2023/07/10 特別企画

こんなときどうする?飲食店の労務管理 相談会~人に関する悩みをプロに聞いてみた~

飲食店が抱える「人」に関する悩みを社労士に投げかけ「こんなときどうする?」を解決してもらった。これを読めば正しい労務管理がわかるはずだ。

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目次
Q1「試用期間の解雇について」
Q2「社員がうつ病になったら・・・」
Q3「精神疾患を持つ社員の解雇について」
Q4「社員が業務で腰を痛めて・・・」
Q5「社員が音信不通になってしまった」
Q6「あるパートへの苦情が多い」
Q7「アルバイトにも有給休暇は必須?」
Q8「デリバリー配達員の雇用契約を見直したい」
Q9「雇用契約書の作成について教えてほしい」
Q10「退職勧奨に必要な手続きを知りたい」
Q11「病欠・早退が多い社員に対して・・・」
Q12「アルバイトの休日の設定について」
Q13「パート社員への契約終了の予告について」
Q14「店都合でのアルバイトの早上がりは違法?」

“人”に関する飲食店経営者たちの悩みを社労士がスッキリ解決!

 飲食店が繁盛するには、資金(カネ)、料理・メニュー(モノ)、人材(ヒト)が必要。その中で店主の一番の悩みは何だろうか? そう、それは「人」。そこで、飲食店の店主から人に関する悩みを聞き、社労士のセンセイ(社会保険労務士法人TSC)に相談、その内容をまとめた。悩み多き店主たちの苦悩の数々を一挙公開! これを読めば正しい労務管理がわかるはず。また、労務に関わるトラブルや問合せは年々複雑化しており、事が生じる前に、信頼できるプロを見つけておくことも、店舗運営上のリスクヘッジにつながるだろう。

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Q1「試用期間中に解雇しても問題ない?」

 居酒屋を10店舗経営しています。正社員採用の規定では試用期間を3カ月設けているのですが、今回採用した方が、勤務を始めてから3日間のうちに遅刻が2回、休憩時間も守らないなど、時間にかなりルーズなのが分かりました。このような場合、即時で辞めてもらっていいものか、それとも試用期間内は働いてもらわなければならないのでしょうか?


 労働基準法第21条で「入社後14日以内の試用期間中の者」を解雇予告の除外対象者として定められていますが、これは「予告義務がないだけ」であり、労働契約法第16条の解雇の正当性(客観的かつ合理的な理由、社会通念上相当など)は別に考慮する必要があります。

 具体的には、まず勤務実態の客観的な記録が必要ですし、それを元に注意・指導を行い、改善されなければ、就業規則などにより懲戒(減給など)を行うなど、事実の裏付けと改善を促した資料を残すことが重要と考えます。3日で判断するには、なかなか時間が足りないのではないでしょうか。3カ月の試用期間内でご判断して頂く方が良いと考えます。

Q2「社員がうつ病になったら、どんな対応が必要?」

 ピザ専門店の経営者です。社員が先月からうつ病と診断されて休業しています。コロナ下でイートイン以外にテイクアウト、デリバリーで忙しくまともに休みを取らせなかったのも一因かと反省しています。本人とはメールでやり取りしていますが、復職は難しくこのまま退職になりそうです。うつ病と診断された社員に対して、今後どのような対応を取れば良いでしょうか?


 労働基準法第19条で「業務上の理由で疾病にかかった場合の休業期間とその後30日間は解雇できない。」と定められています。つまり、仕事や職場環境が原因でうつ病になった場合に解雇はできず、原則として復職できる状態になるまで待たなくてはなりません。

 発症原因がプライベートの問題に起因していた場合は、事前に就業規則などで休職および復職について規定し、復職できない場合は自然退職とすることが可能です。

 就業規則などで休職および復職を規定していない場合は、「労使双方の話し合いによる合意」が必要になります。

 なお、ご自身で退職を申し出される場合は特に問題ありません。

Q3「精神疾患を持つ社員を解雇できる?」

 都内でステーキレストランを経営しています。多店舗展開を図るため、社員を1名採用したのですが、初日の勤務終了後、「ストレスを感じたので、一週間休ませてほしい」との申し出がありました。とりあえず翌日は休んでもらいましたが、次の日、本人から連絡があり、「精神科の病院に行ったところ、しばらく休暇を取りなさいと言われた」と相談されました。面接時に既往歴を聞かなかったのですが、前職(飲食店)でも自律神経失調症で思うように働けないことがあったとのことでした。お店としてもこのままだと困るので解雇したいのですが、注意点など教えて下さい。


