食材調達と調理を他人に任せては強くなれない

1970~80年にかけて外食産業が爆発的な成長を遂げる中、誕生した3つの発明品。前回に続き、3つ目の発明品である“回転レーン”と昨今、採算性を重視しセントラルキッチンから転換され主流になりつつある、OEM化についても神山氏に語っていただきます。

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株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

Vol.157

回転レーンは、お客様が増えても人件費は上がらない装置

前回の続きになります。
前回では、外食業の歴史の中で3つの発明品がある、という話をしました。
それは、
①ファストフード
②セントラルキッチン
③回転ずし
の3つです。

セントラルキッチンは効率を上げ、店舗調理でのバラつきを最小化する強力な武器です。しかし、その究極の目的は、オリジナル品を作ることです。一番の目的がオリジナル、二番目が均質化(店舗調理の軽減)、そして三番目が効率化(生産性)になります。この順番を間違えてはいけません。

セントラルキッチンの話は後述するとして、回転ずしの話を先にしましょう。これもすごい発明品ですね。もちろん日本発です。この発明品のおかげで、すしが世界に広まるとになったのですから。今や、すしばかりでなく焼き肉や飲茶なども回転レーンに乗る時代になっています。

このレーンも大きな変化を遂げています。初期はご記憶の通り、回転レーンに乗っている皿をお客様がピックアップする形でした。それが普及するにつれ進化して、オーダーレーンが加わるようになりました。注文した皿が目の前で止まってくれる仕組みですね。

スシローなどは、今でも2つのレーンの並用型が中心ですが、多くの回転ずしチェーンがオーダーレーンのみを採用しています。そのオーダーレーンがダブルの店も増えてきています。今やこちらが主流になっているのです。

ここで、ビジネスの中身が変わったことに注意しなければなりません。回転レーンは、お客様の注文に関係なくレーンの上に多種の皿が並びます。欲しい皿が目の前に来た時に、お客様はその皿を取ります。この時のビジネスの内容は、作り置きです。注文に関係なく、予測に基づいて多種の皿を流すのです。ファストフードと同じ、作り置きビジネスですね。ですから当然、時間が過ぎたものは廃棄しなければなりません。廃棄ロスが出るビジネスなのです。つまり、この段階では回転ずしは小売業だったのです。

一方、これがオーダーレーンになると、どうでしょうか。これは、注文した皿が直行便でお客様の目の前で止まる装置です。つまり、ツーオーダービジネスになったのです。

キッチンでは、作り置いてスタンバイしていることもあるでしょうが、商売の内容が180度変わりました。小売業から外食業への転換が起こったのです。ツーオーダーになったのですから、ロスは出ません。注文を待ち構える外食業への一大転換が図られたのです。装置の進化が、ビジネスの中身を変えてしまった。これからこの装置は、ツーオーダーレーンとして、業種の幅を広げ、世界に普及していくことでしょう。

この装置の最大の特徴は、お客様が雲霞(うんか)のごとく来店しても、人件費が上がらないところにあります。普通なら客数増に比例して人件費は上がるものですが、それがない(ゼロではありませんが)。従来の外食業の最大の弱さを克服したという点で、この画期的な発明は高く評価されるべきでしょう。

外食業は製造業、物流業、サービス販売業の複合体

さて、セントラルキッチンに話を戻します。最近の外食業は、セントラルキッチンを作らずに、外部化(OEM化)をするようになりました。土地を確保して工場を作るのは巨大な投資です。また生産に当たっては、人員を確保しなければなりません。

さらに一定の期間が過ぎると、製造ラインが陳腐化していきますから、新しい機械に変えなければなりません。とてもじゃないが採算が取れない、ということでOEM化が主流になってきました。業務用のメーカーが実力をつけてきた、という事情もあります。

相当込み入った外食側の注文にも、かゆいところに手が届くようにきめ細かく対応する力を身に付けたのです。丸投げしても注文通りのものを、こなれた価格で提供してくれるようになりました。「わが社を御社のセントラルキッチンにしてください」ということです。外食業は肩の荷がすっかり軽くなりましたが、私は「これはヤバいぞ」と思っています。

そもそも外食業とは何でしょう。自分で食材を見つけてきて自分で店に運び、自分で調理して、出来上がった料理をお客様のテーブルに提供する。これを全て行うのが、本来の外食業です。メーカーであり、物流業であり、販売業であり、サービス業である、という実に複雑極まりないビジネスです。

だから、外から参入を試みてもあまりの複雑さに音を上げて、逃げ出してしまうのです。しかし、外食の基本はメーカーです。店で作るか、セントラルキッチンと店との両方で作るか、の違いはありますが、外食業はメーカー、つまり製造業なのです。

製造業なのですから、必要な材料は自分で調達しますよね。そのために、生産地に出向いたり、生産者と手を組んだりして、太いパイプを持ちます。このメーカー部分を外注したらどうなるでしょう。食材の情報が一切、入らなくなってしまいます。外注先に丸投げするのですから、当然です。いい食材を手に入れるという、外食業にとって一番大事な部分を他人任せにする。これが今の外食業にとって、最大の弱点だ、と私は考えています。

そして、作ることも他人任せ、運んでもらうのも他人任せ。店での調理領域は最小限にする、これでは本当においしいものを提供することはできません。外部のメーカーも卸問屋も物流業者も、それぞれが利益を取っています。

つまり、食材の調達から店舗の調理まで一気通貫で自らの手でやることによって、品質の高い商品が提供できるのです。適正な利益が得られるものが、中抜きされて外食業の主の手に残るお金はほんのわずか、というのが現状なのです。

セントラルキッチンなどは外食大手の話でしょう、などと考えていませんか。前回でもお話をしましたが、欲しい食材を自ら探してくる、そして集中できる調理は集中する、この2点を怠っていては、小粒で強い店は保てません。1店だけの小さな規模の店であっても一気通貫の信念を捨ててしまっては強くなれないのです。それを捨ててしまったら、個性のある高質な料理を、競争力のある価格で売ることは不可能です。外注に任せるのは楽ちんですが、それでは本当に強い外食にはなれません。

今すぐ着手することはできないかもしれませんが、探す→運ぶ→作るを自分でやる。一気通貫の信念を持ち続けなければなりません。

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