イタリア発 流行の先端を行くアメリカンフード 前編

近年、アメリカンフードのカフェやレストラン、ベーカリーが、イタリア・ミラノで続々と見かけるように。今回はアメリカのベーカリーを踏襲し、ミラノっ子の間で話題となっている店をご紹介。

URLコピー

Vol.69

一昔前、イタリアでは食文化を語るうえで“論外”とまで言われていた「アメリカンフード」。ところが、近年ニューヨークを舞台に大ブレイクしたTVドラマに触発されて、ニューヨークにあるようなおしゃれなアメリカン・スタイルのカフェやレストラン、ベーカリーが、イタリア北西部のミラノの様々な場所で続々と見かけるようになってきた。前編では、アメリカのベーカリーを踏襲し、ミラノっ子の間で話題となっている店「カリフォルニア・ベーカリー」と「ザ・ベーグル・ファクトリー」にスポットを当て、その人気の秘訣を探りながら、最先端の「アメリカンフード」がどのようにミラノっ子達に浸透しているのか、その現状をリポートする。

ミラノ中央市役所のほぼ向かい側にある、アメリカンフードの店「カリフォルニア・ベーカリー」。アメリカンスイーツが並び、スタイリッシュでおしゃれな空間だ
本場アメリカのベーグルを売る店も登場。ショーケース、冷蔵庫、オーブンまで、ニューヨークから直輸入したものを使っている
ボリュームのあるテイクアウトのベーグルサンドも人気。ベーグルを箱に入れて提供する

ミラノっ子に大人気のアメリカン・ベーカリー

イタリアでランチと言えば、パニーノやピザ、パスタがメインで、そのほか、サラダやピアディーナ(無醗酵の平焼きのパン。ハムや野菜などの具材を挟んだり、巻いたりして食べる)を合わせるのが一般的。つまり、近年までイタリアでは、ランチにパンケーキやサンドイッチ、オープンサンド、ベーグルなどを食べる習慣はほとんどなかったといっていい。その習慣を打ち破ったのが、マーケティング・ディレクターのマルコ・ダリゴ氏が手がける人気の店「カリフォルニア・ベーカリー」(California Bakery)と「ザ・ベーグル・ファクトリー」(The Bagel Factory)だ。これらの店のメニューには、イタリアの普通のパスタなどは存在しない。また、デザートのお菓子もチーズケーキやレイヤーケーキ(スポンジケーキとクリームを重ねたケーキのこと。日本のショートケーキがこれに当たる)といった、今までイタリアには無かったアメリカン・スイーツばかりだ。

「カリフォルニア・ベーカリー」の店内。店舗の天井に吊るされた数多くのバスケットは、同店のトレードマーク。カウンターにはアメリカから直輸入したアンティークを使っている

ミラノ在住のマルコ・ダリゴ氏は、毎朝小さなアメリカン・カフェに通っていた。ところが1996年、そこのオーナーがアメリカへ帰国の途に就くことになった。そこで、マルコ氏はその店を引き継ごうと一大決心し、「アメリカン・カフェをやるなら」と、3年間本場アメリカのベーカリーで修業。その後、ミラノに戻ってきたマルコ氏はその経験をもとに、1999年、ミラノの中心部の繁華街に小さなアメリカン・カフェ「カリフォルニア・ベーカリー」を開業した。

メニューはベーグルやサンドイッチ、ハンバーガー、パンケーキ、チーズケーキなどで、ラインナップは、まさにアメリカのベーカリーカフェそのもの。パニーノやピザが主流だったミラノでは、非常に珍しい存在だった。そして、アメリカのTVドラマ「セックス&ザ・シティ」や「the OC」「ゴシップガール」などがイタリア国内で流行り、アメリカの若い女性のライフスタイルが注目されることに。すると、ドラマの中で出てきたパンケーキやブランチの習慣、サワークリームのケーキ、チーズケーキなどが人気となり、「カリフォルニア・ベーカリー」は一躍人気店となった。現在では、ミラノ市内に10店舗と、料理教室のスペースを持つまでに成長。若者から年配の人まで来店し、どこの店舗でもランチタイムは行列ができるほどの混雑ぶりだ。

