2022/03/22 特集

飲食店の人材採用と育成~楽しく働き、成長するためのファーストステップ~

人材不足で悩む飲食業界だが、採用・育成に成功している飲食店もある。そこで、人材の採用や育成に力を入れている飲食企業に有効な採用方法や採用のミスマッチの防止、定着率アップの取り組みなどについて聞いた。

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目次
事例1.株式会社夢とありがとう(愛媛・松山)
来店客の中からスタッフをスカウト。Instagramの発信も人材募集に効果あり!

事例2.株式会社ファイブグループ(東京・吉祥寺)
年間100人超の社員採用を達成!「オープン社内報」やHPで会社や人の魅力を発信

 人材不足が叫ばれている飲食業界。なかなか採用まで至らない、採用したもののすぐに辞めてしまうなど悩みを持つ飲食店も多いだろう。そこで、人材の採用や育成に力を入れている2つの飲食企業を取材。どんなアピールや採用方法が有効か、採用のミスマッチを防ぐためにはどのようなことをしたらよいか、定着させるための手段などについて聞いた。

 愛媛・松山にある株式会社夢とありがとうは、来店客の中からスカウトする「ダイレクトスカウト」やInstagramでの発信が採用に効果を発揮。面接時に経営理念など会社説明を行い、十分な意思疎通でミスマッチを防いでいる。また、東京・吉祥寺にある株式会社ファイブグループは「2021年社員採用100人」を掲げ、見事達成。HPなどを使って会社やスタッフの魅力やさまざまなキャリアがあることを伝えるほか、面接では企業理念への理解を深めてミスマッチを防ぐなど、さまざまな取り組みで採用を成功させている。

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来店客の中からスタッフをスカウト。Instagramの発信も人材募集に効果あり!

株式会社夢とありがとう(愛媛・松山)

愛媛・松山市の中心部、松山城から程近い商業エリアにある居酒屋「夢の家 本店」。株式会社夢とありがとうの1号店で、「名物!炎の炙り〆サバ」(1,078円)や、新鮮な魚や炉端焼きなど愛媛県のこだわりの食材が楽しめる

 愛媛・松山市内で居酒屋業態5店舗、洋食業態1店舗を展開する株式会社夢とありがとうは、「人の魅力で街を元気に」という経営理念の下、創業時から採用・育成に注力。来店客に直接、一緒に働くことを誘う「ダイレクトスカウト」やInstagramの活用に力を入れて採用活動を行う。また、面接時には会社の方針や勤務して成長する姿などをしっかり話して応募者と意思疎通を図り、採用のミスマッチを防止。採用後は30日間の研修を実施し、新スタッフが成長を実感できる体制を整えている。

創業当初からスタッフの採用・育成を担当する専務取締役の岡田瞳氏。採用時の面接、入店後の指導など人事業務全般に携わっている

 代表の秋川俊光氏とともに採用に携わる専務の岡田瞳氏は、「老若男女が訪れる居酒屋は、学校とは違う学びを得られる場所。社会に役立つ人を育てたいという思いで、スタッフの人財育成に取り組んでいます」と話す。

「ダイレクトスカウト」や「リファラル採用」で人員を確保

 現在、在籍スタッフは約80人。うち正社員が16人で、残りは学生や主婦のアルバイトが中心だ。スタッフの採用は主に「ダイレクトスカウト」「リファラル採用」「就職情報サイト」で行っている。「ダイレクトスカウト」は、来店した人の中から“これぞ”と思う人を見つけ、その場でヒアリングしながら「働いてみないか」と声をかけるところからスタートするという。「スタッフが常にいい人がいないかを目を光らせています。スカウトされた人はすでに店の雰囲気や勤務の様子が分かるため、自分がその店で働くイメージを持ちやすい。そのため、採用時のミスマッチが起こりにくいです」と岡田氏は語る。

 「リファラル採用」では、学生アルバイトから後輩を紹介してもらうことが多く、謝礼として紹介者にグループ店で使える食事券1万円分を提供。また、2022年1月からは新たにInstagramの採用専用アカウントを開設。「採用したスタッフに応募のきっかけを聞いたところ、『店のInstagramを見てスタッフが楽しそうだったから』という声が多く上がりました。Instagramを使っている学生が多いので、採用活動でも活用しようと考えました」(岡田氏)。すでにInstagram経由で数件の応募があり、手応えを感じているという。

