アメリカ発 新メニューの登場でタコスが進化! 前編

ストリートフードの代表格の1つである「タコス」。近年のロサンゼルスでは健康志向の人たちが増え料理への高級志向も高まりつつあり、タコスにも様々な新メニューが登場して話題を呼んでいる。

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Vol.79

ハンバーガーやホットドッグと並び、立ち食いもできるお手頃なストリートフードの代表格とされるのがメキシコ料理の「タコス」。通常はビーフやチキン、魚に、刻んだレタス、トマト、チーズといった定番の食材が使われ、ジャンクフードをこよなく愛するアメリカ人に大人気だ。ところが近年のロサンゼルスでは、ハリウッドセレブをはじめ、健康志向の人たちが増えるとともに、料理への高級志向も高まりつつある。そうした背景から、タコスにも様々な新メニューが登場し、話題を呼んでいる。前編では、新たなタコスメニューの人気の背景とバラエティ豊かなメニューで成功した話題の店にスポットを当てる。

通常のタコスでは、牛や豚を使うのが主流だが、鴨などを使ったり、食材にこだわったタコスが人気に
様々な人種が住まうロサンゼルスの土地柄を反映した、各国の料理をアレンジした個性派タコスも登場
メキシコ料理を提供していても、店内はシンプルかつ、スタイリッシュな店も

14種類ものバラエティに富んだタコスで、差別化に成功!

ロサンゼルス市内の映画撮影スタジオや制作会社が集まるエリアの近くに2009年オープンした、メキシコ料理店「カカオ・メキシカテッセン」(Cacao Mexicatessen)。映画関係者はもちろん、ミュージシャンやアーティストにも人気で、「ロサンゼルス・タイムズ」紙のレストラン評論家ジョナサン・ゴールド氏が選ぶ「101軒のベストレストラン」に選ばれるなど、数々のメディアでも紹介されており、話題を呼んでいる。同店のコンセプトは「個性のある素材を使い、自家製にもこだわって、これまでにないタコスを提供すること」と、経営者のアンドリュー・ルハン氏は語る。

鴨のコンフィを使ったタコス「カーニタス・デ・パト」が一番人気。中の具にこだわり、他店との差別化を図った

その言葉どおり、通常のレストランではタコスの種類は3、4種程度が一般的だが、同店では14種類を提供する。そのラインナップは、アンガスビーフの燻製を使用した「カルネ・アサダ・アフマド」など、肉類のタコスを8種類、揚げたフエダイを使った「フィッシュ・タコ・デ・エンセナダ」(エンセナダ風魚のタコス。エンセナダは地名)などの魚介類を使ったタコス2種類、高級レストランでも使われる注目の食材マイクログリーン(種植えから2週間程度で収穫される野菜やハーブ)やキノコのガーリックソース・ソテーを入れた「オンゴス・アル・モホ」など、野菜を使ったタコスが3種類。ここに、週替わりのタコスが1種類加わる。

一番人気は、鴨のコンフィを使った「カーニタス・デ・パト」(4.25ドル=約500円)だ。「肉のフレークを指す“カーニタス”には豚肉を使うのが一般的ですが、鴨を柔らかくなるまで煮込んで使用しています。最初はお客様も半信半疑で食べていましたが、今ではジューシーさが好評です」と、マネージャーのフランク・コリア氏。直径約10センチの自家製タコス生地の上に、鴨のコンフィ、酢漬けの赤たまねぎ、ハツカダイコン、アボガドの順に重ねていき、自家製チリオイルを上からふりかける。使用する素材は研究を重ねて鴨に合うものを選んだという。

また、カフェからスタートした店でもあるため、ドリンクはチョコレートドリンク「アブリタス・モカ」(4.95ドル=約580円)が不動の人気だ。タコス以外のメニューでもパクチー、ライム、チミチュリソース(パセリとニンニクのみじん切りをオリーブオイルと酢で和え、唐辛子を加えたソース)をかけて食べるウェットエイジング(乾燥させずに熟成させること)の「アンガスビーフの腹身ステーキ」など、13種類のメニューを用意。素材にこだわったオリジナリティあふれるタコスと、バラエティに富んだメニューが成功の秘訣といえる。

