2023/02/15 特別企画

個人経営でも必要?飲食店のインボイス対策まるわかり

インボイスの登録を検討している飲食店向けに、対象店舗やメリット、申請方法などを解説。活用できる補助金や申請の際の注意点と合わせて紹介します。特に年商1,000万円以下の飲食店は、対応が必要かどうかぜひ一度検討してみてください。

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更新日:2024.9.23

インボイス制度への対応が必要な店とは?どんな対応が必要なのかを解説!

 2023年10月1日から開始したインボイス制度。これは、消費税の納税方法に関する新制度で、課税事業者(基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者)は、必ず対応が必要となる。
※2期前の事業年度(個人事業主の場合は2年前の1~12月)のこと。

 また、免税事業者(同1,000万円以下の事業者)だとしても、制度を活用しないと顧客離れなどのリスクが高まるケースも。飲食店でいうと、接待利用や弁当の販売などで法人向けの領収書を発行することが多い店だ。

 では、そもそもインボイス制度とはどんな内容で、飲食店にはどのような影響があるのか。対象となる店と、必要な対応、活用する上での注意点、ポイントなども紹介する。

目次
インボイス制度とは?
飲食店が考慮したい影響や必要な対応は?
あなたの店は対応が必要?フローチャートでチェック!
いつまでに、どこに何を申請すればよい?
インボイス制度を活用する上での注意点は?

インボイス制度とは?

2023年10月1日から開始した、消費税の仕入税額控除の新方式のこと

 インボイス制度は、2023年10月1日よりスタートした「消費税の仕入税額控除」の仕組みで、正式名称は「適格請求書等保存方式」。

 この制度が始まった背景には、消費税の軽減税率導入がある。軽減税率の導入により仕入税額の中に8%のものと10%のものが混在するようになったため、これを利用して不当な利益を得たり、誤った額を納税してしまうことを防ぐためにインボイス制度が導入された。

 消費税の納税義務があるのは課税事業者のみ。現在、課税事業者は、下の図にある通り、仕入れなどの際に一定の条件を満たした請求書や領収書を取得していれば、「売上に係る消費税額」から「仕入れなどに係る消費税額」を差し引いた額だけを納税すればよいことになっている。

課税事業者には、消費税納税の義務が課せられている。ただし、売上の消費税額(上図A)をそのまま納税する必要はなく、そこから仕入など経費の消費税額(同B)を差し引いた額を納税すればよいことになっている

 しかし、インボイス制度開始以降は、これまでの請求書ではなく「適格請求書(インボイス)」を取得しないと同様の仕入れ税額控除が受けられず、下の図の通り、納税負担が大幅に増えてしまいかねない。この「適格請求書」は、事前に国に登録申請を行った「適格請求書発行事業者」だけが発行できるため、インボイスを発行するためには、まずこの登録申請が必要になる。

インボイス制度開始後は、「適格請求書」を取得しないと、これまでのような控除が認められなくなる。「適格請求書」を発行できるのは、事前に登録申請を行った適格請求書発行事業者のみ

飲食店が考慮したい影響や必要な対応は?

(1)法人関係の来店客が減る可能性がある

 飲食店への影響として、まず考えられるのが、

接待での来店や弁当購入など、領収書を必要とするビジネスシーンでの飲食店利用において、「適格請求書」が発行できる店の方が選ばれる可能性が高くなるため、飲食店は「適格請求書発行事業者」にならないと、大切な顧客を失うかもしれない

ということ。インボイス制度導入によって「適格請求書」を取得しないと、仕入税額控除がとれなくなるため、接待などで飲食店を利用する場合は「適格請求書」を発行できる店が選ばれるようになるのは自然の流れ。まず、自店が「適格請求書発行事業者」になる必要があるかどうかを含めて、下記のような手順で対応を検討しよう。