面接時に会社説明をしっかり行って意思疎通を図り、ミスマッチを防ぐ

経営理念から中長期ビジョン、業務マニュアルに至るまで店と会社の全てを詰め込んだ経営方針書。「赤本」と呼ばれており、アルバイトも含めスタッフ全員で毎年改訂を行っている

 また、面接時から「赤本」と呼ぶオリジナルで作成した育成ツールを活用しているのも特徴。経営理念や中長期ビジョン、働く上での姿勢など、会社の全てを詰め込んだ一冊だ。面接の際は、この本に沿ってまずは会社の説明を行い、十分に納得してもらったうえで採用を決めている。「何より面接時の意思疎通が大事。初回の面接は1時間半ほどかけて会社方針やどんな成長ができるかを提示しています。ここで意識がマッチしないと、働いても長続きしないのです」と岡田氏。

入店後の研修内容をまとめた「黄色本」(中央)。その日の感想や気付きを記入。それに対して店長がコメントすることで細かなフォローを行っている。左は、社員登用時に行う研修プログラムをまとめた「緑本」

 アルバイトには、採用が決まると研修内容をまとめた「黄色本」を渡す。これを用いて30日間の研修プログラムを行い、「今日は何を学んだか」などを振り返りながら段階的にステップを踏んでいく。最終的にテストを実施。働いているスタッフもこの過程を受けているため、スタッフ全員が応援する。新人スタッフにとってはやる気が生まれるとともに、スタッフの一体感にもつながっているという。新入社員向けには、120日間の研修プログラム「緑本」があり、自身のなりたい姿を明確にし、店舗運営に関する幅広い知識を吸収できる内容となっている。

 目指すのは「地元企業から“欲しい”と言われるような人財育成」と岡田氏は語る。「例えば学生スタッフがスカウトを受けたり、『学生スタッフ向けに企業説明会をさせてほしい』と言われたりするような“人財”を輩出していきたい」(岡田氏)。「人の魅力で街を元気に」という経営理念の通り、魅力ある人を育て、地域の活性化に貢献していく考えだ。

年間100人超の社員採用を達成! 「オープン社内報」やHPで会社や人の魅力を発信

株式会社ファイブグループ(東京・吉祥寺)

ファイブグループの代表ブランドの1つ「居酒屋 旨串 とりとん」。2003年に代表取締役である坂本憲史氏が立ち上げ、巻き串や鶏料理などを提供し、温かみのある料理と人懐っこい接客が特徴

 「“楽しい”でつながる世界をつくる」を企業理念に掲げ、「居酒屋 旨串 とりとん」やナポリタン専門店「スパゲッティーのパンチョ」など、国内外で125店舗を展開している株式会社ファイブグループ。スタッフと来店客のつながりで幸せが感じられる「食体験」を実現するために、人材の採用と育成に力を入れている。

 2021年にはコロナ収束後の事業拡大を見据え、社員100人採用の目標を立て、101人(2021年・2022年新卒・中途・アルバイトからの社員登用の合計)の採用に成功。個人・法人問わず情報が発信できるサイト「note」を活用してスタッフや店、会社の魅力を発信する「オープン社内報」を掲載し、HPでは「オープン社内報」の記事を抜粋して載せ、さまざまなキャリアがあること提示。採用時の面接では「オープン社内報」の記事を使いながら、会社への理解を深めミスマッチも防いでいる。

情報発信サイト「note」を活用した「オープン社内報」で発信力を強める

情報発信サイト「note」で掲載しているファイブグループの「オープン社内報」。社員やスタッフの「楽しい」や働きがいを伝える記事を多数掲載する

 今回の採用結果に結び付いた要因として、2020年から始めた「オープン社内報」の存在が大きかったという。以前からオウンドメディアで社員のインタビューや人材育成に関する情報を発信していたが、制作や運用に大きな負荷がかかっていた。企画・制作を担う広報の式地知美氏は「オウンドメディアで発信しようとするとSEO対策が必要となり、制作も大変でした。また、これらとは別に社内報も制作していましたが、『会社や人の魅力の発信であれば、社内外関係なく掲載してよいのではないか』と考え、情報発信は『note』へ移行し、『オープン社内報』として制作することにしました」と振り返る。

