スペイン発 軽食と一線を画すブランチがブーム 前編

1日5食という独特の食文化を持つスペイン。だが最近、午前の軽食と昼食を兼ねた「ブランチ」がブームに。前編では、スペインのバレンシアでブームの先駆けとなった2店にスポットを当てる。

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Vol.89

スペインでは朝食、11時前後のアルムエルソ(軽食)、14~16時の長い昼食、19時前後のメリエンダ(軽食)、21~22時の夕食と、1日5食という独特の食文化を持っている。だが最近、午前中の軽食と昼食を兼ねた「ブランチ」がにわかにブームになっている。前編では、スペイン東部の都市バレンシアでブームの先駆けとなった2店舗にスポットを当て、それぞれの店のメニューや工夫を紹介しながら、ブームに火が付いた「ブランチ」の最前線をリポートする。

バレンシアでは2012年にブランチを提供する店が出始め、2014年ごろからその言葉が浸透してきた。ヘルシー志向の波からブームになったブランチといえども、ボリュームはしっかり
外の空気を感じながら、ゆっくりブランチを楽しむ姿も。若い層だけでなく、子供連れで来店する人も多いほか、シニア層にも支持されている
ブランチメニューを月1回や週1回で提供する店は多いが、毎日ブランチメニューを用意することで人気になった店も。リーズナブルに楽しめることもポイントの1つ

ビーチ沿いの好立地! 豊富なヘルシーメニューで話題に

スペイン人が昼食前の11時頃に食べる「アルムエルソ(軽食)」の定番メニューは、「ボカディージョ」と呼ばれるスペイン風バゲットサンド。中にはさむ具は厚切りトルティージャ(スペイン風オムレツ)や生ハム、サラミ、アンチョビとオリーブ、イカリングなど多種多様ながら、近年では若い女性を中心にボカディージョ以外のメニューを求める人が急増。また、ボリュームの多い軽食と昼食を別々にとる代わりに、ブランチ1食で“ライトに”済ませたいと考えるヘルシー志向の人も増えてきた。これがブランチブームに火がついた理由だ。

一番人気の「イングリッシュ」(9ユーロ=約1,150円)。その名のとおり英国の朝食がベース。バレンシアでは珍しいメニューとして人気が定着している

バレンシアでブランチメニューを提供する店の先がけとなり、現在でも不動の人気を誇っているのが、2012年7月にオープンした「ラ・マス・ボニータ」(La Más Bonita)。場所は、パタコナビーチ沿いの閑静な住宅地アルボラヤ地区。 店内はビーチが眺められるソファ席、おしゃれなインテリアに囲まれたテーブル席、子ども用の遊具があるテラス席と3つに分かれる。スタイリッシュな空間で質の高い食事やスイーツが楽しめる店として、オープン当初から話題が尽きない。

ブランチメニューは、ヨーグルトと果物入りのグラノーラに、ターキーハム、フレッシュチーズ、トマトがのったオープンサンド付きの「食物繊維豊富セット」(9ユーロ=約1,150円)や、ナッツ・レーズン入りのオートミールに季節の果物サラダが付いた「ポリッジ」(10ユーロ=約1,280円)、卵焼きやチョリソー、モルシージャ(豚の血入りのソーセージ)、焼きトマトにポテトとパンが付いた「オブレロ」(労働者という意味。12ユーロ=約1,540円)など、複数そろえる。

一番人気は、「イングリッシュ」(9ユーロ=約1,150円)で、ハムエッグ、ロンガニサ(ドライソーセージ)、ベイクドビーンズ、ポテト、焼きトマトに、トーストとシリアルがセットになっている。これらのブランチメニューは12時半~16時まで提供。ボカディージョの相場が5ユーロ(約640円)くらいのため、値段は少し張るが、ランチを兼ねていると思えば高くはなく、バラエティあふれるメニューで若い女性の心をとらえた。

そのほか、焼き立てのパン各種、手作りのケーキやマフィン、キッシュ、手打ちパスタ、季節の果物を絞ったジュースなども提供。自家製のジャムやミューズリー(オートミールや穀物、ドライフルーツを混ぜたシリアル)や、オーガニックコーヒー、ワインをそろえているのも人気の理由だ。10~50代の幅広い客層から支持を得ている。

地中海に面したロケーションも魅力。平日は20~40代の女性や子連れママ、老夫婦、サイクリング中のカップルなどが多く来店し、週末は家族連れが目立つ
かぼちゃ入りチーズケーキやチョコレートケーキ、キャロットケーキ、ココナッツ・パイナップルケーキなど、自家製のケーキも人気(1切れ4.5~5.5ユーロ=約580~700円)
SHOP DATA
ラ・マス・ボニータ(La Más Bonita)
Paseo Maritimo de la patacona 11
46120 Alboraya, Valencia
http://www.lamasbonita.es/

週代わりのブランチメニューをリーズナブルに提供し、大好評!

