2025/03/18 特集

東京都で初のカスハラ防止条例が施行!飲食店が取るべき対応とは

2025年4月からカスハラ(カスタマー・ハラスメント)防止条例が施行される。悪質なクレームなどのカスハラに対して飲食店はどのような準備をして、発生後はどんな対応をすべきなのか。飲食店のカスハラ対策に詳しい弁護士にお話を伺った。

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生き生きと働ける職場環境のために、カスハラ対策を!

近年、社会問題になっているカスハラ(カスタマー・ハラスメント)。飲食店の現場でも不当・悪質なクレームによってお店が評判を落としたり、スタッフの離職につながるケースもあり、“働きやすい環境づくり”という観点でも軽視できない問題となっている。2025年4月1日には、東京都で全国初となるカスハラ防止条例が施行され、カスハラを一律禁止するだけでなく、企業にはカスハラを防止するために必要な体制の整備やカスハラを受けた就業者への配慮、カスハラ防止のための手引の作成などを求めている。

こうした機運の中、飲食店はカスハラに対してどのように対応していけばよいのだろうか。飲食店向けにカスハラ対策のセミナーなどを行っている弁護士法人グレイスの弁護士、杉原 悠介 氏と菅原 崇 氏に、カスハラの定義から事前にしておくべき準備、実際に問題が発生した場合の対処の流れなどを伺った。

今回、お話を伺ったのは・・・

弁護士法人グレイス 企業法務部 弁護士
杉原 悠介 氏(左)、菅原 崇 氏(右)


企業法務を専門とし、あらゆる業種の顧問先から寄せられる法的問題を数多く対応。
カスハラをはじめ、さまざまな経営問題に対し的確な対処方法を提案し、満足度の高い法務サービスを日々提供している。弁護士法人グレイスHP

目次
カスタマー・ハラスメント」の定義
カスハラが起こす「負のサイクル」とは?
2025年4月施行の東京都カスハラ防止条例の内容
カスハラ防止策のポイント
クレーム発生からの4ステップ

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「カスタマーハラスメント」の定義

ポイントは“要求の内容”と“手段・態様”

「カスタマー・ハラスメント」(以下、カスハラ)に正しく対処するためには、まずカスハラの定義を理解する必要がある。厚生労働省が2022年2月に発表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」とされている。

「ポイントは『要求の内容』と『手段・態様』」と菅原氏。「要求の内容が妥当性を欠くものであれば、どんなに丁寧に要求してもカスハラに当たり、逆に要求の内容が正当なものであっても、その手段が悪質な場合はカスハラ」と言う。

例えば、注文した料理と違う料理が出てきた場合、注文通りの料理にしてほしいというのは正当な要求。だが、それを暴力や暴言を用いて要求すればカスハラになる。一方、どんなに丁寧な態度でも、土下座を要求すればカスハラだ。

押さえておきたいのは「クレームとカスハラはイコールではない」ということ。「クレームの中には正当なものと不正なものがあります。不正の中には内容が不正なもの、手段が不正なもの、両方が不正なものがあり、それがカスハラです」(菅原氏)。いわゆる「悪質クレーム」と同義である。

正当なクレームは、サービス向上につながるなど有益な場合もある。「そうしたクレームまでカスハラと決めつけて排除すると、サービス向上の機会損失になるだけでなく、顧客の正当な権利を侵害することにもなりかねない」と、杉原氏は指摘する。

まとめ
1.カスハラの定義
「要求の内容の妥当性」と「要求の手段・態様」の両方またはいずれかが社会通念上不相当であり、労働者の就業環境を害するもの(厚生労働省)。

2.カスハラの判断基準
要求の内容が著しく不当 → どんなに丁寧でもカスハラ
要求の内容が正当でも、手段が悪質 → カスハラ

カスハラが起こす「負のサイクル」とは?

現場の萎縮・混乱がサービス低下や集客力ダウンを招く

では、今なぜ、カスハラが注目されているのだろう。「カスタマー・ハラスメントという言葉が生まれたのは2010年代前半ごろ」(菅原氏)。その前には悪質なクレーマーによる事件が数件あり、厚生労働省が企業にカスハラ対策を義務化する方針を打ち出したのは、2024年。現在、大企業を中心にカスハラ対策を打ち出す動きが広まっている。

背景にあるのは、カスハラが企業活動にもたらす「負のサイクル」だ。

飲食店の場合、まず顧客への影響がある。「カスハラ対応で時間と人手が取られたり、カスハラを受けた従業員が萎縮すると、サービスレベルの低下を起こす。また、店でカスハラを見たりSNSなどで知った客が来店を控える。結果、経営を圧迫し、さらなるサービスレベル低下につながります」と菅原氏。

加えて杉原氏は、店や企業への影響に触れ、「カスハラを受けた従業員が心身の健康を損ねて退職すると、それがお店(企業)のイメージ悪化につながって採用が困難になり人手不足を招きます。残った従業員に負荷がかかり、職場環境が悪化。働く人の意欲が低下しその能力を十分に発揮できなくなるのです」と語る。これが企業利益を大きく損ねるのは言うまでもない。カスハラへの対策は、セクシャルハラスメント(セクハラ)、パワーハラスメント(パワハラ)への対策と同様に、職場環境を守るために不可欠といえるだろう。

まとめ
カスハラによって飲食店が陥る「負のサイクル」
・カスハラ対応で時間と人手を取られる。
→従業員の萎縮によるサービスレベルの低下。
→SNSでなどでカスハラ事例が広まり、客足が減少。
→経営が圧迫され、さらなるサービス低下につながる。

