Vol.166
気力が衰え、店と商品が少しずつ古臭くなっていく
繁盛店ができても、繁盛が長く続かないのはどうしてか。前回は、その理由を6つ挙げました。
その6つとは、
①看板商品の品質が下落する。
②メニューが増えて、何屋かわからなくなる。
③新しいメニュー、季節メニューがないので、次第に客足が遠のく。
④調理の手抜きが横行する(特に主力商品で)。
⑤調理機器の性能が落ちているのに、使い続ける。
⑥店の看板、外装、入口、内部、キッチンが古ぼけてくる。
です。
今回はその続編として、「店主の心、やる気の劣化」にフォーカスして話を進めます。繁盛店からの転落する原因としては、こちらの方がより深刻だと言えます。
店が古臭くなっても、繁盛店が維持されることはあります。しかし、店主がやる気を失って、なお繁盛店が維持されることは“絶対にありません”。“モノの劣化よりも心の劣化の方が、はるかに影響が大きい”のです。
知恵と経験と、全エネルギーを注いで作った店が、開店後、幾多の試行錯誤を経て、ようやく軌道に乗ります。みの固定客も確実に増えて、お店は繁盛店の地位を獲得します。
店主と奥さんは共働きで、全身全霊で営業に力を入れます。身体はきついのですが、1日1日が充実しています。「苦労して開店してよかった」としみじみと実感する日が続きます。
しかし、日々の繁盛が常態になってくると、お客様が来店することが当たり前に思えてきます。開店当初の店主の“緊張の心”が少しずつ緩んできます。
“心の余裕ができる”ということならば良いのですが、心に隙間が生まれ、その隙間が徐々に広がっていくのです。
仕事と店に対する関心がだんだんと薄れていくのです。するとそれと同時に、じわりじわりと客数の減少が始まります。
外食業というのは、「時流ビジネス」の面が濃いですから、時代に見放されると、あっという間に繁盛店の地位を失います。同じ商品でも、時代に合わせて、絶えずリフレッシュしなければなりません。
古い商品と古臭い商品は違います。例えば、資生堂パーラーのメニューは古いですが、古臭くはありません。中村屋のカリーもそうです。長い歴史を持つ商品ですが、古臭くはなっていません。時代が求めるものを提供し続けています。
両店のメニューは「クラシック」ではありますが、全然「オールド」ではないのです。長寿の理由は、前回も言いましたように、素材から調理方法に至るまで、絶えず磨き込みをしているからです。質を変え、向上させているのです。
繁盛のための、最大の仕事は「力のある後継者を育てること」
商品は、常に「時代の風」に触れさせていなければなりません。ところが、多くの経営者は店の中にこもりっきりで、時代の風に触れようとしなくなります。
一言で言えば、“好奇心の喪失”です。店にこもりっきりで外界への関心が消えてしまっていくのですね。何も全ての分野に関心を向ける必要はありません。食の分野だけでいいのです。“食への好奇心”は持ち続けなければなりません。
世間ではどんな料理が、どんな味付けが流行っているのか、形状はどうか。ポーションや盛り付けに変化があるのか。どういう業態(売り方)の店が主流になっているのか。立地の顕著な変化はあるのか。やはり、時流を捉えて繁盛している店には出かけていって、試食をしなければなりません。
好奇心は年とともに薄れ、食欲も小さくなることは避けられませんが、勇気を奮い起こして、そして目を光らせ、鼻を利かせて、自身を「時代の風」に触れさせ続けなければなりません。
この時に有効なのが「友人」です。同業者であれば、経営上の悩みを相談できますが、必ずしも同業者である必要はありません。食への好奇心の強い友人を持って、彼らを水先案内人にして、食のトレンドに触れ続けるのです。
産地に強い人、食材に強い人、ワインやその他の酒類に強い人、外食チェーンの動向に強い人、海外の流行りものに強い人、料理界の新星に目を光らせている人、性別、年齢、仕事の垣根を取り払って、広く多様な人脈を持つのです。そしてその「交流のリフレッシュ」を続けるのです。
そして、その友人たちと定期的に会い、話題の店で食事をして、情報を交換するのです。この時に注意すべきことは、“影響を受けすぎない”ことです。
情報に振り回されて、自分の店をとんでもない方向に持っていってしまう経営者がしばしばいます。新しいメニューや、高単価商品をどんどん入れてみたり、テイクアウトに力を入れ過ぎたり、内装を替えてみたり、と、自分の店とおよそかけ離れたことをやってしまうのです。
情報はあくまで情報として受け止め、自店の営業は“従来通り地道にやり続ける”。これこそが大事です。この立ち位置を守り抜かなければなりません。
持続的にやり続けることは、自分の店の守備範囲を守りながら、“主力商品の質と価値を上げていくこと”です。主力商品の出数が減っているとしたら、あなたの店は間違った方向に向かっているといっていいでしょう。
「オールド」ではなく、「クラシック」な店を目指すことです。そして、客数を少しずつ少しずつ上げていくことです。客数増の大部分は、既存のお客様の来店頻度アップで果たされるのだということを、忘れてはなりません。既存のお客様の満足度をどのように上げていくか、そこに力を注いでいかなければなりません。
もう一つ重要な問題があります。「客層の高齢化」です。放っておくと、お客様はどんどん年を取っていきます。そして年を取ったお客様は、どうしても来店頻度が落ちていきます。つまり繁盛を継続するために、常に“客層の若返り”を考えていかなければならないということです。
口で言うのは簡単ですが、これは至難の業です。私も「若返りの妙薬は、これです」という明確な答えを持っているわけではありません。
一つ参考になるのは、マクドナルドなどのファストフードチェーンのマーケティング戦略でしょう。彼らは、客層の高齢化をいつも気にしています。そして新商品や、販促で若い(幼い)お客様を導入することに非常に熱心に取り組んでいます。つまり、ファミリー客を大事にしています。両親が連れてくる子供たちに狙いを定めているのです。あるいは、子供が両親に「あの店に行きたい」と言わせるよう、いつも心掛けています。
彼らと同じことはできませんが、“子供を狙え”です。「うちの店は、子供が来るところじゃないよ」という店もあるでしょうが、クラッシックな老舗居酒屋でも、繁盛している店は先輩が後輩を連れてきて、その後輩が常連になる、という形で絶えざる若返りが行われています。
多くの店が、店主とお客様が足並みをそろえて、高齢化の道を進み、そのまま閉店していくという道程をたどります。この道を回避するためには、“若手を鍛え、経営能力を持った後継者を育てること”が第一の仕事になります。そしてもう一つは、“若くて生きのいいお客様にファンになってもらうこと”です。この二つがうまくつながっていくと、長い歴史を持つ繁盛店が生まれるのです。
残念なことに、その第一の仕事、「後継者を育てていくこと」に、大部分のオーナーシェフの店が失敗しています。大体、オーナーの“一代限り”で終わります。これはオーナーの多くが、店を始めるときに「俺一代の店」とどこか潜在的に思っているからなのです。「それでいい」と思っているのです。この考えを追い払わない限り、持続する繁盛店は生まれません。
繰り返しますが、持続のための最大の仕事は、“有能な後継者づくり”です。
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