コーポレートコミュニケーション部 広報マネージャー・エディターを務める式地知美氏。2011年、居酒屋のアルバイトとして入社。社員として店舗責任者を5年務めた後、現職。「オープン社内報」の制作を一手に担う

 「オープン社内報」に掲載するのは、社員やアルバイトスタッフ、幹部に入社のきっかけやどんな働き方をしているかをまとめた記事や内定者に会社の印象や入社の決め手などを聞いた記事、店舗の様子や会社の取り組みを伝える記事など、内容もさまざま。それによってファイブグループの姿が社外へ生き生きと伝わるようになったという。「『note』は学生を中心に若いユーザーが多く、アルバイト希望者や就活学生が当社を知るきっかけの1つになっています」(式地氏)。

HPでさまざまな立場の人がどんなキャリアを積んでいるかを明確に打ち出す

ファイブグループのHPでは、「オープン社内報」の記事を抜粋して掲載。新卒だけでなく中途やリファラルで採用された人のストーリーを紹介するほか、さまざまなキャリアがあることも伝えている

 そして、HPも合わせて刷新。「オープン社内報」の記事を一部抜粋して掲載し、人材採用に関する情報を前面に打ち出した。採用担当の渡邉大地氏は「新卒、中途、アルバイトからの社員登用など、さまざまな立場の人たちが入社してどのように活躍しているか、また当社にどんなキャリアがあるかが伝わるように打ち出しました。記事を読んで当社の“楽しい”に興味を持ってエントリーする人が増えていると感じます」と話す。

人事総務部 課長代理を務める渡邉大地氏。 2018年、新卒採用担当として入社。人材の募集、選考、研修デザインなどを担当する

 選考の過程では、「自分にとっての“楽しい”とは何か」を深く考えてもらうという。「『オープン社内報』の中から企業理念や幹部のメッセージなど、あらかじめ読んでおいてほしい記事を案内します。すると、会社に対する理解が深まるとともに、自分の『楽しい』は何かをしっかり考えてもらえ、ミスマッチも起こりにくくなります」(渡邉氏)。

 入社後には新入社員のフォローにも力を入れ、気軽に相談できる上司を作るとともに、社員同士が積極的にコミュニケーションを図れるように働きかけている。「定着させるには、心理的安定性の確保が重要です。入社後の研修ではグループ活動なども取り入れ、同期入社同士のコミュニケーションが活発になるように促しています」(渡邉氏)。

LINE公式アカウントを利用した社内専用LINE「5ine」。入社時に全てのスタッフが登録し、社内報はもちろん、会社からの連絡をダイレクトに配信

 また、スタッフ全員が登録するLINE公式アカウント「5ine(ファイン)」もあり、会社からの情報は一括して発信。「オープン社内報」の情報や緊急事態宣言中には社長メッセージを配信したり、休業手当の手続きについてなどをスピーディーに伝え、会社とスタッフの結び付きを強めている。この仕組みを構築した経営企画室 コーポレートコミュニケーション部 部長の家中慶太氏は、「今までは店長から口頭で伝わっていた重要な社内連絡や方針が、本部からダイレクトにスタッフ一人一人に届くことが最大の強み」と話す。

経営企画室 コーポレートコミュニケーション部 部長 家中慶太氏。2008年に入社し、居酒屋で勤務した後、販促などに携わる。現在は、「5ine」のベースとなるクラウド型人事労務のアプリ「conetto(コネット)」の開発を担う

 「コロナ収束後は“人と人のつながり不足”を感じていた人が飲食店に戻ってくると予想しており、その期待に応えるべく、事業を強化していきます。そのためにも、今年も人材の採用をさらに力を入れたい」と式地氏。先にある将来を見据え、今後も人材採用と育成に注力し、飲食店とスタッフの魅力を発信していく考えだ。

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