①「適格請求書事業者」になる必要があるかどうかを検討。
→検討方法はこちら「あなたの店はどのタイプ?インボイス対応チェックフローチャート
②「適格請求書事業者」になる必要性があれば、登録申請を行う。
→申請方法はこちら
③請求書、領収書、レシートの改修。
→「適格請求書」の様式はこちら

(2)納税義務が発生し、煩雑な経理業務が増える可能性がある

 さらに、「適格請求書事業者」の登録申請を行う場合は、もう一つ覚えておかないといけないことがある。それが、

「適格請求書発行事業者」になると、自動的に課税事業者扱いとなるため、課税売上高が1,000万円以下であっても免税されず、消費税の納税義務が発生する

ということ。新たに消費税納税のための経理業務が発生するため、これまで免税事業者だった場合は特に下記のような準備が必要になる。

・複数税率(軽減税率)対応のレジを導入する
・複数税率(軽減税率)対応の経理システムや会計ソフトを準備する
・経理業務の担当者を決める、もしくは税理士事務所に委託する

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(3)仕入先や取引先が適格請求書を発行できないと、税額控除が受けられない

 加えて、納税義務が発生するということは、仕入れ先も「適格請求書発行事業者」でないと、「適格請求書」を取得できないため、消費税の仕入税額控除を受けることができない。そこで、下記のような手順で取引先への確認などを進めるとよいだろう。

①仕入れ先が「適格請求書発行事業者」かどうかを確認。

②違う場合は、「適格請求書発行事業者」への登録申請を依頼するか、仕入れ先の変更を検討。消費税の控除を受けなくてもよいのであれば、そのまま取引を継続。

 まとめると、飲食店にとってインボイス制度を活用することは、
「法人関係の顧客に関して、既存客の囲い込みや新規客の獲得の可能性を高める」
というメリットがある一方で、
「納税義務が発生し、煩雑な経理業務を行う必要がある」
「仕入れなどで適格請求書を取得するために、仕入れ先への確認や見直しが必要になる」
というデメリットもあるといえる。

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あなたの店は対応が必要?

自店の客層・利用シーンと、業務の煩雑化のバランスを見て検討を

 では、自分の店は対応が必要かどうか、下記の「インボイス対応チェックフローチャート」を参考にしてみよう。最終的には、「法人関係の顧客の来店数・頻度」と「経理業務の負荷」のバランスを考慮しながら、「変更後の納税額が今と比べてどのように変化するのか?」を、税理士などの専門家に相談しながら、申請を行うかどうか判断するとよいだろう。

接待利用や仕出し弁当などの法人客が少ない場合は、上記にある通り、特に準備は必要ないが、法人客が減ってしまうリスクと納税負担、経理業務の負荷などのバランスを考慮して本当に対応が必要ないか検討していただきたい。また、「簡易課税事業者」「負担軽減措置(2割特例)」についてはこちらをチェック

まだ間に合う? どこに何を申請すればよい?

登録申請書は、できるだけ早めに提出を。ネットでも書面でも提出可能

 適格請求書発行事業者の登録申請に関する概要は以下の通り。

・提出書類
「適格請求書発行事業者の登録申請書」

・提出先
e-TAX(ネット申請) もしくは 所轄税務署(書面申請)

・提出期限
制度開始(2023年10月)から制度を利用するには、2023年9月30日までに提出が必要だったが、今からでも申請は可能。
※現在、免税事業者の場合は、原則として事業年度開始日の前日(3月31日)までに「課税事業者届出書」を提出する必要があるが、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出すると自動的に課税事業者になるため、「課税事業者届出書」の提出は不要。

・申請後に承認されるまでの期間
e-TAXの場合:およそ数週間
書面の場合:およそ数カ月
※随時変更する可能性があるため、「インボイス特設サイト」内の「新着情報」から、登録申請書などに係る通知までの期間の目安を確認しよう。

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インボイス制度に対応する上での注意点は?