グエロというチリ、エビ、ネギのフリットをのせ、アイオリソースと唐辛子醤油ソースなどで仕上げたタコス「チリグエロ・デ・バハ」もオリジナルメニューだ
「アットホームな店づくりを心がけており、居心地のよさも常連の方に好評です」と語るマネージャーのフランク・コリア氏
SHOP DATA
カカオ・メキシカテッセン(Cacao Mexicatessen)
1576 Colorado Blvd., Eagle Rock, CA 90041
http://www.cacaodeli.com/

各国の料理をアレンジした個性的なタコスで人気店に!

約140カ国の人々が居住し“人種のサラダボール”の異名を持つロサンゼルスの特徴を活かしたレストランが、「komodo」(コモド)。2011年にハリウッドの近くにオープンし、「ロサンゼルスタイムズ」紙やトレンド誌「Sunset」など数々のメディアで紹介されている人気店だ。総料理長のアーウィン・チャヤディ氏のほか4人で経営する同店のコンセプトは、「アジア料理を中心とする食の融合」だ。

「コモド」のタコスのなかで一番人気の「アジアン・マリネ・チキン」。甘ずっぱいオレンジとハラペーニョのピリ辛が絶妙なコンビネーションを生んでいる

チャヤディ氏は、アメリカのレストランガイド「ザガットサーベイ」の30代以下の起業家&シェフ部門の賞に最近ノミネートされたばかり。ヒスパニック系の人口が主流を占める東ロサンゼルスで、インドネシア人の両親のもとで育ったチャヤディ氏は、インドネシアのほか、メキシコの文化にも影響を受ける。そして、料理の名門校として知られる「ル・コルドン・ブルー」でフランス料理を学び、フレンチレストランのシェフとして従事。これらの経験が店のコンセプトのもととなっているのだ。

チャヤディ氏が考案したタコスは12種類。イタリアや中国、シンガポール、インドネシアなどの各国料理をタコスでアレンジしている。そのなかでも一番人気は「アジアン・マリネ・チキン」。甘みのあるオレンジでマリネにしたチキンに、テリヤキソース、ゴマ油、インドネシアのスイートソースを調合したソースをかけて焼き、ハラペーニョでピリ辛にしたメキシコ風焼き飯を乗せ、マンダリンオレンジを上に飾る。「アジア諸国とメキシコの食材はとてもよくマッチして、様々な人種の人にも喜ばれていますね」とチャヤディ氏。2番目に人気のタコスは、ハワイのロコモコをヒントに作った「ロコモド」。放牧飼育の高級アンガスビーフで作ったパティに、パイナップルを加えたテリヤキソースで味付け。その上にウズラの卵の目玉焼きを乗せている。「パイナップルの甘みが受けているようですね」とチャヤディ氏。

タコスと一緒に大半の来店客がオーダーするのが、ライチレモネードなどの自家製ドリンク(2.75ドル=約320円)だ。タコス以外に季節の白身魚を使った料理など24種類のメニューを用意し、常連客を飽きさせない。

全米レストラン協会が毎年約1,300人のシェフにトレンドを調査する「What's Hot」(2014年)でも、「タコスなどのストリートフードをメインコースに取り入れること」がトレンドの1つに選ばれている。タコスを含め、ストリートフードは今後もさらなる成長が期待される。

タコスは、1つならどれでも3ドル(約350円)、4つで10ドル(約1,170円)というリーズナブルな価格設定も人気の理由だ
「komodo」の4人の共同経営者。(左から)エリック・チャヤディ氏、トーマス・チョイ氏、アーウィン・チャヤディ氏、マイク・チョー氏
SHOP DATA
komodo(コモド)
8809 West Pico Blvd, Los Angeles, CA 90034
310.246.5153
http://komodofood.com/

取材・文/大山真理

※通貨レート 1ドル=約117円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。