不足している時にこそ、いい食材の提供に全力を傾けよう

食材費高騰に直面する飲食店。値上げや量目(りょうめ)減、提供する料理の品質低下といった安易な対策をしていませんか。逆境だからこそ「売らない」選択や、あえて「高品質な食材にこだわり抜く」ことで、お客様から信頼を得て繁盛へつながる道があるのかもしれません。勇気が問われる経営判断について、株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏が解説します。

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株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

Vol.167

「売らない」ことも、一つの選択肢

米の価格が高騰し、外食に携わる多くの方々が苦しんでいます。特に米を主食材とする定食屋、丼物屋、おにぎり屋、弁当屋などは、原価の高騰に直面しています。

主食材の値段が上がった時、“打てる手”は次の4つが考えられます。
1)値上げをする
2) 量目を減らす
3) 安い食材に切り替える
4) 売らない

「4)の売らないはないだろう」と思われるかもしれませんが、これも一つの選択肢です。

牛丼チェーンの「吉野家」は、BSEの問題でアメリカ産牛肉が入手できなくなった時、牛丼の販売を一時的にやめました(2004年2月11日~)。“オーストラリア産では味が変わってしまう”というのがその理由でした。そして37カ月後に販売を再開した際、お客様から圧倒的な支持を得ました。つまり、「売らない」ことでブランド力を高めたのです。

もし、羊羹(ようかん)の老舗「虎屋」が、望む品質の小豆をどうしても入手できなかったらどうするでしょうか。質の低い小豆を使うでしょうか。これも絶対にしないでしょう。望む質の小豆が手に入るまで、販売を中止するはずです。1mmでも品質を下げたら、480年にわたる老舗の地位が保てなくなることを、彼らは知り尽くしているからです。

つまり、3)の安い食材に切り替えるのは、やってはいけない「悪手」です。

前述の業種の店で、米の品質を落としたらどうなるでしょうか。お客様は一転して店から離れていくでしょう。最も頻繁に買ってくださっていたヘビーユーザーが最初に店を離れ、二度と足を運ぶことはないはずです。結果として、店は廃業の道を突き進むことになります。

では、1)の値上げと2)の量目を減らす、はどうでしょうか。どちらも避けたい選択肢ですが、場合によってはその道を選択せざるを得ないかもしれません。

食材が高騰した時に、どうすればいいか。ヒントは食品メーカーの対応にあります。食品メーカーは材料の品質を落とすことは絶対にしません。味が変わったとなれば、お客様の信用を一気に失ってしまいますし、販売店(食品スーパー、コンビニ、個人店)も商品を扱ってくれなくなるからです。

そのため食品メーカーは、商品の値上げをするか、量目を減らすか、あるいはその両方か、という選択をします。実際に量目を減らした商品も数多く出回っています。

しかし、外食業で注意しなければならないのは、量目です。量目を減らすと、味が変わってしまうことがあるのです。

先の例で言えば、牛丼やおにぎりがそうです。お米の量と具材の量の微妙なバランスの上に「味」が成り立っている商品です。お米の量が変わると、全く違う味に感じてしまうことがあります。すし飯も同じです。米の量を同じにしてネタだけを大きくする「デカネタ」も、全く違う商品になってしまいます。

ハンバーグも同様です。例えば150gから120gへと量目を変えると、味が変わる可能性があります。ですから、外食業においてはポーション・バランスが非常に重要なのです。量目を変えなければならないこともありますが、よほど注意して変えないと、味のバランスが狂ってしまうことがあります。

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「品質を下げて、値上げ」は破滅への道

米の高騰に話を戻しますが、このような時こそ、使用する米の品質と炊き方をとことんお客様に訴求することで、店の評判が一気に上がることも忘れてはなりません

それは、今ほど米の品質に敏感になっている時期はないからです。かく言う私も、今まで5㎏の米がいくらするのかを知りませんでした(すみません…)。たまにとびきりうまいご飯を食べて感激することはあっても、普段は“まずくなければいい”くらいに思っていました。

そんな私が、今では“ツヤ”がどうの、“粘り”がどうのと、いっぱしのことを言うようになっています。つまり、お米の質に敏感になっているのです。だからこそこういう時は、品質に“とことん”こだわる姿勢を見せるべきです。

「今、国産ブランド米を使っています」「炊飯にこだわっています」「おいしいお米を提供するために全力を傾けています」と訴えたらどうなるでしょうか。消費者は「これは行ってみる価値がある」と、重い腰を上げるはずです。

実際に寿司チェーンや定食チェーンで、ここぞとばかりに「“おいしいお米”キャンペーン」を実施し、お客様の支持を高めているところがあります。しかも、値上げをせずにです。それでは原価が上がってしまうではないか、と誰もが思うでしょう。

確かに原価は上がります。しかし、それ以上に客数が伸びたら、利益率が下がっても利益額は上がります。さらに客数が伸びたところで、ほんの少し値上げをすれば、原価率もちゃんと適正に収まります。心配はいりません。これで店の評判が上がり、繁盛を手に入れられれば、大成功ではありませんか

つまり食材の価格が上がった時に、コソコソと安い食材に手を出すのではなく、より良い食材を使ってそれをとことん訴求した方が、絶対に良い結果が出ます。大部分の外食業は、これをやる「勇気」がないのですから、やったもの勝ちです。繁盛店とは、まさにこれをやって、さらにやり続けて、お客様の支持を得た店なのです。

昔、繁盛店の共通要因を徹底的に調べたことがあります。その共通要因が何であったかというと、「原価率が高いこと」でした。拍子抜けするような結果ですが、事実はそうなのです。

この「原価率が高い」を分解すると、1.価格が安いか、2.高質な食材を使っているか、になりますね。高質な食材を使っていて価格が安ければ、店は繁盛します。お客様が放っておきません。現実には、その両方をやっている店はごく稀です。やる勇気を持った経営者が少ないのは、利益が出ないと考えているからです。

確かに、食材の品質を落とし、価格を上げれば、計算上では十分に利益が出ます。しかし、そんな店には、お客様が足を向けません。客数がゼロでは、利益が出ないどころか、赤字を垂れ流すことになります。利益を追いすぎると、利益は遠ざかっていくのです。

ここでもう一度、お客様へ提供する価値をどう高めるか、という原点に立ち戻るべきです。そして、「いい食材からしか、おいしいものは作れない」という外食業の鉄則を、心の中で噛みしめるべきです。

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