また、「カリフォルニア・ベーカリー」では、ミラノ郊外にある自社のフード・センターで下準備された食材を、毎朝、トラックでミラノ市内の各店舗に配送するシステムを採用。そのため、どこの店舗も大がかりな厨房を持つ必要がなく、その分、客席を多く配置できる。料金はランチタイムで15~20ユーロ(約2,080~2,780円)程度と、普通のバールのランチに比べると、少し高めの設定だ。「確かに料金は少し高いけど、スタッフは親切だし、料理は普通のバールよりは、はるかにおいしいわ。週に1度ぐらいの利用なら高いとは思わない」と、20代の女性。「カリフォルニア・ベーカリー」はどの店舗もテラス席での週末のブランチは、1カ月前でも予約困難なほど人気となっている。

ランチ・タイムにおすすめの1品「サーモン・パンケーキ」。サーモンとクリーム・チーズの相性が抜群
定番の「チーズケーキ」。ソースは苺、プルーンなど4種類、サイズもレギュラーとスモールから選べる
SHOP DATA
カリフォルニア・ベーカリー(California Bakery)
Viale Premuda 44, 20129 Milano
http://www.californiabakery.it/

本場アメリカのベーグルを採用したベーグル専門店が登場

「カリフォルニア・ベーカリー」はさらなる進化を見せる。マルコ・ダリゴ氏とともに「カリフォルニア・ベーカリー」を共同経営するカロリーヌ・デンティ氏は、「ベーグルをもっと本場アメリカの味に近づけたいと考えるようになり、“本物のベーグル探しの旅”をするべく、ニューヨークに渡りました。そこで出合ったのが、ニューヨーク・ブルックリンにある『ザ・ベーグル・ファクトリー』でした」と話す。そして、何と彼らはすぐにその場で、そこのオーナーに直談判。「カリフォルニア・ベーカリー」のシェフを、「ザ・ベーグル・ファクトリー」で4カ月間修業させてもらう契約を交わす。そのシェフの研修期間中に、「これだけのノウハウを教えてもらったなら、ベーグル専門店を立ち上げよう」ということとなり、2011年ミラノにベーグル専門店「ザ・ベーグル・ファクトリー」をオープンさせた。

「ザ・ベーグル・ファクトリー」の店内。棚いっぱいに複数種類のベーグルが並ぶ

ベーグルは、もともとはユダヤ人が食べていたパンで、17世紀に誕生したといわれている。1950年頃、多くのユダヤ人がアメリカに渡ったが、当時は自分たちの子孫にだけ正統なベーグルを伝えたいとベーグル職人を300人程度に抑えて規制をしていた。だが、1970年代にはその自主規制を撤廃。すると、一般の人にもベーグルが知られるようになり、1980年代にはニューヨークで人気が出て、ニューヨーク名物の1つとなった。「ザ・ベーグル・ファクトリー」のベーグルは、現在も400年の歴史を持つレシピで作られており、ミラノの「ザ・ベーグル・ファクトリー」も同じレシピを踏襲。まさに本場のベーグルなのだ。

メニューはニューヨークの「ザ・ベーグル・ファクトリー」と同じで、定番サンド10種類のほか、15種のベーグルと、50種の具材の中から好きな物が選べる、チョイス・サンドタイプも提供。また、店内は窓際に4~6席のカウンター席があるのみで、来店客のほとんどはテイクアウトで購入する。

「パニーノ」(イタリアのパンのサンドウィッチ)で育って来たイタリア人には、馴染みの薄いベーグル。確かにサンドの中身はかなり「パニーノ」に近い。だが最近、渡米するイタリア人が増え、“憧れの地”として人気があることや、アメリカのTVドラマの影響により、「パニーノよりおしゃれなベーグル」という流れが生まれ、若者を中心に人気を得た。

「ザ・ベーグル・ファクトリー」は、現在、ミラノ市内に3店舗を展開。「パニーノ」に打ち勝って出店を増やせるのかどうかが、今後のミラノの「食」の流行をチェックするうえで、重要なポイントになりそうだ。

ハンバーガーにローズマリーの香りがたまらない「バーガー・ベーグル」
「カリフォルニア・ベーカリー」と「ザ・ベーグル・ファクトリー」両店のオーナーである、マルコ・ダリゴ氏(左)とカロリーヌ・デンティ氏(右)
SHOP DATA
ザ・ベーグル・ファクトリー(The Bagel Factory)
Corso di Porta Vittoria 46, 20122 Milano
http://www.thebagelfactory.it

取材・文/山口けいと

※通貨レート 1ユーロ=約138.8円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。