 一般的に経歴詐称で解雇可能となるのは、詐称内容が貴社業務を遂行する上で重要度が高い場合に限定されると考えられています。過去のうつ病を隠していたとしても、うつ病歴自体が即業務遂行に支障があるとは通常考えられません。したがって、これを理由とした解雇は解雇権濫用として無効になる可能性が高いと言えます。

 採用面接で、「うつ病発症歴はありますか。」と具体的な病名を挙げて質問するのは職業安定法第5条の4(求職者等の個人情報の取扱い)に抵触するという見解もあり、「健康状態は良好ですか。」といった程度では、なかなか精神疾患まで聞き出すのは難しいのが現状です。

 就業規則に伴う休職に該当し、休職期間終了に伴う自然退職や、試用期間を定めている場合は試用期間満了での解雇、または労使双方の話し合いによる合意退職などが考えられます。

Q4「業務で腰を痛めた社員を解雇できる?」

 昭和の時代から続く老舗の洋食屋のオーナーです。先週、社員(38歳)がフライヤーの油交換作業で、油を入れた一斗缶(16㎏)を持ち上げた際、腰を痛めました。しばらく休んだ後、仕事に復帰してくれましたが、どうも調子が悪いらしく「長時間立ちっぱなしの仕事がつらい」と言っています。店としても困るので解雇できるでしょうか?


 業務災害は労働基準法第19条(解雇制限)により、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間の解雇はできません。油を持ち上げた行為により突然腰を痛めたのであれば、業務災害と判断される可能性が高いので、復帰から30日経過後の話となるでしょう。解雇は労働契約法16条解雇の正当性(客観的かつ合理的な理由、社会通念上相当である)が必要になりますので、該当する相当な理由があるか検討が必要でしょう。

Q5「社員が音信不通になってしまった。どうすればいい?」

 バーを経営しています。昨年採用した社員が無断欠勤のうえ、連絡が取れなくなりました。退職として処理したいと考えていますが、退職理由はどのような事由で手続きすれば良いのでしょうか? 自己都合で処理するにしても、本人の意思を確認することができず、私の一存で手続きしても問題は無いでしょうか。退職後、トラブルにならないためにも、正しい手続きについて教えて下さい。


 無断欠勤中でも社員との雇用契約は有効ですので、まず電話・メール・訪問・当該社員の親族への聞き取りなどで、現状確認を行い記録に残します。

 考慮すべき欠勤理由(配慮すべき事情)が確認できなかった場合は、次に内容証明郵便などで期日を指定して出社を督促します。また身元保証書を取っている場合は、身元保証人を通じて本人へ取って貰うことも検討しましょう。

 数回程度出社を督促しても反応がなければ、最後通告として「○○日まで(通知が当該社員に届く日から14日以上経過した日を指定します。)に出社しない場合は、未必の故意による退職希望と判断し、△△月△△日付の自己都合退職として手続きする。」と内容証明郵便で通知します。

 それでも連絡が取れない場合は、行方不明による自然退職とするのが一般的でしょう。この措置を取るには事前に就業規則に自然退職となる旨を記載することが望ましいです。万が一トラブルに巻き込まれ連絡が取れない状況にあったなどの状態があれば、それに応じて退職を取り消すなど、柔軟な措置が必要と言えます。

Q6「クレームを受けることが多いパートに辞めてもらいたい」

 焼き鳥屋の経営者です。近所の奥さんをパートで3人雇っていますが、そのうちの1人が、お客様からの苦情が多くて困っています。できれば本人と相談せず、このまま辞めてもらうことはできるのかお聞きしたいです。


