提供時間、温度、盛り付けが崩れている店は、立ち直れない

原材料費や光熱費、人件費の高騰から値上げを検討する飲食店が増えています。来客数を減らさず、お客様に値上げを受け入れてもらうには、どのようなところに留意しなければならないのか、神山氏に語っていただきました。

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株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

Vol.158

若い世代のテーブルサービス離れが急速に進む

コロナ禍以降でのお客様の一大変化は、“せっかちになったこと”でしょう。日本だけではありません。アメリカの消費者も長時間待つことに耐えられなくなっています。特に、Z世代(10代後半~20代後半)を中心とした、若い世代にその傾向が強くなっています。

若い世代のレストラン離れもそれが理由の一つに挙げられています。
・席への誘導に待たされる
・なかなか注文を取りに来ない
・注文を受けても、料理が出てこない
・複数客のメニューで、提供時間がバラバラ
・そのくせ、チップはしっかり取る。支払い額も高い
こうなってくると若い人は「もういいよ」ということで、ファストフードやファストカジュアルの店に、大挙して流れ出していくことになります。

統計でもそのことがはっきり出ていて、the 2024Technomic Top 500によれば、アメリカ国内の外食業の売上高ランキングでは、1位(マクドナルド)から16位(KFC)までは、すべてファストフードとファストカジュアルの企業です。利便性とクイック提供が強く求められていることが分かります。テーブルサービスでは、17位にようやく「オリーブガーデン」というカジュアルディナーのチェーンが登場します。そして、19位に「テキサスロードハウス」というステーキチェーン(←ここは強い!成長力あり)が登場します。上位20位中、テーブルサービスのチェーンは、この2つだけなのです。

ファストフードとファストカジュアルの違いは話をすると長くなるので、ファストカジュアルはカスタマイズができて、ファストフードのちょっと上級版、くらいに考えておいてください。

ともに、“ファスト”が付くくらいですから売り物はクイック提供です。特に、ドライブスルー1台あたりの注文から提供時間のスピードは各チェーンが競い合ったりしています。とりわけ、若い世代の間では、便利で早く、カスタマイズもできるファストカジュアルを求める傾向が強まっているのです。

値上げが認められる店、認められない店、評価は真っ二つに分かれる

日本では、アメリカほど脱・テーブルサービスは進んでいませんが、それでも提供時間についてはコロナ禍以降、お客様は非常に敏感になっています。注文してから10分以上待たせると、お客様はイライラし始めるのです。それから前述のように、同じテーブルにさみだれ式に商品を出していくと、お客様は不快感を募らせます。居酒屋ならともかく、普通のレストランや料理店で、最初のメイン料理の提供から10分以上経って、別の人のメイン料理が出てきたら、「一体、どうなっているんだ」ということになるのは、当然でしょう。

あなたの店には、提供時間の基準はありますか。一般的にランチは10分以内、ディナーであれば15分以内に、ほぼ同時同卓で商品提供されなければなりません。


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コロナ禍以降、この基準が壊れてしまった店がたくさんあります。経営者がこの問題に鈍感になっています。そして、これが客数減の大きな原因になっているのです。そうなった理由の一つに、デリバリーの普及があります。コロナ禍でデリバリー注文が増え、提供時間の基準がどこかに吹っ飛んでしまったのです。

コロナ禍であれば、お客様も「まあ、仕方ないか」と思ってくれましたが、日常が戻った今、デリバリーに力を入れすぎてイートインのお客様の満足度を落としてしまった店は、客数の回復が遅々として進みません。ここの立て直し(提供時間を明確にしてそれを達成させる)を意識的に進めない限り、売上は絶対に回復しません。

さらに、お客様のもう一つの不満は、盛り付けと温度です。これもデリバリーやテイクアウトに力を入れすぎた結果です。デリバリーやテイクアウトは時間を経て、別の場所で食べるものですから、盛り付けが崩れていても、温度が下がっていても、お客様もある程度は許容していたことでしょう。しかし、そこに経営者の甘えが生まれてしまったのです。盛り付けと温度への無頓着、これが多くの外食店の経営者の間に広まってしまっているのです。

店舗の営業で一番大事なことは、ディシャップにおける商品のビジュアルチェックです。ビジュアルチェックとは、出来上がった料理が基準通りの形になっているか、それを一品一品、確認する作業です。確認は一般的に料理長が行う場合とフロアの店長が行う場合の二つに分かれますが、とにかくOKを出すかNOを出すかの最終責任者です。

このキーマンから「NO」がでたら、盛り付けを整え直すか、作り直すかのいずれかをしなければなりません。均質な商品を出すための要(かなめ)と言えるところですが、残念ながらこのチェックが甘くなっていたり、すっかりなくなってしまっている店が増えているのが、現状です。

現在は店にイートインのお客様が戻ってきていますが、同じテーブルサービスの店であっても、戻りのいい店と悪い店とで真っ二つに分かれています。その分かれ目になっているのが、基準通りの提供時間が守られているか、盛り付けが完全で、ほぼ同時同卓で提供されているか、というところです。さらにもう一つ挙げるとすれば、“おもてなし”です。サービスのレベルが守られているか、どうかです。

テイクアウトやデリバリーの注文が多ければどうしても、イートインのサービスのレベルは落ちます。店自体が外食業から離れて物販業に近づくのですから、当然レベルは落ちます。コロナ禍の混乱期を経て、自店のサービスはどうなっているのか。上がっているのか、下がったままなのか。もう一度、徹頭徹尾見直す必要があります。

そもそも、サービスのレベルを維持するために働く人への教育・訓練がきちんと行われているのか、トレーナーは存在するのか。トレーナーがいるとして、そのトレーナーの教育・訓練能力を上げる努力がなされているか。機能しているのか。この点でもだいぶ怪しくなっている店が増えている、と私は感じます。

人が足りない、などというのは言い訳になりません。足りないならば足りないなりに、教育・訓練をより強化して士気を高め、少数精鋭の働く集団を作っていかなければなりません。「トレーニングを強化すると、すぐ辞めてしまう」などと、不安がる経営者がいますが、その考え方は間違っています。働く人が辞める理由は、教育・訓練も施さずに放っておかれること、そして場当たり的な命令、指示、叱りを受けること。これが最大の辞める理由です。

しっかりと教育・訓練を受けて、能力を身に付けることができれば、仕事が楽しくなり、やりがいが出てきて離職率は必ず落ちます。結局、外食業の基本ができているかどうかで、明暗がくっきり分かれるということですね。

もう一度整理すると、
・提供時間が守られていること
・盛り付け(温度を含む)が完璧
・レベルの高いサービスが維持されていること
この3つです。

今、多くの店が価格改定(値上げ)を進めていますが、この3つが完遂されている店は、値上げしても大丈夫です。お客様も適正な値上げならば、認めてくださるのです。しかし、この3つができていない店の値上げは、悲惨です。止まらない客数減にさらに拍車がかかることになります。

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