(1)「簡易課税事業者」になれば、事務手続きの負担が軽くなる

 「簡易課税事業者」になれば、以下のような簡易的な計算方法で仕入れ税額控除を計上することが認められている。

仕入控除税額=「課税売上などに係る消費税額」×「取り扱う業種のみなし仕入率(飲食店の場合は60%)」

 「簡易課税事業者」になるための条件は、以下の通り。
・基準期間の課税売上高が5,000万円以下の中小企業者である
・「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出(事業年度開始日の前日まで)
※特例として「適格請求書発行事業者の登録申請書」を2023年9月30日までに提出すれば「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出は当該事業年度末(3月決算の会社は2024年3月31日)までに提出すればよい。

 ただし、「簡易課税事業者」になる場合、下記のようなリスク、デメリットもあるので注意が必要だ。

・業種ごとに「みなし仕入れ率」が異なる
飲食業以外の事業(卸売業、小売業、製造業、不動産業など)を扱う事業者の場合、事業ごとに「みなし仕入れ率」が異なるため、課税売上を区分すると、事務作業が煩雑になる可能性がある。

・本来、納める必要のない金額まで納税する可能性がある
店舗の大規模な改装などで経費が大きくなる場合などは、みなしの仕入れ率(60%)で計算した納税額より、実際の経費に係る消費税額を基に計算した納税額の方が少なくなることもあり、本来は払う必要のない分まで納税することになる。

・売上が一定まで上がると簡易課税事業者ではなくなる
年間売上高が5,000万円を超える場合は、簡易課税事業者から課税事業者に変更が必要となる。

・2026年9月30日までは、特例の措置がある
激変緩和措置(2割特例)によって、インボイス制度開始後3年(2023年10月1日~2026年9月30日)は、各課税期間の課税売上に係る消費税額の20%を納税すればよい。つまり、「みなし仕入れ率」が60%から80%に引き上げられるので、この措置を適用させた方が納税額は少なくなる。

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(2)「適格請求書」は、請求書や納品書、領収書などが対象。記載必須項目がある

「適格請求書」は上の図の通り、記載しなければいけない項目が定められている

 適格請求書の対象となる書類と、記載必須項目は下記の通り。

・対象
「請求書」「領収書」「納品書」「レシート」など

・記載必須項目

「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」「取引年月日」「取引内容※軽減税率対象の場合はその旨記載」「税率ごとに合計した対価及び適用税率、消費税額」「適格請求書発行事業者の氏名または名称」「登録番号」

(3)「適格請求書」は、発行側も受領側も7年間保存しておく必要がある

 インボイス制度開始以降は、「消費税法」に基づいて発行側も受領側も適格請求書を7年間保存しておく必要がある。保存していない場合、青色申告の承認が取り消されて、さまざまな特典が受けられなくなり、追徴課税の可能性もあるので注意したい。

(4)「適格請求書」を受け取らなくても、例外的に仕入税額控除を受けられるケースがある

 下記のような場合は、適格請求書がなくても控除が受けられる。

  • 1取引当たり3万円未満で自動販売機で飲料などを購入したり、公共交通機関を利用した場合
  • ポスト投函で郵便サービスを利用した場合
  • 従業員に支給する日当や宿泊費など(不必要に高額な場合は除く)
  • 適格請求書発行事業者でない者から購入した再生資源など
  • 一定規模以下の中小企業による1万円以下の課税仕入は、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除を適用(インボイス制度導入後6年間のみの特例措置)
  • 免税事業者などからの仕入については、仕入税額の一定割合を控除(インボイス制度導入後6年間のみの経過措置)

(5)インボイス制度への対応に使える補助金がある

 会計ソフトや受発注システムなどの導入に対する「IT導入補助金」や、免税事業者がインボイス制度に対応するための費用に対する「小規模事業者持続化補助金」がある。ぜひ活用を検討いただきたい。

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 これまで紹介した制度概要やメリット・デメリット、必要な対応、注意点を踏まえて、インボイス制度を活用するか検討しつつ、早めの申請や対策を講じていただきたい。

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