 本人と相談せずに、いきなり辞めるよう伝えるのは不当解雇に該当すると思われます。不当解雇で訴訟に至るケースまで考慮しますと、「勤務態度に問題があった事実」と「会社が繰り返し勤務態度の改善を指導したが改善されなかった事実」の両方を書面や電子メールなどで記録(証拠)に残す必要があります。

 一方、パートタイマーですと一般的には「有期労働契約」の方が多いと思います。この場合、労働契約法第17条(契約期間中の解雇等)で、「やむを得ない事由がある場合を除き契約期間満了までの間の解雇はできない。」と定められており、よほどの事情がない限り会社側の主張が認められることはほぼないのが実情です。

 では、契約期間満了ならすんなり辞めさせられるかというと、事はそれほど簡単ではなく、労働契約法第19条(有期労働契約の更新等)で、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは雇止めを認めない。」と定められており、最初に申し上げた「2つの事実の記録」をきちんと残しておくこと、併せて事前に労働契約書の更新の基準を具体的に記載しておくことなどの対応が重要です。

Q7「アルバイトにも有給休暇は必須?」

 喫茶店を経営しています。アルバイトの大学生が、「学業に専念したいので辞めたい」と言ってきました。その際、有給が残っているはずだ、と言い張ります。正社員でないバイトにも有給休暇を取らせないといけないのでしょうか?


 年次有給休暇(以下「年休」といいます)については、「正社員」「アルバイト・パート」といった区分ではなく、「週所定労働日数が5日以上もしくは週所定労働時間が30時間以上」の場合は雇用形態に関わらず同じ扱いをすることが求められます。併せて労働基準法施行規則の一部を改正する省令案要綱により「週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満」の場合でも、表の通り年休を与えなければなりません。

 また、上記表により「1年間の所定労働日数が48日未満」の場合、年休の付与義務はないことになります。

Q8「デリバリー配達員の雇用契約を見直したい」

 六本木でサラダ専門店を経営しています。昨今のデリバリー需要を見越して配達員を1名採用しました。ところが配達件数が少なく、支払う賃金にそぐわない。賃金を下げるか、配達1件あたりいくら、のような雇用契約に変更するのは可能でしょうか?


 採用時に想定した業務量が確保できないことは会社側の事情ですので、それを理由として直ちに配達員の賃金を下げるには労働契約法第8条(労働契約の内容の変更)により、「労働者の自由意志に基づく合意」が必要になります。同様に、「配達1件あたりいくらのような雇用契約」に変更することも同様の合意があれば可能となります。また賃金全額を全て歩合給とする場合、最低賃金を下回らない事、併せて平均賃金の6割程度の補償給を支給する必要があります。

Q9「雇用契約書の作成について教えてほしい」

 個人で焼肉店を経営しています。従業員が銀行に提出する書類で「雇用契約書」の提出を依頼してきたのですが、入社時から今までそのような契約書を交わした事はありません。「雇用契約書」はお店で作成しなければならないものでしょうか、どのような書類なのか教えて下さい。


 採用時の書類として「労働条件通知書」と「雇用契約書」があります。「労働条件通知書」は、労働基準法第15条(労働条件の明示)に基づく書類で、
(1)契約期間に関すること
(2)期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること
(3)就業場所、従事する業務に関すること
(4)始業・終業時刻、休憩、休日などに関すること
(5)賃金の決定方法、支払時期などに関すること
(6)退職に関すること(解雇の事由を含む)
(7)昇給に関すること(書面でなくても可)について作成し労働者へ通知する義務が課せられています。

 一方「雇用契約書」は、民法623条(雇用)に基づく「労務の提供」と「報酬の支払い」について合意した証の書面として機能しますが、記載事項は「労働条件通知書」より少なく会社に作成義務はありません。しかしながら一般的に作成する会社が多いと思います。

  これから作成する場合は、労働条件通知書をベースに労使双方-の署名・押印欄を設けた「労働条件通知書兼雇用契約書」とすることをおすすめいたします。

Q10「退職勧奨に必要な書類・手続きを知りたい」

 歌舞伎町でカラオケバーをやっています。素行の悪い社員の退職勧奨についてお聞きしたいのですが、店から本人へ渡すべき書類や本人に書かせる書類などについて教えて下さい。