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2025年4月施行の東京都カスハラ防止条例の内容

事業者が就業者をカスハラから守る義務を明記

こうした流れの中、東京都では2025年4月1日から「カスタマー・ハラスメント防止条例」が全国で初めて施行される。どんな内容なのだろうか。

まず、「あらゆる場においてカスハラを行ってはならない」とカスハラを一律で禁止するとともに、「顧客等の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」と、正当なクレームや顧客の表現の自由への配慮をのぞかせている点に特徴がある。

一方、罰則規定はない。そのため「この条例違反による制裁はなく、カスハラであるか否かの明確な線引きはありません」と菅原氏。同時に「東京都・顧客等・就業者・事業者の4者の責務を定めているところもポイントで、特に注目すべきは『事業者の責務』」と言う。

条例では事業者に「カスハラ防止に主体的かつ積極的に取り組むこと」(9条)、「就業者がカスハラを受けた場合は、速やかにその安全を確保して必要な措置を講ずること」(同)を求めている。さらに「カスハラを防止するために必要な体制の整備、カスハラを受けた就業者への配慮、カスハラ防止のための手引の作成その他の措置を講ずる」(14条)ことが明記されている。

「いずれも努力義務ですが、事業者には就業者をカスハラから守る義務があると明記された意味は大きい」と菅原氏。杉原氏も「事業者がカスハラについて現場任せにしてはいけないという根拠になる内容。つまり、飲食店などの事業者にとっては、カスハラなどに対して就業者を守る責務があるということを意識する必要があるといえます」と語る。

まとめ
東京都による全国初のカスハラ防止条例のポイント
1)カスハラの一律禁止と顧客の権利保護
2)条例違反による罰則はなし
3)4者(東京都・顧客等・就業者・事業者)の責務を明記

条例の意義
事業者には就業者をカスハラから守る義務があると明記。
カスハラ対策を現場任せにせず、事業者が責任を持つ必要がある。

カスハラ防止策のポイント

最重要ポイントは「職場環境を守ること」

では、店や企業はどこから取り組んだらいいのだろう。

「まずは、カスハラとクレームの線引きが必要」と菅原氏。「どんな事態が起こりうるかを一番よく知っているのは現場。その経験を土台にして、ここまではクレームとして対応し、それ以上はカスハラと判断する、という判断のよりどころとなるものを決めることが大切と語る。

留意したいのは「職場環境を守るため」という視点だ。「カスハラの中には、暴力・暴言、器物損壊など民事上の不法行為や刑事上の犯罪にあたる可能性がある場合がありますが、カスハラのすべてが犯罪というわけではありません」(菅原氏)。大事なのは犯罪ではなくても、「社会通念上不相当」で「労働環境を害する行為」であれば、カスハラとして対応しましょうというスタンス。この視点で、それぞれの現場に合った判断基準を作成することが大切だ。

まとめ
カスハラ対策のポイント
1.現場の経験をもとにカスハラと正当なクレームの線引きを明確にする。
2.「職場環境を守る」という視点を持つ。
3.業種・職場に合った判断基準を作り、従業員が判断しやすい環境を整える。

クレーム発生からの4ステップ

カスハラと認定したら毅然とした対応を

最後に、現場での具体的なカスハラ対応を、事案発生からの流れに沿って見ていこう。

菅原氏によると、
①初期対応
②対応策の決定
③相手との交渉
④カスハラ(悪質クレーム)対応への切り替え
のステップがあるという。

まずは、①初期対応。クレームが発生した時、そこには何らかの要求があり、多くの場合、不満感や怒りをまとっている。この段階では、まずは話を聞く。すぐにカスハラと決めつけずに、場合によっては「不快な思いをさせて申し訳ありません」など、怒りを鎮めるための対応が必要となる。ただし、こちら側に過失があったかどうかは確定していないので、それを認めるような謝罪は避けるべきだ。

次の②対応策の決定とは、クレームへの対応方法を決めること。そのためにはクレームの内容をよく聞き取る必要がある。対応したスタッフから話を聞いたり、異物混入の訴えなら必ず写真を撮るといったことも重要。その上で、自店用に作成したマニュアルに沿って、どういう対応をするかを決定する。

その決定に基づいて行うのが③相手との交渉。交渉が成立すればここで解決だが、相手が応じなかったり、要求や態様がエスカレートしたら、④カスハラとしての対応に切り替える。

「③までは、通常のクレームとして対応しますが、④になったら、これ以上は対応しませんと毅然として断ることが大事」と菅原氏。杉原氏も「マニュアル通りの対応だけでなく、一歩、相手に譲歩することで丸く収まるときは、それもいいでしょう。しかし、大幅な譲歩は避けるべき。一昔前は、なんとか客に納得してもらおうと、ひたすら謝り、大幅な譲歩をすることもあったでしょう。でも、しっかりとしたカスハラ対策を取ることで、理不尽な要求などに対して泣き寝入りせずに毅然と対応することができるはずです」と語る。

2025年の通常国会には、事業主にカスハラへの適切な対応を義務付ける法案が、厚生労働省から提出され、法制化される見通し。東京都以外の道府県でもカスハラに関する条例を制定する動きもでてきている。これを機会に、それぞれの職場でカスハラ対策に取り組み、生き生きした職場づくりを進めると良いだろう。

まとめ
カスハラ対応の流れ
①初期対応
②対応策の決定
③相手との交渉
④カスハラ(悪質クレーム)対応への切り替え

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