Vol.163
配膳ロボット、自動調理機がはびこる時代だからこそ、個人店や小規模店が断然有利に
チェーングループも原材料と人件費の高騰に耐え切れず、価格改定を発表しています。
値上げをしていないのは、私の知る限りではサイゼリアだけでしたが、この2月13日にとうとう価格改定を発表したので、何がどのくらい上がったのか、早速、店舗に行って精査したところ、ランチのドリンクバーを100円から200円に値上げしただけでした。立派というよりほかありません。
創業者の正垣 泰彦(しょうがき やすひこ) 氏は昔、「(お父さん、お母さんが)子供に『何でも好きなものを注文しろ』と言える店を作りたいんだ」と言っていました。そういう店になるためには「もっと安くしなければならない」と正垣氏は考えているのです。
チェーンは一つ一つの食材の取り扱い量が多いですから、その力で安い食材を手に入れられるだろう、と考えている方もいるかもしれませんが、実は大手も個人店も仕入れの価格差はさほどないのです。
むしろ魚などは、大手外食は一定の量を確保するために、高値で買わざるを得ない、というスケールデメリットもあります。つまり、原価率は似たり寄ったりなのです。
では、人件費はどうでしょうか。普通、売上に対する人件費率は30~32%くらいですが、大手の回転寿司チェーンの大型店などは、これが20%近くまで下がります。でも原価率は、42~45%くらいかけなければ、競争力が出ないのです。
郊外の大型店の典型例でいうと、敷地は600坪くらい必要です。そして店舗面積は130坪前後。これで年商3億円くらいの売上がとれます。3億円売上げた時にようやく、人件費率が20%に近づくのです。そう、高速レーンの威力です。
あの装置がフル稼働すると、客数が上がっても人件費はそれに連なって上がることはありません。これが、普通の食堂やレストランと違うところです。補足するとあの高速レーンは、大型店となると2,000万円以上の投資が必要になります。
そして今、回転寿司以外のチェーングループも自動調理機やサービスロボットを導入して、人の手を借りずに店を回すことに力を入れています。それで、人件費率を下げよう(あるいは上げまい)としているのです。
また、チェーンレストランの無人化も急速に進んでいます。入店して席を決めるところから、着席してメニューを決める、そして食事が終わって精算をするまで、まったく人との接触を要さない、という店が増えてきているのです。
少数精鋭のチームを作れば、高い生産性が確保できる
私は、単独店や個人店にとって大変なチャンスが到来したと思います。それではここで、単独店、個人店の強さを考えていきましょう。
まず、メイン食材となる肉や米はそういうわけにはいきませんが、サブの食材については、自分の伝手(つて)と情報力で安くて良い食材が手に入る可能性があります。
チェーングループでは、食材の産地などに赴くことはほとんどありませんから、今こそ生産者との絆を強めてください。月に1回、近隣の農家を回るだけで「売りものにならない(市場に出せない)けれど、おいしく食べられる食材が山ほどある」ということが分かります。
それから漁港です。こちらも商品にはならないけれど、「これはあの料理に使える、これはあれに使える」といったワクワクするような魚種がゴロゴロしています。そのほとんどがタダ同然で転がっているのです。これを漁港の魚屋さんと仲良しになって(こちらもじっくり時間をかけることです)、魚種を問わずに週一とか月に2回などの頻度で、トロ箱に詰めて送ってもらうのです。信用が得られれば、こちらが欲しい魚種やサイズのものを選んで送ってもらえるようになります。
一方、卸問屋との付き合いも大切です。卸問屋はいつの時期にも賞味期限間近の食材を抱えているものです。日頃の付き合いも大切ですが、良好なコミュニケーションが取れていれば、真っ先に情報を伝えてくれます。スポットですが、肉にしても高価なものが驚くような安さで手に入るものです。
同じようなメニューを同じような価格で提供していても、「いい食材を安く」というアンテナを張り巡らせている店主と、何もしない店主とでは、まさに雲泥の差の原価率になるのです。
人件費はどうでしょうか。結論から先にいいますと、少数精鋭のチームが作れるか、店主がいつも率先して店を切り盛りしているか、この2点で大きな差が出ます。
全員が調理技能を身に付け、サービスマインドを共有し、仕事が好きで前向きに意欲的に営業している店と、忙しく立ち動いているのはロボットと自動調理機だけという店とでは、どちらが生産性(稼ぐ力)が上がるでしょうか。前者に決まっています。
外食業の面白いところは、意欲、技能、結束力の三拍子がそろった時に驚くほどの生産性が確保できることです。稼ぐ力を上げるためのもう一つのポイントは、全員が多能工になることです。それぞれがスペシャリティを持ちながらそれ以外の仕事もできるようになる。調理場とフロアの境目を取り払うことです。
高い調理技能を必要とする、いわゆる超高級店はそうもいきませんが、普通の飲食店であれば、フロアとキッチンの垣根を取り払って、十分往来ができるようにすることです。少なくともキッチンを聖域化することは、絶対にやってはいけません。このような自由な行き来ができると、人件費率は大幅に下がるのです。
そのためには、働く人全員が調理とサービスの両方に興味を持つ、そういう風土を店に培っていかなければなりません。それはまさに店主の仕事です。また、繁忙期には人の手当てを厚めにしておかなければならない、といわれていますが、それが必ずしもいい結果はもたらしません。
危険を伴いますが、現有メンバーで一度、営業をしてみることです。もちろん、綱渡りのきりきり舞いの営業が続きます。しかしその限界ポイントを通過してみると、店の営業力が一段高く上がっていることに気付かされます。スキルが上がり、結束力が高まって、異次元のチームに変身しているのです。
この一皮むける極限を店が体験することは、とても大事なことです。自信がつくのです。そして、その後の“山場”が少なくとも怖くなくなるのです。そうすると、たとえば平時6人で運営していた店が5人で回せるようになります。
でも、「5人でできるようなれば、1人解雇してもやっていける」などという考えを持ってはいけません。6人の雇用はそのまま確保して、休日を増やすことです。
今や、週休2日制は最低のラインになっています。これが実行できない店は、もはや営業を続けることが困難な時代に入っています。そのためには、働く人は働く時には目一杯パワフルに働き、十分に休養を取れる体制にならなければなりません。
疲れ切った身体では前向きで意欲的な仕事はできません。生産性を上げるための基盤は、働く人の十分な休養です。このことを肝に銘じておかなければなりません。
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