担い手は大抵、違います。開発能力のある人が、必ずしもチェーン化に向いているとは限りません。いや、開発者は展開に向かない、と割り切った方がいいかもしれません。

看板商品の6掛け価格にチャンスあり

 もう一つ、多店舗化の条件として1号店の繁盛店は無駄だらけでなければなりません。絞れば水がボトボトと滴り落ちる雑巾のようでなければなりません。無駄だらけなのだが、よく売れて利益もよく出ている。こういう店の方が多店舗化の可能性があるのです。無駄は遊びとも言いますよね。余力です。絞ればもっともっと利益が出る店でないと、実は多店舗化には向かないのです。人は多く雇っている、材料ロスは多い、水道もガスも電気も使い放題。こんな店が実は理想(?)ですね。

 最初からとことんロスカットを進め、無駄な出費は一切なし、システムも完成形に近い、このようなキツキツの店は多店舗化向きではありません。こういうことをやって、ようやく利益を出しているとしたら、多店舗化で売上が下がれば(必ず下がります)利益なんて出なくなります。堅牢なフォーマットにするというのは、キツキツのシステムを作って無駄を削り落とすことです。垂れ流しだけど、よく売れているという店であって初めてコストカット、仕組みづくりのメスが入れられるのです。その余地がまったくない、というのは多店舗化の希望が抱けません。キツキツで利益を出している店はダメ。これも肝に銘じておきましょう。多店舗化すると売上が下がると書きましたが、これも覚悟しておかなければなりません。

 最初の店は店主が命を張って、ようやく繁盛店に仕立て上げたのです。もう1店舗出したらどうですか? 本人が両方を見たとしても必ず、エネルギーは分散されます。調理のスキルも落ちますから、商品の品質も下がります。3号店を出したら、これはもう店主の匂いも店から消えてしまいますね。だんだん繁盛の要素が希釈されていくのです。だから、元々の繁盛店が特別に「濃いもの」でなければならないのです。

 もう一つは、価格です。ポピュラープライス(大衆価格)でなければなりません。例えば、1万円の鰻専門店がいくら繁盛しているからといって、このチェーン化は難しいですよね。2~3店舗を出すというのならば、可能かもしれませんが、それ以上は無理です。

 ただし、こういう考え方はできます。2,000円のハンバーグがよく売れている店があります。それに目を付け、6掛けで(ほぼ)同じものができないものか、と考えるのです。1,200円ですね。これはしばしば当たります。そこでトレードオフ(大事な要素だけを残して、すっきりさせる)、あるいはミニポーション化が必要ですが、この時に一番大事なヒットの要素を捨ててしまうことがよくあるのです。値段を下げられたけれど、まったく当たらない、という事態に直面します。

 繁盛というのは、いろいろな要素で成り立っているものです。その要素を慎重に分解して組み立て直すという、作業が必要です。外食業って本当に複雑なものなのですね。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

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