“季節メニュー”を出し過ぎると、店の評判を落とす

“季節メニュー”を安易に増やすことは、かえって店の専門性を失わせ、評判を落とす原因になりかねません。「サイゼリヤ」や「チックフィレ」など、固定メニューで成功している企業の事例から、本当の強さとは何かを探ります。新メニュー開発の鉄則や、安易な値上げがもたらすリスクなど、繁盛店の本質について株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏が解説します。

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株式会社エフビー 代表取締役 神山 泉 氏
早稲田大学卒業後、株式会社 柴田書店に入社。「月刊食堂」編集長、同社取締役編集部長を経て、2002年に株式会社エフビーを発足。翌年、食のオピニオン誌「フードビズ」を発刊。35年以上もの間、飲食業界を見続けてきた、業界ウオッチャーの第一人者として知られる。

Vol.169

固定メニューこそ、客数を伸ばし続ける最強の武器

日本には四季があるため、季節メニューや季節限定メニューは必要だと言われています。チェーングループでは、ファストフードもテーブルサービスも、季節ごとの新メニュー投入に熱心です。

絶えずお客様を刺激して、再来店を促し続けています。それをしないとお客様の来店頻度がだんだんと落ちていき、客数減のトレンドに入ります。これを回避するために、一年中新メニューの投入をし続けているのです。

新メニューを投入し続ける目的は、以下の7つに集約されるでしょう。
1)休眠客の目を覚まさせる
2) 来店頻度の下落を止める
3)客単価を引き上げる
4)競合店のお客様を奪う、または奪われるのを防ぐ
5)新しいお客様を呼び込む
6)お客様の高齢化を防ぐ
7)ひとつ上の価格帯、新しい柱となるメニューの実験

しかし、新商品を安易に投入をし過ぎると、主力商品がぼやけて、専門性が失われ(何屋かわからなくなり)ます。新商品がよく売れることは大事ですが、それで主力商品の売れ個数が落ちてしまっては本末転倒です。

主役はあくまでも、主力商品の売れ個数のアップでなければなりません。どんな商品を投入しても、確実に主力商品の売れ個数が伸びていかないのであれば、その店は衰退の道を歩んでいると言わざるを得ません。本当は、新商品を投入しなくても、客数と主力商品の売れ行きがともに伸び続けるのがベストです。

アメリカの外食業で好調なチェーンに行くと、メニューが少なく、そして固定されていることに驚かされます。マクドナルド、スターバックスに次ぐ全米第3位のチキンチェーン「チックフィレ」は、主力商品がチキンバーガーとチキングリルバーガーの2品だけです。それでも1店舗あたりの売上は伸び続け、店数も増え続けています。

チキンの急成長チェーンとして注目されている「レイジングケインズ」や「デイブスホットチキン」の主力商品はたった1品です。私はレイジングケインズの大ファンですが、行くたびに質が上がり、おいしくなっているのです。店での仕込み領域が大きく、作り置きもしません。1品にかける情熱が、ひしひしと伝わってきます。ずいぶんと手間をかけているにもかかわらず、店数は増え、1店舗当たりの客数も増え、急成長が止まりません。

日本では、今絶好調のチェーンといえば「サイゼリヤ」が筆頭に挙げられますが、このチェーンはメニュー内容も価格も固定したままです。それでも客数は増え続け、客単価も上がっているのです。つまり、1人当たりの注文皿数が増えているということであり、これは一番良い形と言えます。

既存のメニューに確固たる強み(価格競争力も含む)があれば、新メニューは必ずしも必要ではないということを頭に入れておかなければなりません。それこそが、専門店の本来あるべき姿です。「サイゼリヤ」のメニュー(価格も)は固定していますが、味の質は上げ続けています。「味は変えない、質は上げる」。この外食業の鉄則を忠実に守っているのです。

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大事なことは、そのメニューで「店の評判が上がる」か

しかし、他店にお客様を奪われないためにも、日本では新メニューも必要になります。季節メニューを心待ちにしているお客様もたくさんいるからです。ここがポイントです。「待ち望まれる、売れ筋メニューをどう作るか」、つまり「季節メニュー」の定義化が必要だということです。

うなぎは、和食店はもちろん、今や牛丼チェーンからファミリーレストランまで、季節メニューの定番になっています。冷麺や冷やし中華も夏場の定番です。秋になるとファストフードチェーンが一斉に月見バーガー・チキンバーガーを出します。クリスマス商戦では、チキンメニューが盛大に売られます。

強い店(チェーン)はどこも、季節メニューのカレンダーが作られています。毎年、一定の時期が来ると店頭や店内で季節メニューを予告し、お客様の目を引きつけ、「食べたい」という欲求をかき立てます。

カレンダー化、固定化は重要ですが、同時に内容の進化を続ける必要があります。毎年少しずつ進化している、少しずつ変わっている。これが実現できていると、翌年の売れ行きがさらに上がり、期待度も高まります。

価格はどうでしょうか? 値上げは避けたいところですが、季節メニューや期間限定メニューには客単価を引き上げる役割もあります。そのため、お客様の反発を買わない範囲(この設定は難しいですが)での値上げは許容されるでしょう。

「よく売れたから期間限定メニューを通常メニューにする」というのはどうでしょうか。これは基本的に避けるべきです。なぜなら、期間限定だからこそ売れるのであり、通年商品にしたら魅力がなくなってしまうからです。

それでも通年商品にしたい、それほど勢いよく売れたということであれば、ビジネスの中身を変える覚悟が必要です。つまり、その商品を核とした新しい商売に乗り換える覚悟です。

そうした成功例がないわけではありません。「フライングガーデン」は「爆弾ハンバーグ」で有名ですが、元々まかない食で作っていたハンバーグを実験的にメニューで出したところ、文字通り爆発的に売れ、結果的に「爆弾ハンバーグ専門店」に変身して、成長してきたのです。

商売替えをする覚悟があるか、ということです。一番いけないのは、新商品を定番メニュー化することでメニュー数が増えることです。主力メニューがどんどんメニュー群の中に埋もれていき、専門性が失われる。その道は何としても避けなければなりません。

定番メニューに加えるのであれば、既存メニューの一品を削る。そしてメニューの数は増やさない。これを堅持することです。新商品を入れる時に大事なことは、「それで店の専門性が上がるのか」という問いかけです。そのことを常に問い続けなければなりません。

一番いけないのは、流行り品だから、トレンドだから、という理由だけで新メニューを導入することです。そんなものは、どうせ中途半端なものにしかなりません。常連のお客様の反発を買うようなメニューを出すことは厳禁です。慣れないこと、不得意なことには手を出さない。この成功の鉄則は、新メニューの開発においてこそ、肝に銘じるべきでしょう。

また、いくら価値のある商品が開発されても、調理が煩雑になって、そのメニューのみならず、既存のメニューの提供にも時間がかかるようでは、それは提供してはいけません。既存のメニューの提供に支障をきたすような商品は、売れても失敗作です。未練を残すことなく、導入を断念しましょう。

季節メニュー、期間メニューの導入にあたって忘れてならないことは、「それで店の評判が上がるのか」という問いかけです。不得意なものを無理に開発して、それを提供してお客様の不興を買うケースがあまりに多いのです。得意なものしか出さない、これを守り抜いて成功している店(チェーン)の方が多いです。この一品に命をかける、この情熱を失わせるようなことは基本的にやらない。これを原則としてください。

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