Vol.171
高い技能を持つ主人がいる老舗居酒屋に若いお客様が集まる
チェーンの居酒屋グループの苦戦が続いています。他の外食業はコロナ禍が収束してから客数、売上高で堅調な回復基調に入っていますが、居酒屋チェーンは低迷を続け、浮上してきません。
その中で例外的に好調なのが「鳥貴族」で、客数も客単価も既存店が前年比率を100%クリアし、店数も増やしています(2025年5月末時点で661店舗)。その他で強いチェーンは、小型の立ち飲みチェーン「晩杯屋(バンパイヤ)」です。こちらは「丸亀製麺」などをやっているトリドールの傘下のチェーンで、ふらっと立ち寄って軽く飲んで、1,000円札1枚でさっと帰れる気軽さが受けています。ほとんどの店が駅近で、女性の一人客も結構います。
チェーンとは別の、個人経営の居酒屋はどうかというと、全部が全部いいわけではありませんが、主人の調理技能が高く、一品一品の料理の質が高く、お酒(特に日本酒)の品ぞろえがよく、納得できる価格で提供している店は、どこも満席です。客単価は5,000円(店によっては1万円近く)を超えていても、古いなじみの顧客に加えて、新規に若いお客様が増えているのです。
「本物は少ない。だからこそ、強い」をまさに地で行っています。お酒を売る店は、有為転変が激しく、寿命も短いと言われますが、こういう強い、長寿の店を見ると、そんなこともないぞ、という思いを新たにします。
1980年代は、“居酒屋ブーム”の中で多くの居酒屋チェーンが生まれましたが、なぜ消えていったか、あるいは低迷を続けているのかといえば、メニューにオリジナリティーが欠けていたからです。一通りの居酒屋メニューはそろっていましたが、これ、という際立つ看板メニューが一つもなかったのです。かつては酒と場所があればいい、という時代でしたから、これでも通用したのでしょう。
しかし、アルコール市場は随分と変化を遂げました。若者のアルコール離れはさらに進んでいます し、これに加えて高齢者(私も)はアルコールをほとんど飲まなくなっています。市場の縮小が著しく、“酒と場所だけ”で通用する時代は、とうに終わってしまいました。
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中華チェーンに居酒屋市場が移動している
ここで「鳥貴族」の話に戻りますが、なぜ好調なのかというと“脱居酒屋”の道を進んでいて、新しいお客様を獲得しているからです。もちろん昔ながらの繁華街やターミナルの店は、これまで同様に居酒屋として機能していますが、郊外駅前の店などはファミリーが増え、週末はファミリーレストランとして機能しています。
標準店の店舗は40~50坪(70~80席)で、客単価は2,350円。これで年商1億円を売り上げています。大きな変化は、売上の中に占めるアルコール比率です。以前は売上の半分をアルコールで占めていましたが、今や35%にまで下がっています(フード比率が65%)。
お客様が飲まなくなったことも一因ですが、やはりファミリー需要の多い店が増えたことが最大の要因です。使われ方、つまり業態が変わったのです。昔ながらの居酒屋市場にどっぷり浸かったままでは、先がないということです 。私はここに、アルコールを売る店が生き抜くためのヒントがあると思います。
ちなみに「鳥貴族」のライバル店は居酒屋ではありません。ファミリー、食事客が利用できて飲めるところです。具体的には、ラーメンの「日高屋」や「餃子の王将」です 。両店とも飲むお客様のためのメニューを充実させています。しかも居酒屋で飲むよりはるかに価格が安い。スモールサイズの中華メニューの品ぞろえを豊富にして、食事客のみならずアルコールを求めるお客様をしっかり捉えています。
こういう食事中心の専門チェーンに、アルコール客を奪われていることにも、注意をしなければなりません 。もう大箱で、グループで、大酒を飲んで長居する、というお客様は激減しており、これからも減っていく一方でしょう。
「看板商品」と「技能」で目的来店を促す老舗居酒屋
それでは従来型の居酒屋は消滅していくのでしょうか。そんなことはありません。生き残る店は、冒頭で述べた通り、技能を持った主人がいて、一つ一つの酒の肴のレベルが高い店です。そして「あの店に行ったら絶対アレを注文する」という、看板メニューを持っている店です。こちらは完全な目的来店ですから、ちょっと変な立地でも、お客様が押し寄せるのです。しかし、そういう店は激減しており、若者が老舗居酒屋を求める傾向が強くなっているのは、このためといえます。
需要は増えているのに、店は減っている 。そういう領域にこそ狙いを定めて、息の長い店を作らなければなりません。しかし、「そうか、分かった」、と言ってすぐに始められるほど簡単な商売ではありません、年季が必要です。一番大事なのは主人の技能です。そして、それによって生み出される質の高い商品です。また、お酒(特に日本酒)に関する知識がなければなりません。その知識に支えられた品ぞろえが大事で、「おっ、この酒がこの値段で飲めるのか!」とお客様に驚いていただかなければなりませんから、価格もとても大事です。
老舗居酒屋と比べて、お酒の品ぞろえと価格で勝っていなければ、お客様に何度も通ってもらえる顧客の形成はできません。主人の技能が大事といいましたが、技能を持たないのであれば、高い技能を持った人を雇わなければなりません。しかしこれは大変な危険を伴います。いつ辞めるかわかりませんし、お客様を選り好みしたり、妙ななれ合いの仲になったりして、店の評判を落とすケースも少なくありません。できれば筋のいい若者をゼロから鍛えて(つまりレベルの高い居酒屋や日本料理店で修業させて)、確かな技能と商売に対する真っ当な姿勢を身に付けるようにすることです。これもまた、成功したとしても時間がかかります。老舗居酒屋を求めるお客様は増えてはいますが、そのニーズにきちんと応えられる店になるのには、なかなか難しいということです。
今、あなたが居酒屋かアルコールを売る店を経営しているのであれば、絶対に強い看板商品を持つことに力を入れてください。そして食事ができる店、という方向に転換できるか、も考えてみてください。さらにファミリーが周辺にいる場所で、店を経営しているのであれば、ファミリーが来店していろいろな料理を皆でシェアできる店に転身する可能性も探ってください。もちろん、その時は営業時間も変えてみなければなりません。
「鳥貴族」では、午前11時、お昼の12時から営業する店が増えています。居酒屋に限ったことではありませんが、需要の変化に合わせて果敢に業態転換をしたところだけが、生き残っているのです。そしてとりわけアルコールビジネスが、恐ろしい勢いで需要の中身を変えています。場所を変えることも、営業時間を変えることも、業態転換の一つなのです。
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