Vol.141
安くて高品質なスーパーのデリ・総菜
食品スーパーのデリ・総菜売り場の売上が伸びています。コロナ禍の3年余で、家食べ、家飲みがすっかり定着してしまいました。ある食品スーパーのデリ・総菜売り場を見ましたら、「居酒屋デリ」というコーナーがありました。税込み290円で、実に多彩な居酒屋メニューがそろえられています。これがまた、「よく売れる」のだそうです。
値付けは、「鳥貴族」を意識したとのこと。鳥貴族の現価格は全品税込み350円ですから、それよりも低価格です。いくつか買って食べたのですが、素材はいいし、どれもレベルが高かったです。居酒屋のお客様がなかなか戻りませんが、その理由の一端を見せつけられました。家飲みを定着させるだけの高品質な総菜メニューが、急速に広がっているのですね。
居酒屋に限らず、外食業へのお客様の戻りはイマイチです。しっかり戻っているところとコロナ禍前の客数に到底及ばないところと、その明暗がはっきりしてきています。戻りのいい店(やチェーン)の共通点を言いますと
- 専門店で看板メニューがはっきりしている
- そのメニューの質が圧倒的に高い
- 店の清掃が行き届いている(特にトイレがきれい)
- フレンドリーで、はつらつとしたサービスが店にみなぎっている
- 料理の温度が安定していて、提供が早く、盛り付けに注意が払われている
つまり、外食業でしか味わえない商品とサービスと空間が提供されている、ということですね。価格は安いことに越したことはありませんが、格安でも商品の質の伴わない店には、お客様は戻りません。価格はリーズナブル(適正)であればいいのです。コロナ禍で、外食でしか味わえない価値が、ずいぶん犠牲になってしまいました。テイクアウトやデリバリーに力を入れすぎて、店が“物販化”してしまったのです。
商品の温度に対する意識が薄れ、盛り付けは平板化して、サービスマインドはどこかに忘れ去られてしまいました。外食って何をするところなのか。これが分からなくなっているのです。これでは、お客様の戻りが鈍いのも当り前です。
店で働く人が、最終価値を生み出す
外食業の原価率は、30~40%です。食品小売業の総菜売り場の原価率は、60~70%です。同じ食材を使っても、外食業の方が低くなります。なぜ外食業だけが、低い原価率で提供することが許されるのでしょうか。
それは、店にキッチンがあり、そこで加工する。つまり、店舗調理があるからです。家賃の高いところに加工場があって、そこで技能を持った人が調理・加工するのですから、値付けを高くしなければ、成り立たないのです。さらに、客席でのサービスがあります。
サービスのプロが、調理場と連携して出来上がった料理の盛り付けを確かめて、即お客様の席に運びます。そのときのサービス力が、お客様の体験価値を高めるのです。サービスのメンバーは、お酒類の提供もしなければなりませんし、中間バッシングもしなければなりませんし、お客様から追加注文を引き出さなければなりません。大変です。業態や店のグレードによって、サービスの質は変わりますが、このサービスは外食だけのものです。良いサービスがなければ、お客様の満足度は上がりません。
このように外食業は店でやることが多くて、複雑で、しかしそのことによって、外食業ならではの価値を生み出すのですから、低原価率でようやく成立します。お客様に体験価値を提供する、大変難しい商売なのです。そして、コロナ禍の3年余で、外食業の体験価値の提供力はずいぶん落ちてしまいました。
前述したように、物販に力を入れ過ぎてしまったので、イートインのお客様を満足させる力が弱まってしまったのです。そこに加えて、値上げがありました。私は、値上げはやるべきであると考えますが、食品小売業のデリ・総菜売り場の価格差はさらに広がってしまいました。値段は高くなったのに、外食業ならではの価値が提供されていない。このことへのお客様の不満が、戻りの悪さという形で表れているのです。
もちろん、そんな店ばかりではありません。コロナ禍前の2019年と比べても、客数も売上も飛躍的に伸ばしている店(チェーン)はいくらでもあります。こういう店の共通点は、コロナ禍の苦しい時期にあっても、イートインのお客様を大事にしてきたところです。外食業でなければ味わえない、質の高い出来たての料理と気配りのある心のこもったサービス、そして居心地の良い空間を守ってきた店はどこも、圧倒的な客数回復を手に入れています。
外食というのは、気苦労の絶えない分野ですね。この連載でも何度か述べてきましたが、外食業は店で働く人(調理とサービス)が最終価値を生み出す大変に難しいビジネスです。このことを今こそしっかり確認しましょう。
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