「3つの発明品」が生産性を飛躍的に高めた

1960年代に産業化が始まり、1970~80年にかけて爆発的な成長を遂げた外食産業。神山氏はその成長の中で、大いなる発明品が3つあると言います。今回は物販業(テイクアウト)から外食業に転身したファストフード、さらに調理の集中化を図ったセントラルキッチンについて語っていただきます。

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株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

Vol.156

ファストフードは売りロスを極限まで小さくした外食業

外食業には、3つの画期的な発明があります。私が勝手に思っているだけですが。

それは、
①ファストフード
②セントラルキッチン
③回転寿司
の、3つです。

①のファストフードは、アメリカ人の発明です。マクドナルドやKFCがその典型です。両者とも、創業当時はテイクアウト専門店でした。イートインの席はなかったのです。

つまり、物販業として出発したのです。今でもファストフードのベースは物販業です。あらかじめ作ってあるものを売る商売です。

お客様が来店する→お迎えして席に案内する→注文を受ける→キッチンで調理する→出来上がった料理を、お客様のテーブルに運ぶ。この一連の流れが外食業の中身です。注文を受けてから調理を始める、ここがポイントです。ツーオーダーですね。

物販業はそんなことをしませんね。作っておいたものを売る、これが基本です。ファストフードも発展するに従って座席を設けるようになりました。そして、テイクアウト業から外食業に転身していったのです。

でも、注文に関係なくあらかじめ作っておくという基本のところは今も変わりません。予測に合わせて個々の商品を少し多めに作っておく。ですから予測さえ外れなければ売れる時にメチャクチャ売れます。外食業の仲間入りをしながら物販業の瞬発力を身に付けたのですから、従来型の外食業に比べると、高い生産性を確保することができるのです。

もちろん欠点もあります。作り置きビジネスですから、時間が経つと商品の劣化が起こります。ですから劣化を前提に商品開発をしなければなりません。そして、一定の時間が経った商品は廃棄しなければなりません。廃棄ロスが発生するビジネスなのです。

しかし、少し多めに作っておくので、売り逃し(チャンス・ロス)はありません。目一杯売り切ることができます。こうして、従来型の外食業とは決定的に違う生産性を身に付けたのです。

ファストフードは、物販業から出発して次第に外食業になっていったビジネスと言っていいでしょう。生産性が高いので、安い値段で提供できます。最大の強さは、ファストです。つまり提供の速さです。

1990年代に入ると、ファストカジュアルという業態がアメリカで生まれました。ファストフードの進化型です。これがお客様の要望に合いました。ファストフードをさらに本来の外食業に近づけていったのがファストカジュアルです。

限られた範囲ですが、注文を受けてから作る部分を増やしたり、サービス力を高めたり、ヘルシー志向を訴求したり、客席の居住性を高めたりして、ファストフードの“不評”部分を取り除き、改善を図りました。

ファストフードよりもひと手間もふた手間も調理に時間がかかるので、生産性は下がります。でも、お客様の支持層は広がり、ファストフードよりも高い値段が取れるビジネスになりました。

このファストカジュアルの新しいチェーンが次々と生まれ、彼らがアメリカの外食市場を拡大する役割を果たしました。そして、ファストカジュアルの台頭が、従来型のテーブルサービスの外食業からごっそりとお客様を奪い取っていったのです。

でも、ビジネスの本質はファストフードと変わりません。ベースはやはり物販業なのです。

セントラルキッチンの最大の役割は、オリジナルな商品を作ること

次に②のセントラルキッチンです。これもやはりアメリカの外食業、特にテーブルサービスのチェーングループが手掛けた仕組みです。

先述のように、注文を受けてからキッチンで作り始めるのが、本来の外食業でしたが、これではあまりにも効率が悪すぎるということで、調理の集中化を図りました。これが“セントラルキッチン”です。

日本で最初に本格的なセントラルキッチンを作ったのはロイヤル(現ロイヤルホールディングス)ですが、1970年の大阪万博でその威力を全開させました。福岡工場で作ったものをピストン輸送して、万博会場のレストランでの最終調理をするだけで、提供することができました。これで大成功を収めたのです。

店での調理部分が大幅に圧縮されて、提供力が一気に高まったのです。そればかりではありません。バラつきの小さい均質な商品を提供することができたのです。

今は、多くの外食業がセントラルキッチンを持つようになりました。その規模はいろいろで、ほんの加工場のようなものもあれば、食品メーカーの大工場と肩を並べるようなものもあります。

この調理の集中化は、小規模の店でも実践しています。営業前のキッチンでの下ごしらえ、下準備がそれですね。営業時間前にやっていいことといけないことを分けて、やっていいことを営業前に済ませておくのです。

これも一種のセントラルキッチンの実践です。この場合、下準備としてやっていけないことがあることに注意しなければなりません。刺身を切っておく、焼き魚を焼いておく、葉もの野菜をカットしておく…。これはやっておいてはいけませんね。鮮度や品質が落ちるような前調理は、やってはいけないのです。

セントラルキッチンも同じです。商品提供時の質が落ちないこと。このことを前提として集中化を進めなければなりません。ハンバーグを焼成までセントラルキッチンで済ませておけば、店舗作業はラクになりますが、これでは品質が保てません。また、ステーキの肉をセントラルキッチンでカットするか、店でカットするか、ここでも品質に歴然たる差が生まれます。

セントラルキッチンは、工と販(作ると売る)を分離させたのです。これによって店での調理を圧縮することができ、商品を「早く」「均質に」提供することが可能になったのです。

でも一番大事なのは、店のキッチンです。店での調理をどうするか、です。その基準はやはり、商品の品質です。品質を下げるような集中化はやってはいけないのです。先の店舗での下準備と同じですね。

セントラルキッチンの普及によって、従来の外食業では考えられない生産性が、テーブルサービスでも確保できるようになりました。私が3大発明の一つとして挙げる理由がそこにあります。

しかし、セントラルキッチンの第一の目的は、生産性ではありません。キッチンの作業を軽減することでもありません。第一の目的は、わが社独特のオリジナル商品を生み出すことです。それがセントラルキッチンなのです。価値を生むマシンでなければなりません。そのことを忘れると、セントラルキッチンは店の作業をラクにはしますが、ちっとも売れない商品を増産する工場になってしまいます。

一方、セントラルキッチンを作らないで、外部のメーカーに委託する方法が普及しています。OEM化ですね。セントラルキッチンか、OEMか、そのテーマと第3の発明である③の回転寿司のレーンについては、次回にじっくりとお話することにしましょう。

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