2020/06/29 特集

店とスタッフを守るために、知っておきたい! パニッククレーマー対策

緊急事態宣言解除を受け、多くの飲食店で営業を再開。一方で、コロナ感染の不安から過度な要求をする「パニッククレーマー」が増えている。不当なクレームにどう対処したらよいかクレーム対応の専門家に聞いた。

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株式会社エンゴシステム 代表取締役 援川聡 氏
1956年広島県生まれ。1979年警察官となり、大阪府にて勤務。1995年大手流通業に転職し、警察官の経験を生かしてトラブルやハードクレームの対応にあたる。2002年に株式会社エンゴシステムを設立。豊富な現場経験と独自のノウハウをもとに企業、医療機関、公共機関などをサポートし、これまでアドバイスした件数は5,000を超える。著書に「クレーム対応『完全撃退』マニュアル」(ダイヤモンド社)などがある。

コロナ禍で募る不安と不満。クレーム増は今後がピーク

 新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言は解除されたが、感染への不安がなくなったわけではない。休業していた多くの飲食店も営業を再開しているが、一方で消費者の中には「店に人が集まって、感染が広がるのではないか」と思う人もおり、第2波も予想されていることから、誰もが不安を強く感じている。そんな状況で心配されるのが、悪質なクレーマーの増加と過激化だ。

 25年間クレーマーと対峙し、解決にあたってきた援川聡氏は、現在の消費者の状況を「不安と不満が充満し、風船がパンパンに膨らんでいる状態」と形容する。自粛生活と、どこで感染するかわからないコロナウイルスへの恐怖で、「人々のイライラ感が、非常に高いレベルに引き上げられています。ちょっとしたことで不満・不安の風船が破裂してしまい、今までトラブルを起こしたことがない“普通の人”がパニックに陥り、ささいなことで感情をぶつけてしまう“パニッククレーマー”(モンスタークレーマー)になってしまいます」と警告する。

 もちろん、これまでも過激なクレーマーは散見された。その典型が“モンスターペイシェント(患者)”だ。医療従事者に過度な要求を行うクレーマーだが、「コロナ以前は、“病気から回復したい、助かりたい”という強い意思を持つ、一部の人々による現象でした。しかし、今は目に見えないウイルスが誰にでも襲いかかる可能性があり、多くの人が『コロナに感染したくない』と強く思っている」と援川氏。つまり、誰もがパニッククレーマーになる可能性があるといえる。

 さらに、肝に銘じておきたいのが、「クレームの増加と過激化は、これからがピーク」(援川氏)ということ。2011年3月に起きた東日本大震災の際は、地震発生直後は「クレームは少数でした」と援川氏。多くの人が被災の甚大さに心を痛め、自身の小さな不自由を受け入れたためだ。「しかし、震災3カ月後くらいからせきを切ったようにクレームが増え始めた」(援川氏)。震災直後の人々の我慢が一気に不満となって吹き出したのである。今回もすでに報道されているように、外出や移動自粛に応じない個人や営業を自粛しない店舗を私的に取り締まる“自粛警察”をはじめ、匿名のクレームが頻発。「自粛が解除され、徐々に人々の活動が活発になるこれからが、クレーム増加と激化のタイミング」と援川氏は指摘する。

来店客のマナーに関するクレームが起きる可能性も

 では、今後、飲食店においてどんなクレームが予想されるだろうか。「まず考えられるのが、来店客のマナーに対するクレーム」(援川氏)だ。例えば、「隣席でマスクをせずに大きな声で会話をしている」「咳やくしゃみが気になる」などだ。今までは気にならなかったが、現在は敏感に反応する人もおり、店がそれをやめさせないことに対し、クレームを入れるケースもある。また、「異物混入のクレームも、コロナのために大きなクレームになりやすい」と援川氏は語る。異物を口にしたことによる不快感に加え、コロナ感染の不安を払しょくできないためだ。もちろん、必ずしもウイルスを媒介するわけではないが、「100%感染しない」という証明も難しく、クレームにつながってしまうこともある。

 「いずれにしても、根底にあるのは、“外食はしたいが感染したくない”という心理」と援川氏は指摘。この心理が強固になっているため、「店は“徹底した感染対策をして当然”という正論にこだわり、妥協できなくなる人が増えてきます。対策が徹底されていないことでクレームが激化し、スタッフを“バイ菌扱い”したり、とことん追い詰めて土下座を要求するなど、カスタマーハラスメントに至ってしまうことも。さらに、『自分は正しいことを言っている』と思っているため、パニッククレーマーになっているという自覚もありません」と分析する。

 パニッククレーマーは、“正論”を拠りどころにしてモンスター化してしまう傾向が強い。援川氏は「クレーマーには、店のために意見を言ってくれる“ホワイト”と、恐喝まがいの“ブラック”がいますが、パニッククレーマーの多くは“グレー”」と話す。主張している内容は“正論”であり“ホワイト”のはずなのに、パニック状態にあるため、ブラックまがいの要求と態度になってしまいやすくなるのだ。

 こういったクレームを受けるスタッフにも負担は大きくのしかかる。罵声をあびせられたり、土下座を強いられたりするようなカスタマーハラスメントは、精神的な苦痛につながる。さらには、「これまでは“ただの大声”だったが、今後は“大声で飛ばされる飛沫でコロナに感染するかもしれない”という心理的にも身体的にもリスクが伴う」(援川氏)。対応が長引くほど、飛沫感染や接触感染の危険度が増すため、クレーム対応はスタッフの健康に関わる重要事項ともいえる。

 援川氏は「スタッフの身を守るためにも、クレームに対して店舗や企業でどのように対応するかあらかじめ決めておくことが重要」と説く。パニッククレーマーへ効果的に対応できる力をしっかり付けることが、リスク回避につながるのだ。「クレーム対応は、護身術の1つ。スタッフを守るために会社(店)が対応を決め、スタッフにはクレームの初期対応を身に付けてほしい」と援川氏は語る。それでは、次の項目から実際のクレーム対策を見ていこう。

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