Vol.164
外食業は一気に“無人化”に向かっている
コロナ禍が外食業を大きく変えた、とよく言われますが一番変わったのは、サービスの質ではないでしょうか。テイクアウトやデリバリーの普及で、外食業はサービスレスの方向に踏み出してしまったのです。外食業が物販業に近づいた、という言い方もできます。
お客様も以前のように、外食業にサービスを求めなくなっています。入店時のお出迎えもない、席へのご案内もない、退店時のお見送りもない。コロナ禍以前ならば「何だ、この店は!」とお客様が腹を立てるところですが、今やこれが当たり前の状況になってしまっています。私は店を出るときに、わざと大きな声で「ごちそうさまー」と叫ぶのですが、今や反応がゼロの店がほとんどです。
ファストフードチェーンや牛丼チェーンは料金前払いですから、違和感はありません。しかし、ファミリーレストランでも自動支払い機が普及して、お客様は無言で支払いを済ませて、無言で去っていくのが普通になってしまっています。ファミリーレストランの中には、入店時の席決めから着席注文、支払いまで全て「無人」で行えるシステムを導入しているところもあります。なので、たまに「普通」のサービスを受けたりすると妙に感激してしまいます。心が和(なご)むのです。
外食業全体がサービスレスに向かっているのですから、これはチャンスです。今、サービス力を強めることに力を入れれば、提供価値が上がり、競争力が高まります。多くの店がサービスの量を減らし、質を落として人件費率を下げようとしています。まさにチャンスなのです。人を増やし、教育・訓練に時間を割(さ)き、サービスのレベルを上げればピカピカの店になります。ぜひ、質の高いサービスを提供する店を目指してください。実際、チェーングループでもサービス力の向上に力を入れているところは、既存店の客数の伸びが顕著です。
それから「値上げ力」が付きます。値上げをすると、一般的には客数が減るものですが、それが減らないどころか、増えているところがあるのです。つまり、客数も客単価も上がる、ということです。それはそうですよね。サービスの良い店を思い出してみてください。その店が値上げをしたとします。どう思いますか。「時節柄、仕方がないよね」とお客様は納得してくださるのです。むしろ、「頑張ってくださいね」と励ましの言葉さえかけてくださいます。
一方、サービスの質を落としている店が値上げをしたらどうでしょうか。「ふざけるなよ」と、お客様は怒りを爆発させてしまいます。サービスの質が悪い店は、値上げが大幅な客数減の引き金になってしまうのです。
サービス力向上には、トレーナーの育成が必須
さて、サービスの質をどう上げるか、です。朝の訓示で「心のこもったサービスをしましょう」と店主(店長)が繰り返し言っても、ちっともサービスの質は上がりません。
まずは、範囲を限定することです。お客様の“お出迎え”と“ご案内”、そして“お見送り”を完璧に行う。これだけでも大変なことです。これがきちんとできるようになれば、お客様の印象はガラリと変わります。いくら「お出迎え、ご案内、お見送りをきちんとやりましょう」と口を酸っぱくして言っても、成果はありません。つまり、店主(店長)あるいはトレーナーが、自ら模範を示さなくてはなりません。
そして、一人一人のクルーに実際にやらせてみることです。できなければもう一度、模範を示して実行させる。模範通りにできたら、そこで褒めることです。つまり、個別に指導することが大事です。一つ一つの動作を具体的に確認し、その都度、修正していかないと、サービス力は身に付きません。
実際の営業での行動を見ていると、レベルの高いクルーとなかなかマスターできていないクルーに分かれます。その時にレベルの高いクルーにトレーナーの地位を与えます。そのトレーナーの数が増えれば、店主(店長)が不在の時でも、サービスの質は落ちません。
一番大事なことは、均質であるということです。いつ行っても、同じサービスを受けられることです。そのためには、教えられるクルー、つまりトレーナーを増やすより他に方法はないのです。お出迎え、ご案内、お見送りが完璧にこなせるようになったら次は、“テーブルタッチ”です。お客様のテーブルに行って、注文を取る、料理を運ぶ、追加注文を受ける。そしてバッシング。テーブルを巡るサービスを“テーブルタッチ”といいますが、多忙にして多様、複雑です。
ここで店の力量が問われます。そしてこのテーブルタッチの内容がお客様の満足度を決めるのです。ここでもトレーナーの存在が大きいです。完璧なテーブルタッチ・サービスができるクルーには、「ベスト・オブ・ベスト」の特別な称号を付与して、それが誰の目にもわかるようにバッジやワッペンや、リボンなど、肩や胸に付けるようにするべきです。そうすると、本人の自覚も一段と高まります。
テーブルタッチの一番大事な仕事は、出来たて熱々の料理を迅速にかつ的確に運ぶことですが、そこにはフレンドリーな笑顔が伴っていなければなりません。この「料理のお運び」の後、最低もう一度、テーブルタッチをしなければなりません。料理の、デザートの、そして飲み物の追加注文を受け、中間バッシングをするためです。
ここも勝負どころです。ここでの適切なサジェスチョンで、追加注文が出れば、客単価が上がります。そして、滞在時間が短縮します。このワンモアのテーブルタッチが、経営上、いかに大事かが分かると思います。チェーンの中でも、優れた店長のいる店は、客単価が上がります。同じメニューで営業していても差が出るのです。その理由は、テーブルタッチ励行による追加注文増にあります。
無理に追加注文を取ったり、客席回転率を上げようとすることは禁物ですが、店が持っている潜在的な力を全開させることがとても大事です。今、進められている外食業の無人化は、店の潜在力を封印させてしまっているのです。外食業の本来の営業力、サービス力を再び回復させるべく、いまこそ舵をきらなければなりません。
そのためには、キーパーソンである優秀なトレーナーを育成して、人材の厚みを増すことに力を注がなければなりません。繰り返しますが、店がお客様の信頼を獲得するためのベースは、「均質である」ことです。
いつ行っても、同じレベルの商品とサービスが提供されていることです。口で言うのは簡単ですが、これが至難の業なのです。ここに外食というビジネスの難しさがあります。
■飲食店経営の明日をリードするオピニオン誌「Food Biz」
鍛えられた十分な取材力、現場を見抜く観察力、網羅的な情報力、変化を先取りする予見力、この4つの強みを生かして、外食業に起こっている変化の本質を摘出し、その未来を明確に指し示す“主張のある専門誌”です。表層的なトレンドではなく、外食業に起こっていることの本質を知りたい人にこそ購読をおすすめします。読みたい人に直接お届け!(書店では販売しておりません)
購読のお申し込みはこちら
年間定期購読: https://f-biz.com/nenkei/
単号購読: https://f-biz.com/tango/
詳しい内容は: https://f-biz.com/mag/
発行:株式会社エフビー
〒102-0071 東京都千代田区富士見2-6-10 三共富士見ビル302
HP https://f-biz.com/ TEL 03-3262-3522
資料請求・お問い合わせはお気軽にどうぞ
「ぐるなび通信」の記事を読んでいただき、ありがとうございます。
「ぐるなび」の掲載は無料で始められ、飲食店のあらゆる課題解決をサポートしています!