トイレの手洗いスペースからDM会員を獲得。店への共感がコアなファン作りを促進
【京都・烏丸御池】 EL BOGAVANTE 346
店からの押しつけでなく客を引き寄せる仕かけがカギ
海老の頭などを使った赤い出汁で作るカタルーニャ風「オマールエビのパエージャ」をスペシャリテに、2008年11月のオープン以来、コアなファンを獲得するスペイン料理店。「オープン約3カ月後から、感謝の心を伝えるため、還元的な意味でDMを送ろうと、会員募集を始めました」と、オーナーシェフの荒川三四郎氏。押し付けがましさを嫌う荒川氏が、スムースに顧客情報を得るため、告知に最適な場所として選んだのがトイレだった。
「トイレは唯一ひとりになれ、冷静な自分に戻れる場所。そこをお客様と店との最初のコミュニケーションがとれる場所と考えました」。おしゃれなスペインの部屋を思わせるトイレの中は、水曜限定のバル営業のメニューを紹介するイラストなどが貼られ、さらには遊び心のある仕かけもあり、店全体の雰囲気がトイレの中まで続く。そしてレストルームの洗面台の端にはペンと名刺大のカードの入った小さな缶が置かれ、手を洗う客の目は、缶に貼られた会員募集を告知する紙に向けられる仕かけだ。「カードはお客様の名前を書いていただくので、紙質や色にもこだわりました。あえて記入項目を設けないことで、『おいしかったです』などと添え書きしてスタッフに渡していただける例も多く、会話のきっかけにもなっています」。
記入は圧倒的に女性が多いが、男性は名刺交換での登録に応じてくれる人も多く、現在までに約460名を獲得。その会員宛には「年末年始の挨拶」のほか「周年フェア」「ワインフェア」「チーズフェア」などを企画し、3カ月に1回のペースで荒川氏自らデザインしたハガキのDMを郵送。また、店舗では本場の料理やスペインの文化などについて気軽に知ってもらえるよう、様々な写真に解説をつけたアルバムも用意している。
「最近の飲食店は情報の提供過多になりがちで、お客様も食傷気味な気がします。まず店を気に入っていただき、知りたいと思った方には、たっぷりその情報を伝えたい」と荒川氏。店への共感が再び客を呼ぶ。そんな長い付き合いが、今日も磨き上げたトイレから始まっている。
荒川 三四郎 氏京都の老舗スペイン料理店でその魅力に惹かれ、渡西。現地の料理学校で学びながら、バルセロナの1つ星レストランで修業。帰国して自分の店を構える。出身地の京都で、人との縁を大切にした店作りを目指す。
京都府京都市中京区三条洞院西入ル塩屋町53
ORYZA三条西洞院1F人気の個店が多い烏丸西側エリアで、「スペインの食文化を伝える店」をコンセプトに地元客を中心に集客。居心地の良さに、開店の18時から閉店24時まで滞在する人も多い。水曜日はバルとして営業する。