価格を守ったところが、生き残る

昨今、外食業界を覆う「やれやれ値上げ」の空気。食材費や人件費の高騰を受け、安易な値上げに踏み切っていませんか?実は、安易な値上げは客数減を招き、やがて客単価まで下げるという厳しい現実があります。消費者の財布の紐が固い今、本当に強い飲食店とは何か、そして「価格を守る」という勇気が、どのようにして顧客の信頼と繁盛へとつながるのかについて、株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏が解説します。

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株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

Vol.168

高騰する外食費の裏側にある「やれやれ値上げ」の心理

仕事柄、私の食事のほとんどは外食ですが、日々感じるのは「ずいぶん高くなったなあ」ということです。500円ランチの時代はとうの昔に終わりましたが、今は1,000円を軽く超え、1,500円は当たり前、うかうかしていると2,000円近く払うことさえあります。

コメの価格はもとより、食材費全般が上がり、人件費も少し前までは時給800円台が普通だったのに、今では1,200円が当たり前になってきています。さらに、インバウンドの来襲もあります。金払いのいい外国人が我が国に大挙して押し寄せ、3,000円のラーメンに舌鼓を打ち、回転ずしの高価格皿(たとえば、マグロづくし3貫1,000円)をカウンターに積み上げています。

かくして日本の外食業は一斉に「やれやれ値上げ」に突き進んでいるのです。

株の世界には「やれやれ売り」という言葉があります。長く低迷していた株の保有者が、ようやく株価が上向きになったところで「やれやれ」と言って株を手放すことを指す言葉です。実は、本格的な高騰は「やれやれ売り」をした後にやってくる、という話です。外食業の「やれやれ値上げ」は、値上げをしてもようやくお客様がついてきてくれる時代になった。もう大丈夫、という気持ちからの値上げを指します。

値上げした結果、客数は下がったものの、それ以上に客単価が上がり、原価率も下がったので「まあ、いいか」と思っているのが、今の外食業全体を覆う空気です。そして、「もう一段値上げしてみようか」と多くの店主が心の中で考えています。

私もこの状況で、全く値上げをするなとは言いません。しかし、値上げに対し超警戒派であることは表明しておきます。チェーングループを見ても、値上げをし過ぎたところは強い逆風を受けています。一方、値上げしないサイゼリヤは、客数が2019年比で3割以上も増えています(売上は5割増)。どの店にどの時間に行ってもお客様で溢れ返っています。サイゼリヤに行くたびに、やはりお客様は価格に厳しい目を光らせているのだな、ということを痛感します。

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値上げは客数を減らし、客単価も下げる

失われた30年、デフレにも苦しめられた30年。その時代が終わって、ようやく値上げができる時代がやってきた。外食業に限らず、他の業界も多くがこの認識に立ち、価格をポンポン上げているわけですが、価格についてはこういう見方もできます。

苦しみ抜いた30年であったからこそ、低価格で提供しても利益を出せる力を身に付けた、と。つまり“価格力”という強さを我がものにすることができた、と前向きに考えることもできるわけです。

その強みを今、存分に発揮しているのがサイゼリヤなのです。価格を守りながら(現在客単価は842円)しっかり利益を出しています。さらに出店力もついてきています。今は国内1,049店(2025年5月時点)のチェーンですが、創業者の正垣 泰彦(しょうがき やすひこ)会長は「国内で2,000店まで出せる」と強気です。まさに価格力が、新しい市場を生むことができたのです。

さらに海外での出店を強めています。2025年5月8日にはベトナムのホーチミン市に1号店を出しましたが、すでに中国、アジアには623店の出店(2025年7月時点)を果たしており、店舗数を増やし続けています。「やれやれ値上げ」をした他のチェーンに比べると成長力の差は歴然としてきました。つまり、サイゼリヤはデフレの30年間を失われた時代として捉えるのではなく、「強い体力と体質を身に付けた時代」としてポジティブに捉えているのです。

何もかも値上げをしている現在、前述のように価格を上げないことは勇気がいりますし、全く上げないわけにはいかないとは思います。しかし、アメリカの外食業を見ても、過度に価格を上げたところは、どこも客数減に苦しんでいます。アメリカのマクドナルドもその一つで、今は慌ててドリンク付きで5ドルの低価格メニューで客数回復をしようと必死です。ビッグマックも大幅値下げをしました。他の多くのチェーンも低価格セットメニューの導入に力を入れています。

日本もアメリカと同じです。消費者の財布は、紐を固く結んだままです。まずはあなたの店を昨年の同月と比べてみてください。「売上は上がっているから大丈夫」などと思ってはいけません。客単価が上がって、売上が伸びていると経営者は安心しがちですが、大事なのは客数です。客数が1人でも減っていたら、あなたの店の人気は落ちているのです。

毎年5%ずつ客数が落ちている店は、10年後には客数が6割を切ってしまいます。それを価格アップでしのいでいると、客数減は5%では済まなくなります。ある段階からガクンと客数が下落してしまいます。さらに厳しいことに、強度の値上げをすると、しばしば客単価が落ちていきます。お客様は安いメニューを注文するようになります。そしてさらにサイドメニューを注文しなくなり、注文皿数が減ってしまうのです。つまり、これはお客様の防衛対策の表れです。こうなると客数は減り、客単価も下がるというダブルパンチを受け、いよいよ利益が出づらくなります。牛丼チェーンやうどんチェーンを見ても、たった10円の差でお客様の移動が起こります。

そして外食全体が値上げをしている今、消費者の外食の利用頻度も落ちています。いわゆる「外食控え」ですが、それがすでに起こっているのだ、ということを強く意識しなければなりません。消費者がどこに流れているかというと、食品スーパーに流れているのです。それも超安価なディスカウントの食品スーパーとドラッグストアに流出しているのです。

最後に、アメリカで今、強くなっているチェーンの特徴を記しておきましょう。
(1)メニューが少ない(特に単品チェーンが強い)
(2)店舗調理力を重視する(店に技能を持つプロがいる。またそのプロを育成することに熱心)
(3)絶えず主力商品を磨き上げ、レベルを上げる
(4)人によるサービスを重視する
(5)店で働く従業員の団結力、前進力を重視する

つまり、外食でしかできないことを、とことん追求しているところが強いのです。外食は「店舗で最終価値を生むビジネス」です。そのことをもう一度、肝に銘じておかなければいけません。

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