中国発 若者に人気!新スタイルの「老爸茶館」 前編

中国・海南島では、「老爸茶(ラオバーチャー)」というお茶文化がある。以前は「オヤジのたまり場」だった「老爸茶館」は、新しいスタイルを生み出し、今はでは人気スポットとなっている。

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Vol.67

中国最南端のリゾート地として知られる海南島は、ハワイと同じ緯度にあり、多くの旅行客が訪れる。2010年、中国政府の観光政策により「国際観光島」となったことで、さらに観光客が増えている。

そんな海南島には、「老爸茶(ラオバーチャー)」と呼ばれる独特の伝統的お茶文化が存在する。道端に置かれたテーブルと椅子に友人たちと集い、平日の昼間から一日中お茶とおやつを楽しむのだが、その場所となる「老爸茶館」は、いわば「オヤジのたまり場」だった。ところがその「老爸茶館」が新たなスタイルを生み出し、今では地元の女性や若者、観光客までをも集めている。 前編では、お茶やコーヒー以外の“オシャレな美容・健康ドリンク”を提供して人気を呼んでいる店と、現代的な店舗デザインやインテリアで話題のスポット、2つの事例を交えながら、最新「老爸茶館」の秘密に迫る。

海南島は中国最南端の高級リゾート地。海水浴も楽しめ、リゾートホテルの開発などが進んでいる
青空の下で、平日の午後にお茶を飲みながら友人とまったりと時を過ごす。ぜいたくな時間の使い方が海南島スタイル
開放感のあるオープンエアの席のある店も人気。木陰で椰子の実のジュースを楽しめば、気分が高まる

野菜や南国フルーツを使った「健康ドリンク」がブームの火付け役!

海南島は、富裕層の避寒地や、新婚旅行の場所としても有名だが、もともとは漁業が島の中心産業だった。未明から始まる漁を終えた男たちが、仲間と一緒に日中お茶を飲み、談笑するのが海南島の「老爸茶(ラオバーチャー)」文化の始まりだという。そのため、集まる「老爸茶館」は“オヤジ”ばかりだった。ところが最近は、この「老爸茶」が新たな進化を遂げ、流行に敏感な若者や女性たちの注目を集めている。

「一品味」では、若い女性グループが多く来店。おしゃれなドリンクを、思う存分おしゃべりをしながら楽しめることが人気

人気の理由として、伝統的な中国茶を出していた一般の「老爸茶館」に新たなメニューが増えたことにある。これにより今まで「オヤジのたまり場」だった店に女性や若者が増え始めたのだ。そんな店の代表が「一品味」(イーピンウェイ) 。同店のメニュー表を見ると、ドリンクの種類だけでも30種類以上もあり、選ぶのに苦労しそうなくらいだ。ドリンクの多くが南国のフルーツを使った「フレッシュドリンク」や「フレーバーティー」、ヘルシーな各種「健康茶」など、流行に敏感な若者たちの人気メニューとなっている。

特に女性に好まれているのが中国や東南アジアで採れる果実「ナツメ」と「竜眼(ムクロジ科の果実)」で作った美容茶「红枣龙眼茶(ホンザオロンイエンチャ)」(15元=約240円)だ。ナツメのさわやかな香りと竜眼のほどよい甘みが絶妙なコンビネーションとなっている。これらの果実はともに肌にいいといわれており、また「竜眼」は滋養のある生薬として古くから知られている。どちらも中国ではおなじみの果実で、漢方薬にも使われる。これを活かしておいしいジュースやお茶として提供していることが、“美容と健康”を日々心がけている若者たちに受け入れられた理由だ。

また、サトウキビと雪梨(中国梨の一種) で作った「养生甘蔗雪梨汁(ヤンシェンガンジャシュエリー)」も、小さく刻んだ梨がストローから口に入ってくるときの舌触りが、ほかのジュースにはない触感と、好評だ。サトウキビはアミノ酸を多く含み、ミネラルやビタミンも豊富。雪梨はカリウムが多く含まれる。美容や健康面に配慮した食材をフレーバーとしてメニューに加えるあたり、さすがは「漢方の国・中国」らしいアイデアであり、老爸茶館の最近の人気メニューとしてすっかり定着している。

女性に人気の美容茶「红枣龙眼茶」は、ほんのりとした甘さとさわやかな香り。ヘルシーさも女性を引きつける重要なポイント
サトウキビと雪梨で作られた「养生甘蔗雪梨汁」。中には細かく切られた梨が入っており、その食感が好評
SHOP DATA
一品味(イーピンウェイ)
海口市海甸四西路20号

昔ながらの「老爸茶館」から、オープンエアの明るく現代的な「大型カフェ」へ

最近の「老爸茶館」はどんどん大型化し、オープンエアのスペースを作り、開放感のある明るい店舗になってきているのも特徴の一つ。こうした店づくりは、古くからの「オヤジのたまり場」から、「人気スポット」へのイメージ転換には欠かせないポイントだ。

骑楼小吃街のオープンエアスペース。夕方になると、ここでBBQのメニューが楽しめる。さわやかな風を感じながらワイワイと過ごせることも人気の1つ

年間平均気温26℃の海南島は、海に囲まれていて心地よいそよ風が吹くため、日中30℃を超すような真夏日でも快適だ。この恵まれた気候を活かし、光と風を存分に取り入れたオープンエアタイプの店舗デザインを採用しているのが、「骑楼小吃街」(チーロウシャオチージエ)だ。2010年に開業した総面積1 .8万平方メートルもあるという大型店舗。3階建ての建物で、中に入ると観葉植物が整然と並ぶ中庭が広がる。そこはBBQスペースや、イベント用に使用できるステージも完備。店内は東南アジアのリゾートを思わせるようなデザインを意識し、生成り色の壁が広い青空によく映える。透き通る青空、さわやかな海風、椰子からの木漏れ日、オープンエアスペースの演出にこだわり、南国らしさが強調されている。

店舗デザインと同様、メニューも東南アジアをイメージしたドリンクを提供。例えば、亜熱帯特産の紫芋を使ったジュースは、芋の濃厚さがクセになると評判だ。また、熱帯フルーツのマンゴーと紅茶をブレンドしたドリンクは、フルーティーな甘さが魅力。そのほか、トウモロコシジュースも人気が高い。トウモロコシをまるごと搾り、しぼりカスもそのまま活かす。“豆乳のトウモロコシ版”と考えるとイメージが湧きやすいだろう。ザラっとした無骨な食感と、自然なままのほのかな甘みが楽しめる。都会的に洗練させるだけでなく、素朴な味わいも残したメニューのラインナップで、店のコンセプトが随所に反映されていることが、人気をキープし続けている理由といえる。

かつての大衆的な「オヤジのたまり場」から、「さわやかな人気スポット」へと見事に変貌を遂げた新感覚の「老爸茶館」。友人同士、家族、カップル、それぞれがゆるやかに流れる南国の時間を思い思いに楽しむのが、今のスタイルなのだ。

左から「蘭香子(薬草)ジュース」「紫芋ジュース」「マンゴーミルクティー」「バラヨーグルト」。様々なフレーバーがある一方で、素朴な味も好評
自然の味をそのまま活かしたトウモロコシジュース。ほんのりとした甘みと、トウモロコシを絞った粒が入り、ざらっとした口当たりが病みつきになるという
SHOP DATA
骑楼小吃街(チーロウシャオチージエ)
海南省海口市龙华区大同路2号

取材・文/林 由恵

※通貨レート 1元=約16円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。