名物大将の技が冴えるマグロの解体ショーで連日ファンが集う店に
【東京・浅草橋】おさかな本舗 たいこ茶屋
立地の不利を補うためイベントを始めて成功
「ドン!ドン!ドン!」と、鳴り響く太鼓を合図に、店内の中央に客の視線が引き寄せられる。「本日もご来店、誠にありがとうございます!」。料理人歴50年の大将・嵯峨完氏が実況をしつつ、牛刀一本で巨大な本マグロをさばいていく。その鮮やかな手つきと軽妙な語り口に、店全体が沸きに沸く。
海鮮居酒屋として1982年にオープンした「たいこ茶屋」では、毎日19時30分頃になると、「マグロ解体ショー」を開催している。まず、一本買いした本マグロを客前でさばき、頭かしらを競りにかける。競りは500円から開始。次々に来店客から声があがり、落札価格は数万円にまでつり上がることもある。頭を競り落とした人には、カマ焼きや頬肉のステーキ、脳天の刺身などを提供。それ以外の部位は、希望者に刺身や焼き物として格安で販売していく。新鮮な本マグロをリーズナブルに味わえるとあり、これを目当てに来店する人も多い。
「当店は、駅から少し離れたビジネス街にあるので夜は人が少なく、必ずしもよい立地とは言えません。そこで、イベントを売りに集客しようと、様々な企画を行ってきました。立地的に2軒目使いもあまり期待できないので、回転率より客単価を上げることを意識しています」と嵯峨氏は語る。
解体ショーが終わると、「じゃんけん大会」がスタート。担当スタッフが来店客全員を相手に、一斉にじゃんけんをし、勝ち残った人には仙台牛の霜降りステーキ肉や、まぐろのカマ焼きなど、1.6等までの豪華賞品が無料で提供される。オープン当初は来店時に番号札を配り、商品が当たる抽選会を行っていたが、連日、大勢の人に札を配るのは相当な手間だった。そこで、もっと簡単な方法はないかと考え、じゃんけん大会に変更したという。
毎日実施するこの2大イベントのほかにも、隅田川花火鑑賞会や花見会、両国国技館で相撲を観た後に店で特別コースを楽しめる観戦ツアーなど、季節ごとの店外イベントも行っている。「ほかにも店内で、舞台鑑賞会や音楽ライブ、落語会などもやりました。当店は、どの席からも舞台となる中央のスペースが見やすいので、いろいろなイベントに対応できるのが特長です。準備や進行は大変ですが、お客様の楽しそうな顔を見ると、毎回『やってよかった』と思います」と、嵯峨氏の長女で代表取締役の井上多恵子氏は語る。
こうしたイベントなどがきっかけとなり、メディアにも取り上げられることが多く、全国からたくさんの人が訪れる。新規客も少なくないため、嵯峨氏はできる限り各テーブルに赴き、会話をしたり、名刺交換をするようにしている。こういった地道な取り組みで作り上げた人脈が、新しいイベントにつながることもある。「用意は周到に、でも慎重になりすぎず、『まずはやってみること』がイベントを行うときに重要だと思います」と嵯峨氏。来店客にとってお得なサービスが多い分、経費はかかるが、常連が増えることで店に還元されると考え、今後も新しい企画に意欲的に取り組んでいく。
株式会社YTフーズ 代表取締役 井上多恵子氏(右)様々なイベントの発案者である大将・嵯峨氏を筆頭に、長女で代表取締役を務める井上氏らが一丸となって店を切り盛りする。
東京都中央区日本橋馬喰町2-3-2 セントピアビルB1F
https://r.gnavi.co.jp/gaxp800/ランチの刺身食べ放題は行列ができる人気で、夜も仕事帰りのビジネス層を中心に賑わい、外国人観光客も多い。仕切りの少ない空間を活かしたイベントも名物となっている。