自由かつ戦略的な発想で、その街に合う店を展開していく
ファンクリックス株式会社・代表取締役の木月浩平氏は、飲食業界で働いた経験がまったくないなか、26歳で起業。わずか3年でブランドの異なる6店舗を展開し、いずれも売上は好調だ。今後の5年間で50店舗を目指し、積極的に出店していくという。その成長の秘密と将来の目標などを伺った。
――学生時代から起業を目指しながらも、飲食業へのこだわりはなかったそうですね。
大学生のときから漠然と、5年後の26歳くらいまでには起業したいと考えていました。そのため、卒業後の進路は、将来の起業に備えて営業職を選択しました。最初に入社した不動産会社では個人営業を、その後に転職した株式会社リクルート(当時)やアデコ株式会社では、法人営業や労務、経理など様々なことを学びました。
大学時代の同級生で、飲食店を出したい友人がおり、卒業後一緒に起業することを約束していました。料理はできないが、営業や経営の知識はある自分。飲食店をやりたいが、バックオフィス(事務・管理)業務が得意ではない友人。足りない部分をちょうど補い合えるのではないかと考え、2009年に協力して会社を設立しました。起業して3年目に、独立メンバーとして参加したその友人は、自分の店を構えるために独立しましたが、私自身も起業の夢を達成することができ、お互いプラスになる関係だったと思います。
起業が目的で飲食業を選んだのでは?と問われれば、確かにそうだったかもしれません。ただ社会人になってから、外食企業への営業や仕事柄、外回りをするので色々な繁盛店を見に行き、勉強していました。次は「フレンチビストロ」か「魚居酒屋」の店を作りたいという希望はありますが、その業態でなければならない、という強いこだわりは持っていません。これまでも「やりたい店」よりも、「できる店」を出店してきました。
事業を続けていくうえでは、予算、物件、人的リソース、競合優位性など、様々な要素を勘案しなければなりません。さらに、その土地でどんなお客様に来ていただきたいのかを考えれば、自ずと最適な業態が決まっていくと考えています。
――起業後はトライアンドエラーがつきものですが、最初の店舗から順調だったのですか?
最初に出した鶏専門店「水炊き 炭火焼鳥 灯 -AKARI- 新丸子店」は当初、住んでいた武蔵小杉にオープンしようと考えていました。しかし、大規模な再開発が進んでいたので新丸子にも将来性があると判断して決めました。また、オフィス街が近いので、集客も見込めると考えました。
メインとなるメニューの食材には、原価率の低い鶏肉を使うことにしました。ただ、鶏肉の鮮度にはこだわって、山梨県の甲州信玄鶏の朝引きを使うことにしました。
営業職時代にはそれなりの成績をあげることができたので、販促には自信がありましたね。オープンのチラシは街頭や近隣のオフィスなどに6万枚を配布。必ずお客様が来るという確信がありました。結果、予想以上のお客様に来店していただき、一時期は対応しきれないくらいでした。
――その後、店舗を増やしていくうえで、問題を感じたことはなかったのでしょうか。
実は、4店舗目をオープンした頃から、社員の意思統一が難しいと感じ始めました。起業したときから私がずっと目指してきたのは、「会社」としての成長であり、特定の店舗が繁盛店になればいいというものではありませんでした。
飲食業界では、それぞれの店長が一国一城の主で、同僚でありながら、同時にライバルでもあります。しかし、当社は業態やブランドが違っても、いつ、どの店長がどの店舗に行ってもすぐに仕事ができる、同じチームで働いているという意識を大切にしたいと考えていました。
そのために、最終的なキャリアアップのための“ステップとしての職場”ではなく、定年まで一緒にやっていきたいということをスタッフに伝えて、その想いを社員全員で共有していくようにしたのです。現在は、社内SNSなども活用して、スタッフとのコミュニケーションを図っています。
また、モチベーションの維持には、スタッフ自身の提案が採用されてお客様に支持され、そして、売上に貢献するという「成功体験」が重要だと考えています。そのため、当社では、スタッフからのメニューやイベントの提案を積極的に取り入れています。毎日のように、新しい企画を提案したり、様々な話をするため、店に出勤する前にスタッフが本社事務所を訪れます。原価率の計算なども必須なので、経営に参画しているという意識も醸成することができていると思っています。
――起業当初から独自の仕入れルートを構築している点も大きな強みですね。
飲食業の経験がなかったことが、逆に幸いしたのかも知れません。とにかく、良い物を安く手に入れたかったのです。鶏肉の場合は、鮮度と輸送距離から山梨産が最適と判断しました。当時は店舗どころか、会社も設立前でしたが、山梨県の養鶏組合を訪ねたところ、食鳥処理場を紹介してもらうことができました。おかげで、中間コストを大きく削減して、良い鶏肉を安定的に手に入れることができるようになりました。
また現在、「灯 -AKARI-」では「きびなご」を売りのメニューの一つにしていますが、これは九州につてのある当社と取引のある食材業社の方から、漁師さんを紹介してもらいました。自分に飲食業の経験と知識があれば、市場や小売店を通すなど、別の方法をとっていたかもしれません。
これはメニュー開発でも同じです。現在でも料理ができない自分が、具体的なメニューの味の提案をすることはありません。しかし、料理の「見た目」や「コンセプト」についてはこだわります。お客様が感じる「おいしさ」は、お客様や料理人の好みの味、体調、季節などにも影響されます。しかし、見た目のインパクトはそういった影響をあまり受けません。実際に当社の店舗では、下が見えないくらい大量のイクラを乗せたパスタや、原価率をぎりぎりまで高くして、お客様が驚くほどの大きさのオマール海老を提供するなど、見た目のおもしろみやサプライズ感にこだわり、メニュー開発をしています。
――当面の目標は50店舗と聞いています。具体的な計画と課題についてお聞かせください。
なぜ50店舗かというと、会社として安定的、継続的に存続し、成長のための振り幅を持て、今いるスタッフの雇用形態をフレキシブルにするために、必要な店舗数だと考えているからです。基本的には、定年まで一緒に働きたいと思ってくれる人を採用していますが、今後、会社が大きくなるにつれ、期間限定の契約社員、歩合給の社員、短時間社員など多様な働き方に対応できるようにしたいと思っています。現在のようにブランドを変えた出店は、25店舗くらいまで。それ以降は、フランチャイズやデリバリーへの進出なども視野に入れて、企業規模の拡大を考えていかなければならないと思っています。
10店舗くらいになれば、また予想できない課題が待ち構えているんじゃないかという予感もあります。この点については、それを乗り越えてきたたくさんの先輩方から学んでいきたいですね。
起業以来、常に次の次を考えながら、決めたことを実行していく、ということを繰り返してきました。今年は夏までに2店舗をオープンすることが決まっています。まずは、今後も直営店を1年に3~4店舗、確実に出店していきながら、中期目標の50店舗を目指していきたいと考えています。
http://r.gnavi.co.jp/e786904/
http://r.gnavi.co.jp/e786900/
http://r.gnavi.co.jp/e786905/
Company Data
会社名
ファンクリックス株式会社
所在地
神奈川県川崎市中原区丸子通1-653-7
藤和シティーコープ202
Company History
2009年 ファンクリックス株式会社
「水炊き 炭火焼鳥 灯 -AKARI- 」オープン
2010年 「炭火焼 創作dining 灯 -AKARI- 」オープン
「炭火焼 創作dining らい燈」オープン
2011年 本社を川崎に移転。
「イタリアンバール ペスカーラ」
2012年 「イタリアン酒場 25 -NIGO-」オープン
「大衆酒場 串車力」オープン