今こそ、女性が働きやすい厨房づくりを目指そう

外食業こそ、女性に適した職業だ、という考えが浸透しているアメリカ。フランスでは、ミシュランの星付きレストランでも、女性のスーパーシェフがどんどん誕生しています。では、日本はどうでしょうか。まだまだ厨房に女性の料理人は珍しく、女性料理長が多くない理由を探っていきます。

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Vol.153

ヨーロッパ・アメリカでは、女性のスーパーシェフがどんどん生まれている

あらゆるビジネス領域で、女性の進出と活躍が大きな潮流になっています。外食業でも、働く人の女性比率が確実に高まっています。しかし、業種によって依然として、濃淡はあります。

カフェ、喫茶の世界は、もう女性なしでは成り立たなくなっています。女性が大活躍する外食領域です。単にパート・アルバイトの女性比率が多い、というだけではありません。チェーングループでも、女性店長比率は一気に高まり、スーパーバイザー、営業部長、取締役でも女性の比率が確実に上がっています。

業種によって濃淡があると言いましたが、ラーメン店・中華料理店となると女性比率はグンと落ちますね。フロアの長にはなれても、キッチンはまだまだ敷居が高いのが現状です。

日本料理店や割烹店の厨房もそうですね。女性の料理人が立ち働いている姿をチラッと見かけることはありますが、女性の料理長というのは、あまりお目にかかったことはありません。

特にすし店ですね。有名すし店で、すしを握っている女性を見かけることは、まずありません。昔から「女性は手の体温が高いから、すしの握りには向かない」などと言われてきましたが、実は何の根拠もないらしいです。

外食業の厨房は重労働だし、高温多湿だし、拘束時間は長いし、で女性には無理とは言わないまでも、やはり、大変きつい。そういう考え方が今でも一般化しています。しかしこんな考え方にとらわれているから、外食業に人が集まらないのです。

フランスのミシュランの星付きレストランにも、女性のスーパーシェフがどんどん生まれていますし、アメリカのディナーレストラン企業の女性シェフ比率は、確実に高まっています。

アメリカの外食業は、どの分野でも女性によって支えられている、と言っても過言ではありません。外食業こそ、女性に適した職業だという考えが浸透しています。この点で、日本の外食業は遅れているのです。

それが、外食で働くことの魅力を半減させているのです。そして相変わらず、慢性的な人手不足の状況から抜け出せていません。

女性が働きづらい要因を一つずつ取り除く

私が会った、いろいろな業種の有名料理人の中にも、「ハードだし、重労働だし、女性にはとても無理」と平然と言い続けている人が少なくありません。

しかし「無理」と言う理由を細かく分析してみると「今のうちの厨房では無理」と言っていることが分かります。

高温多湿と言うけれど、厨房の湿度を下げ、床をドライにするための努力や投資をしているのかというと、まず何の手も打っていません。高温だって、IH機器を使って換気を良くすれば、室温は劇的に下がります。

壁に取り付けらえたキッチン道具の棚の高さを下げることすらしていません。重いものを運べない、などと言いますが、今は便利な小型のリフターやキャリアーがいくつも開発されています。ロボットだって、フロアで使うのではなく、厨房のヘルパーとして使うべきです。そういう職場環境の改善には一切手を付けず、「無理、無理」を繰り返すばかりです。

どうして改善が進まないのか。一番の問題は、女性が働きやすい環境にするための投資を惜しむ経営者がいることですが、既得権(自分の職)を守ろうとする男性の料理人たちの現状維持の姿勢にも問題があります。

劣悪な厨房環境は、実は一部の料理人にとっては、居心地が良いのです。誰もが働ける厨房ではないので、お山の大将でいられます。新しく入ってきたメンバーをいつまでも下働きとして、こき使うことができます。誰でも楽に働けるような環境になったら、自分の地位が危うくなります。ですから、心ある経営者の改善提案をはねつけるようなことが、平気で行われるのです。

しかし、こんな時代が今、ようやく終わろうとしています。料理人が技を修得することは、とても大事なことですが、かつてのように“無理ヘンに拳骨”で長い月日をかけて身に付かせる、そんな時代ではありません。論理的に筋道を立てて、理路整然と、短期間に技能を修得させることが求められる時代になっています。そして、「何もかもすべて」ではなく、限られた領域の技を身に付ける方向で育成しなければ、料理人の層は薄くなるばかりです。

調理においても外部化できるところは、どんどん外に出す、機械が代行できるところは機械に任せる。そういうメリハリをつけた育成が浸透しはじめて、料理界への参加メンバーが増えて、料理人の女性比率が高まっていくのです。

経営者は、口を開けば「1人でも多くのお客様に愛される店を目指します」と言いますが、そのためにまずは、働く人に愛される店にならなければなりません。働くメンバーが朗らかに楽しく働いていることが、お客様に愛される第一の条件です。

具体的には、まずは女性が楽しく前向きに働ける厨房づくりを目指しましょう。そして、その障害になっている要因をまず全部洗い出してみましょう。その要因は続々と出てきます。その中には、投資を伴うものが少なくありませんから、すぐに全部を改善、というわけにはいきません。

まず取り組むべきは、温度と湿度ですね。高温多湿の空間をどのように改善すべきか、その問題を解決するべきです。改善を進めていくうちに、ハタと気付くことがあるはずです。

一番のガンは、先述の既得権の上にあぐらをかいている、今の料理長であることに気付かされます。こういうケースが、本当にしばしばあるのです。辞められては困る、店が回らなくなる、という恐れから腫れものに触る思いで接していたことでしょうが、その怯えがお店の前進と進化を妨げているのです。さらにはそれが、離職率は高止まりのまま、女性を募集しても応募がない、という状況を生み出しているのです。

お客様は結構来てくださるのに、ちっとも儲からない、という繁盛店が結構あるものです。しかし大抵の場合、その原因は厨房とそこにはびこる因習なのです。そこを直視しなければなりません。

株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

■飲食店経営の明日をリードするオピニオン誌「Food Biz」

「Food Biz」の特徴
鍛えられた十分な取材力、現場を見抜く観察力、網羅的な情報力、変化を先取りする予見力、この4つの強みを生かして、外食業に起こっている変化の本質を摘出し、その未来を明確に指し示す“主張のある専門誌”です。表層的なトレンドではなく、外食業に起こっていることの本質を知りたい人にこそ購読をおすすめします。読みたい人に直接お届け!(書店では販売しておりません)

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