Vol.161
3割値上げして休日を設けたのに、売上高は上がった
ローカル都市のある繁盛店のハンバーグチェーンでは、昨年後半に価格を3割も値上げました。それに加え、夜の営業時間を1時間切り上げ、毎週木曜日を定休日としました。
「一度に3割の値上げ⁉ 週1休み⁉ それ、ヤバいんとちゃう?」と、私も大変心配したのですが、結果はどうなったでしょうか。
客数は、1割ほど落ちました。しかし、もともと超繁盛店でしたから普通の繁盛店になった、というところです。よく1割減に留まったものだ、と感心させられます。
看板のハンバーグが売上の85%を占めているチェーンですから客単価は3
割上昇しました。もちろん、原価率は大幅に下がりました。総営業時間を減らしたのですから、客数が少なくなるのは当然です。
客数は1割ほど減りましたが、値上げした分、客単価が伸びたので売上高は上がったのです。原価率も人件費も下がって、利益率と利益額も上がりました。結果、値上げは大成功となったのです。
もともと、超繁盛チェーンであったからできたことで「じゃあ、うちも」と、安易な値上げをしたら客数減はもちろんのこと、売上も利益も大幅に下落してしまいます。でも、このチェーンの大英断は、参考になる要素がいくつか隠されています。
まずは、単品に近い商品構成であったことです。お客様の85%が看板商品を注文してくれるのですから、もともと非常に生産性が高い店だったのです。たくさんのメニューがあって、その注文を受けてから調理を始めるとなると、調理に手間と時間がかかります。
ところが単品となれば、調理時間は極限まで短縮されますし、同じものを作り続けるのですから、調理レベル(スキル)は上がります。自然と質の高い商品がバラつきなく、提供できるようになっていたのです。
また、注文を受ける前から調理を開始することもできます。注文されるものは(ほぼ)決まっているのですから。これも調理時間を短縮する要因になります。
値上げをすると、普通お客様は支払額を上げないように、自己防衛の行動をとります。たとえば、多くのファミリーレストランでは、高級(高価)ハンバーグとレギュラーハンバーグの2種類を持っています。普段、看板商品の高級(高価)ハンバーグを注文しているお客様が、メニューを広げて値上げを知ると「じゃあ、今日はレギュラーにしておこう」という行動を取ります。これが値上げ回避策です。
しかし前述のハンバーグチェーンは単品ですから、お客様はこの行動がとれません。というより、この看板ハンバーグを目当てに来店されているので、注文を変えることはしないのです。
なぜならこのチェーンは、看板ハンバーグの値打ちを上げるために、長年エネルギーを注ぎ込んできました。つまり、“一品の磨き上げ“をやり続けてきたのです。ですから顧客は逃げませんでした。他の店で代替えすることができないレベルの商品の質を持っていたが故に、お客様は値上げを受け入れてくれたのです。
休養こそが良い、サービスの基盤
オンリーワンの商品を持っていれば、メニューを増やす必要もないし、値上げしてもお客様はついてきてくれる、ということです。
お客様が1割減った理由も定休日を設けたことと営業時間を短縮したことにありました。
もともと閉店近くは客数も少なく、これによる客数減は軽徴なものです。むしろ、営業時間が短縮されて、働く人の労働負荷が減り、サービスのレベルが上がったのです。ココが大事です!
深夜の営業時間をカットする店が増えていますが、その心構えが大事です。「働く人の負荷を減らす。楽しく働けるようにする」という目標がなければいけません。
それがあれば、短縮された営業時間のサービスの質は必ず、上がります。このハンバーグチェーンが木曜日を定休にしたのも「より楽しく働いてもらえるようにする」ことが目標だったのです。
値上げよりも、この定休日を設けることの方が、はるかに勇気が要る決断であったと思いますが、これも見事に成功しました。つまり、働く人が心のゆとりを持って、生き生きと働くようになったのです。週1回全店休業となれば、残る6日はこれまで以上に頑張れますよね。際限なくダラダラ働く(働かせる)というのが、一番モラール(士気)を下げるものなのです。
結局、値上げした後、このチェーンの人時売上高(売上高を総労働時間で割った数字)は飛躍的に上がりました。
外食業というのは、製造業と物販業とサービス業の3つが組み合わさった複雑なビジネスです。そして、働く人のヤル気とスキル(熟練度)が、生産性を飛躍的に高めます。
配膳ロボットがチェーンのテーブルサービスに活用されていますが、一見、生産性を高めているように見えながら、実は同じフロアで働く人のヤル気を削ぎ、サービスのレベルを落としてしまうこともあります。
働く人のスキルとヤル気を高めた方が、はるかに高い生産性を確保できるのだ、ということがわかってきました。そして、そのヤル気は十分に休養が取れている人にのみ、発揮されます。
3割も値上げをして、かえって利益を上げたハンバーガーチェーンは、稀有な成功例であって、誰もがやって成功するものではありません。でも、大事な教訓を残しています。
それをもう一度、ここで確認しておくと、
① 単品(に近い)チェーンであったこと。
② その単品を長年かけて磨き上げて、超人気商品にしてきたこと。
③ この単品メニューを求めて、お客様が殺到して、店はいつもお客様で溢れ返っていたこと。
④ 値上げは、その超繁盛を鎮静化しただけで、1割のお客様減に留まったこと。
⑤ その客数減も定休日を設けて、営業時間を短縮したことが、原因であったこと。
⑥ そして、働く人に心と身体の余裕を与えたことで、ヤル気に火が付き、結果的に人時売上が高まったこと。
ということになりますが、やはり最大の教訓は“単品で戦う強い商品を持つこと”に尽きると思います。
値上げ後、このハンバーグチェーンはどうなったか、というと着実に客数を回復させています。今年の前半には、元の客数に戻る勢いです。このチェーンの社長が語る「サービス力が上がっているからお客様が戻っているのですよ」という言葉は、とても重いと思います。
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