バレンシアでは、2014年からブランチメニューを提供するベーカリーやカフェテリアが増えたが、月に1回や、週末・休日だけの限定メニューとして提供するというかたちが一般的。その一方で、毎日ブランチメニューを用意し、人気店となっているのが2012年9月にオープンしたカフェ「ドゥルセ・デ・レチェ・ルサファ」(Dulce de leche Ruzafa)だ。近年、バルやカフェが次々と出店している下町エリアのルサファ地区にある。

この日のメインはナス、クリームチーズ、フムス(ひよこ豆のペースト)、トマト、バジルをのせたブルスケッタ。このボリュームで5ユーロとあって、人気を呼んでいる

オーナーはスペイン出身のハビエル・フェレール氏と、アルゼンチン出身のアナ・ランフランコ氏の夫婦。「スペインに来て、遅く起きた日曜日に食べる軽食がバゲットサンドの『ボカディージョ』しかないことを残念に思い、同時にチャンスだと思いました」と語るアナ氏。さらに、「既存のアルムエルソとは一線を画すメニューを提供したかった」とも話す。そこで、週末にブランチメニューを始めたところ、若い女性の間で大人気となり、平日も提供することにした。

ブランチメニューは、週代わりのメイン料理に焼き立てのミニクロワッサン2つと、ドリンクのセット(5ユーロ=約640円)の1種のみ。プラス1ユーロで、ミューズリー(シリアルの一種)と果物入りヨーグルトを追加できる。パンは毎日、店の工房で手作りし、ミューズリーも自家製。セットドリンクで提供するコーヒーや緑茶は有機栽培のものを使用する。

メイン料理は、ハム、トマト、ルッコラ、紫タマネギ、特製ソースを挟んだベーグルや、ズッキーニ、赤ピーマン、バーベキューソース入りのケサディーヤ(トルティーヤに様々な具材を挟んで焼いたもの)、全粒小麦パンにサーモン、クリームチーズ、ホウレン草、スクランブルエッグを挟んだサンドイッチなど。ベーグルやケサディーヤなど、スペインでは珍しいメニューを意欲的に取り入れている。

人気の理由は素材の質の高さはもちろん、その価格設定にもある。スペインで朝食をとると平均2.5ユーロ(約320円)、ランチでは8~15ユーロ(約1,020~1,920円)のメニューが多いなか、同店のブランチはこのボリュームで5ユーロ(約640円)と破格。「毎日1種類のみにしぼって提供することで、この価格を実現できました」とアナ氏。そのほかスイーツもあり、マフィン(1.6ユーロ=約200円)や、ブラウニー、バナナブレッド、チーズケーキ(各種3~4ユーロ=約380~510円)、自慢の自家製ドゥルセ・デ・レチェ(キャラメルのクリーム。瓶詰めで3ユーロ=約380円)なども並ぶ。

ブランチメニューは9時半~15時半まで提供。洗練された雰囲気の店内では、平日はブランチメニューを片手にPCで仕事をするビジネス層も多い。週末は10~50代の男女で賑わっている。

別の週のブランチメニュー。メインはハム、トマト、チーズ、ゆで卵、レタス入りの3段サンドウィッチ。ミューズリーと果物入りヨーグルトを追加する人も多い
今年3月からメニューに取り入れた有機緑茶(ホットまたはアイスで提供)。甘くして飲みたい場合は、カロリーゼロの自然派甘味料「ステビア」が付く
SHOP DATA
デュルセ・デ・レチェ・ルサファ(Dulce de Leche Ruzafa)
Calle Pintor Alberto Gisbert, 2,
46006 València, Valencia
https://www.facebook.com/DulceDeLecheRuzafa

取材・文/ボッティング大田朋子

※通貨レート 1ユーロ=約128円

※価格、営業時間は取材時のものです。予告なく変更される場合がありますのでご注意ください。