 退職勧奨は、「労働者の自由な意思に基づき任意の退職を促す」ことを言いますので、不当な心理的威迫を加えたり、その名誉感情を不当に害する言辞を用いたりすると不法行為とみなされます。手続きとしては、(1)面談→(2)大筋合意→(3)条件合意→(4)退職届提出となるのが一般的です。

 注意点としては、面談は短時間で最小限の回数で行う・降格・配転・出向等の人事上の措置を退職勧奨の手段にしない・退職金の優遇が可能であれば行うなどがあります。

Q11「病欠・早退が多い社員にどう対応すればよい?」

 居酒屋を5店舗経営しています。4人の社員のうち、病気がちな社員がおり、きょうもしんどいから、といって早退しました。会社としてきちんと仕事をしてもらいたいのですが、本人と話ができていない状況です。このような社員に対して、どのように対応していくべきか、相談に乗って欲しいです。


 まず医師の診断を受けるなど、客観的な現状を双方で共有したうえで面談を実施します。回復の見込み・本人の就労に対する意思を聞いたうえで会社としての対応を検討することになります。回復の見込みがなければ時短勤務など本人の症状に沿った働き方などに変更したり、明らかに病状が悪化している場合は、就業規則の規定内容に則り、休職について話し合いが必要と考えます。いずれにしても労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)に抵触しないように、配慮・観察・確認・協議が必要になります。

Q12「アルバイトと社員の休日をそろえなくても問題ない?」

 渋谷でカフェを経営しています。今回採用するアルバイト学生は週3~4日出勤とのことで、シフトの関係より土・日曜日をメインに働いて欲しいことを本人に伝えたところ、了承してもらいました。他の社員は日曜日を休日に定めていますが、このアルバイト学生には契約で日曜日以外を休日に設定することはできますか?


 労働基準法第35条(休日)で、「毎週少なくとも1日の休日、または、4週間を通じて4日の休日を与えなければならない。」と定められていますが、一斉に与えなければいけないとは定められていません。従いまして週1日または4週4休を遵守する範囲内でなら、労働者ごとに異なる休日を設定することは可能です。

Q13「パート社員への契約終了の予告はいつまでにすればいい?」

 調布市で肉バル店の店長をやっています。半年更新契約のパート社員がいるのですが、次は更新せず辞めていただきたいと考えています。本人にはいつまでに伝えればいいですか? また、その際の注意事項などございましたら教えて下さい。


 厚生労働省告示により、現在有効の有期労働契約に雇止めの記述がなく、

(1)有期労働契約が3回以上更新されている場合
(2)1年以下の契約期間の労働契約が更新または反復更新され、最初に労働契約を締結してから継続して通算1年を超える場合
(3)1年を超える契約期間の労働契約を締結している場合

のいずれかに該当する時は、契約期間満了日の30日前までに契約終了の予告をしなければならないと定められています。

Q14「店都合でのアルバイトの早上がりは違法?」

 チェーン店の店長をやっています。コロナ禍で客足が伸びず、通常6人体制でも日によっては3人で回せる日もあります。といって普通に賑わう日もあるので、怖くて人員を減らせません。本部が人件費削減を厳しくチェックするので、アルバイトを予定より早く上がらせることもしばしばです。このようなバイトの早上がりは労働基準法に違反しますか?


 アルバイトに限らず、労働基準法第26条で「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」と定められています。感染防止の予防的措置の場合も含めて、会社都合による早上がりなら休業手当の支払義務が発生し、アルバイトが自ら希望した早上がりなら、休業手当の支払義務は発生しません。

協力【社会保険労務士法人TSC】

※株式会社テンポスホールディングス刊「スマイラー」77号より転載

“飲食店の笑顔を届ける”をコンセプトに、人物取材を通して飲食店運営の魅力を発信。全国の繁盛店の紹介から、最新の販促情報、旬な食材情報まで、様々な情報を届けている。毎月15,000部発行。飲食店の開業支援を行う「テンポスバスターズ」にて配布中!

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